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Letter from Editing room (Sep issue 2023)

31 Aug 2023

 


 私が思わず足を止めて見入ってしまうもののひとつに、「空の景色」があります。


 ここシンガポールに来て初めて見た三日月は、ニコッと笑った天真爛漫な子供の口の形のように見えたものです。三日月といえば、斜めに傾いたあの形が染みついていた私にとっては新鮮そのもので、三日月が近づくたびに夜空のそれを探しています。


 私が住んだシンガポールで初めての住まいは、眼前に港が大きく広がる12階の部屋でした。私にとっては超高層階のその部屋は、西向きの、正に夕焼けを眺めるには絶好の部屋でした。その空の姿を記憶に収めるために、何度シャッターを切ったことでしょう。大きく膨らんだ太陽は、橙色から茜色へと姿を変えていく空や、その下に横たわる人々が作った数々のものを包みながら、ゆっくりと私の視界から去っていきました。


 現在は、東に向いた大きな窓を持つ部屋に住んでいます。休日になると、その窓の近くに座り、空が茜色からだんだん薄青に明るさを増していくのを眺めます。窓から見える遠くの木々の形や枝にとまる鳥の姿さえ、その存在がはっきりシルエットとなって見えるのです。日の出前のその瞬間は、一日の始まりを優しい気持ちにさせてくれる魔法の力をもっています。


 抜けるような青空が、活気のあるシンガポールにはとても似合っているのでしょう。でも私は、いつか日本に帰国してこの国を思い出した時、間違いなくこの国で見つめた空の色や、月の形や、太陽が後ろから照らしたもののシルエットなどが見える「空の景色」が、大きく思い描かれるのではないかと感じています。


(編集部 ルイーズきよ子)

 Letter from Editing room (Sep issue 2023)