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New museum walk Olafur Eliasson YOUR CURIOUS JOURNEY(Aug issue 2024)

01 Aug 2024

 


新ミュージアム散歩


Olafur Eliasson YOUR CURIOUS JOURNEY


10 MAY – 22 SEP. 2024


シンガポール美術館(SAMat Tanjong Pagar Distripark


 未知の世界への扉を開け、新たな驚きと感動の発見ができるオラファー・エリアソンの巡回展『YOUR CURIOUS JOURNEYが、シンガポール美術館(SAM)を世界初の出発地として開催されています。今回はその一部をご紹介。あなたの想像力を刺激するCURIOUS JOURNEYに、さあ出発しましょう。


 


アーティスト:オラファー・エリアソン


 麻布台ヒルズギャラリーでのこけら落とし展示や、金沢21世紀美術館、東京都現代美術館でも個展を開催するなど、日本でも脚光を浴びるアーティスト。アイスランド系デンマーク人であり、幼少期から両親の出身国であるアイスランドの大自然に触れて育った彼は、自然の驚異に触発され、自然の美しさや知覚の奥深さについて考えさせられる作品を多く世に送り出しています。


 彼の作品は単なる美的な楽しみだけでなく、私たちの考え方や行動に影響を与える可能性を秘めています。例えば、氷河をモチーフにした作品では、地球温暖化の現実を視覚的に示し、観客に深い印象を残します。彼の作品を通じて、私たちは自然の美しさや複雑さを再発見し、同時に私たちの行動が環境や社会に与える影響について考えさせられます。とはいえ、難しく考えることはありません。大人も子供も楽しめる独創的で魅力的な作品が沢山待っていますよ。


Beauty ビューティー


 暗闇に足を踏み入れると、スポットライトに照らされた微かな霧が見えます。特定の角度から見ると、光のプリズム反射が現れ、美しさを象徴する輝かしい虹が姿を現します。水が絶え間なく流れる中、観客が位置や目の高さを変えたり、霧をくぐり抜けたりすることにより、この虹の姿は変化します。光が水滴に触れるたび、屈折・反射により新しい虹が生まれます。私たちは同じ作品を見ていながらも他の人と全く同じ虹を見ることはできないのです。また、この作品はただ美しいだけでなく、ちょっとした哲学的な問いかけも含まれています。“虹が存在するのは、光と水の相互作用の結果なのか、それとも私たちの目で見るから存在するのか”この作品の重要な要素は光と観客の目、両方なのです。この作品を見ると、知覚の不思議さや見る楽しさを改めて感じることができます。


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Multiple shadow house 複数の影の家


 まるで楽しいおもちゃ箱のような、色とりどりの舞台に迷い込んだような感覚が味わえる作品。そこには、それぞれ異なる色合いで照らされた3つの部屋があり、私たちが部屋に入ると、投影スクリーンにその姿が大きな影になって現れます。これがなんとも面白くて、影が動く様子をもっと見たくて、私たちは思わず色々な動きを試してしまうのです。どう動いたら、影がどう動くのか。シルエットはこの部屋の外からも見えるため、その様子が、まるで舞台で繰り広げられる影絵のようです。


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Yellow corridor 黄色の廊下


 1997年以降、これまで5回の個展で展示されている代表作のひとつ。黄色い単一周波の光が廊下を照らしており、私たちが美術館に入ったときに最初に目にする作品です。通常はギャラリー同士を接続する役割を果たす廊下ですが、エリアソンはこの場所を「感覚的な体験ができる場所」に変えました。この光の下では空間にあるものすべてを灰色の世界に変えてしまいます。屋外から差し込む自然の光や美術館内の照明と、作品自体の黄色い光が段階的に重なり、私たちの目には普段とは異なる色彩が広がり、視覚的な新しい体験を提供してくれるでしょう。エリアソンは、作品を通じて何かを伝えるのではなく、私たちが作品を体験して何を感じるかを大切にしています。


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Object defined by activity (then)  動きが決める物のかたち(それから)


 暗闇の中、まるで水がダンスを踊っているような作品です。絶え間なく点滅し続けるストロボライトによって照らされる水、その瞬くような光では、水が絶えず変化する姿を、私たちは一瞬しか捉えることができません。流れる水の心地よい音に耳を傾けながら、それとは相反する作品のスピード感、そして鮮やかなライトが、水の動きを小さな断片に切り分け、その姿はまるでクリスタルのような輝きを放ちます。


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Ventilator ベンチレーター


 なんと大胆にも天井から吊り下げられた扇風機が主役の作品です。説明がなければ、これがアート作品だとは思わないでしょう。扇風機の羽根が回転するたびに、空気が踊り、扇風機そのものがブンブン動き、ギャラリー内の空気を循環させます。見ているだけで楽しくなるほど不規則で予測不可能な動き、不思議な揺れ方をしています。シンプルな構造から生まれるこの作品は、空気のように目に見えない要素をどのように知覚させるかを探求している、遊び心に満ちた作品です。


Circumstellar Resonator 星を取り巻く共鳴器


 まるで惑星の軌道のような光の輪が作り出されている作品です。パッとと見ただけでは壁に円が描いてあるだけの作品のように思えますが、実は壁には何も描かれておらず、私たちが見ている光景は光の効果で現れているだけなのです。音と同じく波の性質を持つ光。その波形が同じものを重ねると、より大きな波になる「共鳴」。この作品は、灯台で使用されるフレネルレンズの原理に基づいており、レンズを通過した光が、奥の壁に届いたとき、中心から広がる複数のリングが現れます。これは、まるで宇宙のエネルギーが地球に舞い降りたかような不思議な光景。科学と美学が融合したこの作品は、エリアソンの遊び心と創造力が詰まった作品です。


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The cubic structural evolution project, 2004


 まるで建築家になった気分で遊べる楽しい作品です。こちらはシンガポールでしか見られない作品です。


 白いレゴブロックが山のように積まれた長テーブルの上に、高層ビルや船など想像力豊かなレゴの作品が並んでいます。その光景は、窓の外に広がるコンテナターミナルの景色とリンクしています。この展示が始まった頃には、こんなに沢山の作品はありませんでしたが、今では沢山の独創的な形のレゴが並んでいます。私たちはここにあるレゴを使って、建物を追加したり自由に形を変えたりすることができ、この作品に参加することができるのです。この作品は決して最終形態を持たず、私たちの活発な参加とアイデアや創造力によって完成形になります。観客は単なる鑑賞者ではなく作品創造のプロセスに参加するのです。だから、思いっきり楽しんで自分だけの建造物を作ってみてください。あなたのアイデアがこの作品をもっと素晴らしいものにしてくれるはずです。


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Symbiotic seeing 共生的な光景


 3階にあるGallery3をまるごと使った大きな作品です。一歩部屋に入ると、そこに広がるのは、星空?宇宙?それとも海?とも思える、まるで別世界に迷い込んだような感覚を味わえる作品です。巡回展の一部でありながら、シンガポールだけでしか見られないこの作品では、まさに特別な体験が待っています。部屋の天井は、一見すると平らで平面のようにも見えますが、近くでよく見ると、微小なキラキラや渦巻きが見え、液体のような表面であることがわかります。二色のレーザーライトが定期的に放出される霧と相まって、幻想的な効果を生み出しています。時折星のように見えるキラキラしたものが一体何なのかは、ぜひガイドツアーで聞いてみてください。また、幻想的な光と影が織りなす空間で、自分自身と向き合い、心を静める時間を過ごしても良いかも知れません。ぜひ、この作品に触れて、新たな驚きと感動を見つけてください。


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タンジョンパガーディストリパーク


SAMでは、ご紹介した作品の他にも、新作を含む合計17点の作品を見ることができます。見る人を魅了し、驚かせ、そして笑顔にするエリアソンの世界は、非日常を味わえる冒険と驚きに満ちた場所です。彼の作品を体験すると、きっと新たな発見が待っていることでしょう。SAM以外にも沢山の民間のギャラリーがあり、シンガポールの新たなアートの聖地として脚光を浴びつつあるタンジョンパガーディストリパーク。開催期間中の土日祝には、ハーバーフロント駅から無料のシャトルバスも出ていますので、ぜひ、この機会にその魅力的な世界を体験しに来てください。 


 


文責・写真 ミュージアム日本語ガイドグループ 横井えり


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