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Shining mimosa star The 13th FOM Singapore Japanese Guide Group Ms Fushimi Ikumi and Ms Kujime Toshiko (Feb issue 2024)

31 Jan 2024

 


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 膨大な英語の資料を読み込んで、噛み砕いてから、自分の言葉でガイド原稿を作成します。この作業がとても大変で、やっている時は苦しいのですが、やりがいがあると感じています。(伏見さん)


 


 楽しい作業であるけれど、苦しい作業でもあります。行きついたところに達成感がありますね。(鬮目さん)


 


シンガポール国立博物館・アジア文明博物館・プラナカン博物館・シンガポール美術館タンジョンパガー・ディストリパークで日本語ボランティアガイドをされている、伏見さんと鬮目さんにインタビューを行いました。


(取材日:2023年12月16日)


聞き手
シンガポール日本人学校中学部教諭 小松原英莉、小松真奈美、元持成美


 


お二人のプロフィールを教えてください。


伏見さん 私は、来星する以前は、イギリスに18年ほど住んでいました。主人がシンガポール人で、アジアに住む家族と一緒に時間を過ごすために、2011年3月にシンガポールに移住しました。ガイド歴は、日本語ガイドと英語ガイドを含めて10年ほどです。


鬮目さん 私は、2013年に来星し、入会は、2018年4月です。入会までの間、シンガポールで出産し、子育てをする中でモンテッソーリ教育に興味を持ち、国際モンテッソーリ協会0〜3歳ディプロマコースに参加して、教師資格を取りました。子供が幼稚園に通いだしたのを機に、日本語ガイドグループに参加しました。


お二人が所属するFOMシンガポール日本語ガイドグループは、2023年9月25日に在外公館長表彰を受賞されたと伺いました。おめでとうございます。貴団体がどういう活動をされていて、どのような経緯で表彰を受賞されたのか教えてください。


伏見さん FOMシンガポール日本語ガイドグループの歴史は40年以上遡ります。FOMは、Friends of the Museumsの頭文字で、日本語ガイドグループが所属する非営利団体です。シンガポールの様々なミュージアムで、多言語によるボランティアガイド活動を行なっています。日本語ガイドグループは、このFOMのメンバーであった二人の日本人女性が、現在のシンガポール国立博物館の展示物を和訳して紹介を始めたことがきっかけです。その紹介文やボランティアメンバーの募集は、日本人会会報の「南十字星」に掲載されました。1982年9月7日、国立博物館で日本語ガイドが正式にスタートしました。現在では、シンガポール国立博物館、アジア文明博物館、プラナカン博物館、シンガポール美術館タンジョンパガー・ディストリパークの4つのミュージアムで、定期日本語ガイドツアーを行なっています。


鬮目さん 私たちの定期日本語ガイドツアーに、Japan Creative Centreの古郡前所長が一般のお客様として参加してくださいました。シンガポールの歴史や文化を、1時間のガイドツアーを通して、在星邦人、邦人旅行者に伝える素晴らしい活動であると感銘を受けられたそうです。そして、古郡氏を通して、駐シンガポール特命全権大使 石川浩司大使をご案内する機会をいただき、今回の在外公館長表彰を賜ることに至りました。日本語ガイドグループがこのような名誉ある表彰を賜ったことは、現役メンバーだけでなく、これまで在籍した全てのメンバーにとって、大変誇らしいことです。メンバーは駐在員の妻が多く、平均在籍期間は約2〜3年程と短いのですが、そうした方々の積み重ねが継承されて、今があります。


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お二人が日本語ガイドを始めたきっかけを教えてください。


伏見さん 夫の叔母がプラナカン博物館の英語ガイドをしており、日本語ガイドツアーに参加してみないかという誘いを受けました。ガイドツアーに参加し、義母の家系であるプラナカンのコミュニティや文化のことが初めて分かり、目から鱗が落ちる体験をしました。その時に、日本語ガイドの募集の話を聞き、翌年応募しました。


鬮目さん きっかけは、来星してすぐに行った国立博物館でのガイドさんとの出会いです。その方が同じ出身地という繋がりからボランティアグループのお誘いをいただきました。


日本語ガイドになるまでにはどのようなステップがあるのでしょうか。また、実際にガイドをしてみていかがですか。


伏見さん 入会手続きをして、2ヶ月ほどの研修を受けます。研修のトピックは、シンガポールの歴史や、東南アジア、西アジア、中国の歴史、そして、西洋の美術、東洋の美術、現代アートなどです。研修を受けた後に、ガイドデビューの準備をします。初めて、ツアー参加者たちに自分が学んだことを説明するので、とても緊張します。国立博物館でのデビューが終わると、今度は2館目のデビューの準備をします。2館目のミュージアムは、アジア文明博物館とシンガポール美術館から一つ選択します。歴史が好きな人は、アジア文明博物館を選び、アートが好きな人は、シンガポール美術館を選びますね。そして、余力があれば3館目のプラナカン博物館に挑戦します。


鬮目さん 研修を受けて、個人個人で思いを込めた案内原稿を作成しています。お客様をご案内できるようになるまでは大変なことも多いですが、同期というかけがえのない仲間ができることが嬉しかったです。同期になると年齢差があっても仲良くなっていきますね。デビューまでの苦労を共にすることで、結束力が強くなっていきます。最近は、奥様やお嬢様の駐在に付いて来られた方々が、私たちのメンバーに入ってくださったり、色々なプロフィールを持った方が増え、多様性のあるコミュニティが築かれていることを感じます。


各博物館でのガイド内容やおすすめ、見どころを教えてください。


伏見さん 国立博物館では、シンガポール700年の歴史をヒストリーギャラリーという常設展でご案内しています。シンガポール植民地時代の前のことやイギリスの植民地統治時代、そして日本の占領下時代、戦後、独立に向けてのシンガポールの歩みを1時間ちょっとで説明します。シンガポールのことがとてもよく分かるので、観光で訪れる方にはこの博物館を訪れてからシンガポールを回っていただくと、シンガポールに対する理解が深まると思うのでお勧めしたいですね。


 アジア文明博物館は、フラトンホテルのお向かいにあります。この博物館では、クロスカルチャーが主要テーマになっていて、交易を通してアジアの文化や伝統、素晴らしい美術品、芸術品を紹介しています。この博物館は過去十年間にわたる改修工事を経て、ギャラリーのレイアウトが大幅に変わりました。コレクションも増大し、見応えのある展示品が多いので、歴史好きの方や、アジアの宗教、陶磁器、テキスタイルにご興味のある方にお勧めです。


 プラナカン博物館は、マレー系の女性と外国商人の結婚により形成されたプラナカンの多様なコミュニティの生活文化や芸術品を紹介している博物館です。こちらは日本人の旅行者にとても人気のある博物館です。カラフルな陶磁器や、煌びやかなビーズ刺繍細工、プラナカンの女性たちが纏った美しいサロンクバヤなど見応えがあり、女性に人気があります。


鬮目さん シンガポール美術館の「SAM at TPD」というギャラリーが、現在、タンジョン・パガーの港「タンジョン・パガー・ディストリパーク」という倉庫街にあります。現代アートは、一見すると理解が難しいですが、東南アジアのアーティストの作品はそれぞれの国の歴史や、文化などが根底にあってアートとして表現されていることが多いです。私たちは、アートを通してアジアを知る目を開かせてもらうことができます。思いもかけない歴史や事実に、アートから繋がっていくのが興味深いですね。着地点が見えないところからスタートして、ある時ふと理解に繋がることもあり、アートを入口に様々な深い関わりを見出せるのが面白いところです。アートのガイドは、作品の解釈の正解を説明するものではありません。私たちは、リサーチを通して得た情報やアーティストご本人から伺ったお話をヒントとして皆さんにシェアして、作品との出会いを通して始まるそれぞれの探求の旅のお手伝いをします。


日本語ガイドの難しさや、やりがいはどんなところですか。


伏見さん 膨大な英語の資料を読み込んで、噛み砕いてから、自分の言葉でガイド原稿を作成します。この作業が、とても大変で、やっている時は苦しいのですが、やりがいがあると感じています。


鬮目さん 特にシンガポール美術館は、見る方にどう楽しんでいただくか、どこからアプローチするか…本当に生みの苦しみですね。楽しい作業であるけれど、苦しい作業でもあります。行きついたところに達成感がありますね。


伏見さん ガイド活動を通して世界が広がったと感じます。博物館のスタッフや学芸員の方に直接お話を聞いたり、現代アートの展示では、実際に作品を制作したアーティストのお話を聞くことができて刺激があります。また英語のドーセント仲間との交流もあり、楽しい活動でもあります。しかし、ガイド活動を続ける上での困難もあります。私たちの団体は、60〜70名ほどのメンバーが所属していますが、常に新メンバーを補充しなければならず、研修の運営など準備が大変です。潤滑にガイド活動を行えるように、コミッティーという役員組織があり、スケジュールの調整、博物館とのやりとりなど様々な業務があります。


鬮目さん そうですね。コミッティ役員としてグループ運営に携わるのは大変ですが、大役にチャレンジさせていただける貴重な機会でもあります。新型コロナウイルス(COVID-19)の経験があって、メンバーの意識もだいぶ変わりました。今に相応しい在り方に組織が変化しています。人と同じように、組織も成長していく様子がとても面白かったです。多才で、個性豊かなコミッティメンバーが集まり、アイデアを出し合って、よりよい組織づくりを目指しています。


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ガイドの際に工夫しているところはありますか。


伏見さん ガイドは1時間程あるので、一方的な説明にならないように気を付けています。ツアーの参加者の方に問いかけながら、対話式のガイドになるよう工夫しています。また、こちらでの生活経験や家族のエピソードなどを交えると、身近に感じていただけたり、参加者の方に親しんでいただけたりすることもあります。


鬮目さん 知識をたくさん学んで話したくなってしまいますが、そうすると聞いている方は退屈してしまいます。日本人学校の小学生を対象にスクールガイドをしているのですが、その資料を見ると「伝えること」について考えさせられます。参加者の方が自分で発見して分かるように、知識の発表にならないよう心がけています。子ども向けのガイドでは、考えたことを全て発言しても受け入れられるという経験を、ゲームを通して試みています。


ガイドに参加された方からの声や反響はありましたか。


伏見さん ガイドツアーの後に、感謝の言葉をいただくことがあります。展示品の表記が全て英語なので、日本語ガイドの説明により、展示品の内容がよくわかり理解が深まったという感想をいただきます。これは、日本語ガイドの付加価値だなと実感します。


鬮目さん 先日、お礼のメールをいただきました。国立博物館のツアーでは、できるだけ中立に事実を伝えることに努めています。歴史を学んでいてもシンガポールのことを深く知る機会は少ないので、「歴史を深く学ぶことができた」と受け止めて感想をいただけると、お伝えして良かったと実感できます。


今後やってみたいことはありますか。


伏見さん ガイド活動を通して、シンガポールの歴史や文化を学ぶことができました。個人としては、シンガポールは親日の方が多いので日本食やアニメだけでなく、日本の歴史や文化・価値観を伝えられたら良いなと思っています。


鬮目さん 色々な機関と連携を取って、団体としてコラボレーションし、活動が広がっていくと良いなと思います。


「南十字星」読者の方にメッセージをお願いします。


伏見さん 国立博物館とプラナカン博物館は旅行者の来館者が多いのですが、アジア文明博物館・シンガポール美術館は圧倒的に少ないです。特別展もあるので、シンガポール在住の日本人の方にぜひもっと来ていただきたいです。


鬮目さん 「タンジョン・パガー・ディストリパーク」の「SAM at TPD」にぜひお越しください。視野を広げたい方にはおすすめです。想定内なところに着地しないので、想定外のところに行ってみたい方はぜひ!


伏見さん 日本語ガイドグループは、毎年4月と10月に研修を行なっています。シンガポールについてもっと知りたい方やガイドに興味がある方はぜひ私たちの団体に入っていただきたいです!


インタビュー後談


 お二方とも日本語のツアーに参加され、ガイドさんとの出会いやご自身の発見を期に応募された経緯や思いを聞かせていただきました。インタビューの所々では南十字星との繋がりも感じる話題があり、編集委員としても嬉しさを感じました。


 限られたシンガポール生活の中で、さらにシンガポールの歴史や文化について理解が深まるよう、日本語ガイドツアーにもぜひ参加したいと思いました。今回はご多忙の中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。


 


文責・写真:小松原英莉、小松真奈美、元持成美(シンガポール日本人学校中学部教諭)

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