aboutus-banner

Letter from Doctor (May issue) 2024

23 Apr 2024

 


 最近、発達障害という言葉を耳にすることが多くなってきましたが、そもそも発達障害とはなんでしょうか?そして発達障害と発達特性はどのように違うのでしょうか?


 発達特性とは、生まれつきの脳神経発達の特徴です。


 発達特性がある=発達障害となるわけではありません。


 特性は「有る無し」できれいに分けることが難しく、近年はスペクトラムとしてとらえられています。スペクトラムとは「連続体」を意味します。グラデーションを思い浮かべていただくと想像しやすいかもしれません。特性を色の濃さで表すと一番濃い色から無色まで切れ目なくつながっています。


 発達特性を持つ方々のうち、その特性がその方の生活環境において問題を起こしてしまったり、生きづらさや困難感が生じると発達障害と診断されることがあります。逆に、どんなに特性が強くても、本人も周囲の人々も特に問題が起きないような環境であれば発達障害と診断されないということもあります。


 


発達障害の種類


 発達障害には、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習症(学習障害)、チック症、吃音などがあります。これらは生まれつき、脳の働きに偏りが生じているという特性があり、生まれつきみられる脳の働き方の特性により、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴が現れます。


 特定のことには優れた能力を発揮する一方で、別の分野では極端にできないというバランスの悪さが見られます。そのため、両親が育てづらさを感じたり、子ども自身が生きづらさを感じたりすることがあります。また、同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害を併せ持ったりすることもあります。


 発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を伸ばしたり、日常生活の困難を軽減させたりすることができます。特に近年では、ご両親がそういった子どもへの接し方を学ぶペアレント・トレーニングが注目されており、親子関係が改善したり、子どもの情緒や行動が改善したりと一定の成果を出しています。


sankaku.jpeg (23 KB)


zu-may-2024.jpeg (183 KB)


自閉症スペクトラム症(ASD


 対人関係が苦手で、コミュニケーションに困難さがあり、特定のことに強いこだわりを持つという特徴があります。感覚の過敏さを持ち合わせていることもあります。早ければ1歳半の乳幼児健診で、その傾向を指摘されることもあります。


注意欠如・多動症(AD/HD


 実年齢に比べて、不注意(注意散漫、ケアレスミス)、多動性(落ち着きがない、じっとしていられない)、衝動性(思いついたら考えずに即行動、突然走り出す)が多いなどといった特性があります。


 多動性・衝動性と不注意のいずれか一方だけが認められる場合もありますが、両方が認められる場合もあります。


学習障害(LD


 全般的な知的発達には問題がないのに、聞く ・話す・読む・書く・計算する・推論するなど能力のうち、特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。


チック症


 チックには、運動性チックと音声チックがあり、本人の意思とは関係なく起こってしまう素早い身体の動きや発声をいいます。まばたきや首を振るなどの運動チックや咳払いや鼻を鳴らすなどの音声チックが一時的に現れることは多くの子どもにあることで、そっと経過観察するだけでよいものです。注意や指摘をすると逆に悪化する可能性があります。しかし、卑猥語や罵倒語を発する音声チック(汚言症)や、運動チックと音声チックが頻回に出現し1年以上持続するトゥレット症などは日常生活に支障を来すことがあり対応が必要になることがあります。


吃音


 滑らかに話すことができないという状態をいいます。最初の音や音節をくりかえしたり(連発)、音が伸びたり(伸発)、なかなか話し出せない(難発)といった、さまざまな症状があります。幼少期に発症する発達性吃音が9割ほどを占めますが、疾患や心的ストレスなどによって発症する獲得性吃音も見られます。


 


 これら発達障害は適切な対応をすることで、良好な親子関係を築いたり、子どもの得意なことを伸ばしたり、症状を軽減することが可能です。逆に、不適切な対応をすると、二次障害による精神的不調のリスクが高まります。


 発達障害を持つお子さんの親は、子育てにおいて困難や悩みを抱えてしまうことが多くみられます。特に、理解のない人から、親のしつけのせいだ等と言われ、精神的に追い込まれてしまうことも少なくありません。また、その結果、子どもにきつく当たってしまい、悪循環に陥ってしまうこともあります。


 発達障害は、誰のせいでもありません。“生まれつきの脳の特性”です。明らかな発達障害がなくても、人は十人十色!みんな違います。親子の個性が違うことで、子育てに難しさを感じることもあります。お子さんのために、ご両親自身のために、抱え込まずにご相談ください。


 また、社会人になってから周りとうまくいかないことが生じたり、小さいころから困難感を自覚していたものの対策を取らずに大人になってしまったり、自分は周りと良い意味でも悪い意味でも違いを感じていたりする方々も多く見られます。大人になってから自分の特性を知っても遅くはありません。自身の特性を知ることで、より自分を生かしたり、困難感を克服したりできる可能性が高まります。


 


発達すこやかチェック


 日本人会クリニックでは、お子さんの発達特性等をチェックする発達すこやかチェックを実施しております。ぜひ、この機会にチェックしてみてはいかがでしょうか。


大人の発達チェック


 日本人会クリニックでは、大人の方向けにも発達特性などをチェックすることが可能です。チェック後は各々の特性に合わせた対応法などのサポートも行っております。


ペアレント・トレーニング


 日本人会クリニックでは、発達に特性を抱えたお子さんを持つご両親やより良い親子関係を構築したいと思うご両親へのお手伝いをさせていただいております。個別のカウンセリングのほか、ペアレント・トレーニングも行っております。


ソーシャルスキル・トレーニング


 日本人会クリニックでは、個別のソーシャルスキルトレーニングを実施しております。それぞれのお子さんに必要なスキルを強化するお手伝いをしております。


小集団療育


 日本人会クリニックでは、小学生以上のお子様を対象に小集団(3人程度)の療育を行っており、集団のなかで必要となるソーシャルスキルを小集団での療育を通して学ぶお手伝いをしております。


 ご興味がありましたら、お気軽にご連絡ください。


 


文責・画像:毛利由佳


 


プロフィール:毛利由佳(もうりゆか)


担当診療科:総合診療科・心療内科


日本医師会認定産業医、公認心理師、日本外科学会元専門医、日本産業衛生学会会員、日本プライマリケア連合学会会員、日本精神科学会会員、日本心療内科学会会員、日本ライフスタイル学会会員、Physiological First Aid ファシリテーター、認知症キャラバンメイト、チャイルドコーチング、チャイルドカウンセラー、家族療法カウンセラー


2022年1月よりシンガポール日本人会クリニック医師として勤務


 

 Letter from Doctor (May issue) 2024