Letter from Doctor (Mar Issue) 2025
01 Mar 2025
医師 仲山 佑果
近年、RSウイルス(RSV)に対する新たなワクチンがシンガポールや日本で承認されました。本記事では、このワクチンについてまとめました。
◆RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症は、主に乳幼児にみられる急性呼吸器感染症です。生後1歳までに約半数、2歳までにはほぼ全ての子どもが感染すると言われています。初めて感染する乳幼児では、時に重症化することがあります。
乳幼児期にRSウイルスに感染していても、大人になって再感染する可能性があります。RSウイルス感染後に免疫ができても、その免疫は不完全で長期間持続しないため、何度も再感染することがありますが、学童期以降、成人の方は症状が軽度なことが多いです。
ただし、高齢者や基礎疾患がある方は、重症化のリスクが高いため注意が必要です。
☆その他重症化しやすい方
•慢性の心臓または肺疾患のある成人
•免疫力が低下している成人
•特定の基礎疾患のある成人
•老人ホームや長期介護施設へ入所している成人
◆主な感染経路と潜伏期間
•感染経路: 飛沫感染や接触感染
•潜伏期間: 2~8日間
RSウイルスは非常に感染力が強く、一人の感染者が3人にうつす可能性があります。
◆RSウイルス流行期
①日本の場合
夏から秋(7月~12月)
日本では、夏の終わり頃から秋にかけてRSウイルス感染症が増加し、ピークは10月頃となることが多いです。
②シンガポールの場合
年間を通じて流行(ピークは特定時期なし)
熱帯地域であるシンガポールでは、RSウイルスの感染は年間を通じて見られることが多いですが、湿度や気候変化の影響で感染が若干増加する時期があります。ただし、明確なピークシーズンはないと言われています。
◆症状
乳幼児の初感染では、発熱や鼻水といった軽い症状から始まり、約20~30%で気管支炎や肺炎を引き起こします。特に、生後6か月未満の赤ちゃんや早産児、基礎疾患を持つお子さん、高齢者や慢性疾患を持つ方は重症化しやすいため、注意深い観察が必要です。
◆診断と治療
診断は、一般の外来診療では鼻や喉の分泌物を検査(抗原迅速診断検査)することで行われることが多いです。
◆治療法
特異的なものはなく、発熱や呼吸困難といった症状に対する対症療法が中心です。重症の場合は、酸素投与や人工呼吸管理が必要となる場合があります。
◆感染を予防するには?
予防するためにはモノクローナル抗体製剤とワクチンの2つの方法がありあす。まずは一般的なそれぞれの特徴を以下に示します。
①モノクローナル抗体製剤について
モノクローナル抗体製剤は、特定の抗原に対して人工的に作られた抗体を体内に投与する治療法です。この抗体は病原体や毒素を直接中和し、感染後や感染リスクが高い状況で短期間の効果を発揮します。感染している病原体や毒素に対して治療や予防を目的として使用され、効果の持続期間は比較的短く、数週間から数か月程度です。
②ワクチンについて
ワクチンは、抗原やその成分を用いて免疫系を刺激し、自ら抗体を作らせることで免疫を獲得させるものです。感染前に接種することで長期間の免疫を維持し、感染を予防します。さらに、免疫記憶によって再感染時にも迅速に対応できるようになります。効果の持続期間は数か月から数年とされています。
◆RSウイルス感染症におけるモノクローナル抗体製剤
RSウイルスに対するモノクローナル抗体製剤は、RSウイルスが体内に侵入しても、それを無害化する働きがあり、これにより、感染や重症化を防ぐことができます。
パリビズマブ(シナジス®)とニルセビマブ(ベイフォータス®)は、いずれもRSウイルス(RSV)感染症の重症化を防ぐために使用されるモノクローナル抗体製剤です。ニルセビマブ(ベイフォータス®)は、2024年3月に日本で認可されました。これらの薬剤は日本では基本的に、小児専門病院や総合病院の小児科で提供しております。
①パリビズマブ(シナジス®)
パリビズマブ(シナジス®)は2002年に日本での販売承認された短期間作用型モノクローナル抗体製剤であり、1回の注射で約1ヶ月間の効果が得られます。そのため、RSウイルス流行シーズン中には毎月1回、合計で5回程度の接種が必要です。適応対象は、未熟児や慢性肺疾患、先天性心疾患を持つ新生児や乳児など、重症化リスクの高い子どもに限定されています。パリビズマブは長年使用されてきた実績があり、特にリスクの高い乳幼児にとって重要な予防策とされています。
②ニルセビマブ(ベイフォータス®)
ニルセビマブ(ベイフォータス®)は、2024年3月に日本での販売承認が予定された新しい薬剤です。この製剤は長期間作用型であり、1回の注射で約150日(約5ヶ月間)の効果が持続するため、通常1シーズンに1回の接種で十分です。さらに、適応対象は世界初めて、生後初回のRSウイルス感染流行期の健常児を含むすべての新生児や乳児に広がっており、パリビズマブ(シナジス®)と同様に重症化リスクの高い乳幼児も対象としています。長期間の効果を持つため、流行シーズン中に追加接種が不要である点が大きな特徴です。
◆RSウイルス感染症におけるワクチン
RSウイルス感染症の予防には、**Arexvy(アレックスビー筋注用)とAbrysvo(アブリスボⓇ筋注用)**という2つのワクチンが使用されます。それぞれの特徴や効果、適応対象について詳しく説明します。
①Arexvy(アレックスビー筋注用)
ArexvyはRSV A型に対応する不活化ワクチンで、60歳以上の高齢者を対象としています。シンガポールでは2024年5月、日本では2023年9月に承認されました。接種は1回のみで、0.5mlを筋肉内に注射します。接種後の効果は6~7カ月間持続し、RSウイルスによる下気道疾患を82.6%予防するとされています。
副反応は一般的な軽度のものに限られ、特に注意すべき点はありません。価格は、シンガポールでは320~370シンガポールドル、日本では約25,000円です。
②Abrysvo(アブリスボⓇ筋注用)
AbrysvoはRSV A型とB型の両方に対応する不活化ワクチンで、適応対象がより広範囲にわたります。60歳以上の高齢者に加え、妊娠中の女性(シンガポールでは妊娠32~36週、日本では妊娠24~36週)にも適応され、出生児へのRSウイルス感染予防を目的とします。
接種はArexvyと同様に1回のみで、妊婦の場合は妊娠ごとに接種可能です。接種後の効果は約7カ月間持続し、発熱や咳などの2つの症状を66.7%予防し、さらに呼吸困難を含む3つの症状を85.7%予防します。しかし、副反応として、百日咳を含むワクチンと同時接種した場合に、百日咳防御抗原に対する免疫応答が低下する可能性があるとの報告もあります。
Abrysvoは、シンガポールでは2024年9月、日本では妊婦向けが2024年1月、高齢者向けが2024年3月に承認されました。価格は、シンガポールでは320~370シンガポールドル、日本では約30,000~38,000円程度とされております。
★2025年1月時点の情報です
当院でも、2つのワクチン接種が可能です。60歳以上の方で、特に合併症のある方、妊娠中の方はご検討ください。
ご希望があれば、まずはお問い合わせ下さい。先に注文が必要な可能性もあります。
文責・画像:仲山佑果
