Letter from Doctor (July Issue 2025)
01 Jul 2025
医師 仲山 佑果
ヘイズ(HAZE/煙害)は心臓や肺に影響を与える可能性があり、特に喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全などの慢性心臓疾患や肺疾患をすでに患っている人に影響を及ぼすと報告されています。
■ヘイズ(HAZE/煙害)とは
ヘイズは、インドネシアのスマトラ島やカリマンタン島などやマレーシアなどの野焼きや森林火災によって生じた煙が、モンスーン(南西または東南季節風)により、マレー半島やシンガポールなどの南アジア地域(シンガポール、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、およびタイの南部)へ流れ、街中が深い霧に覆われたような大気汚染現象を指します。この霧には粒子状物質(PM)、二酸化硫黄、オゾン、二酸化窒素、一酸化炭素などが含まれていて、大部分がPM2.5(微小粒子状物質)です。PM2.5は粒子状物質(PM)の中でも2.5μm以下の非常に小さい粒子のため、空気中に長く留まり、様々な健康被害、環境汚染、視界を低下させ、飛行機や自動車などの利用を著しく制限してしまうなど、経済損失にもつながっています。この霧は、視界が曇るだけでなく、濃度が濃くなると焦げたような匂いがすることもあります。期間としては、雨が少なく、火が燃えやすい乾季5月から10月にヘイズが観測されることが多いです。
■ヘイズ(HAZE/煙害)の歴史
かつてインドネシアのスマトラ島やカリマンタン島を含む東南アジアは、熱帯林が広がり、野生生物も生息していました。しかし、30年ほど前より、インドネシア諸国ではプランテーションの開発が進みました。目的は、紙の原料となる植物油であるパーム油(熱帯林のアブラヤシが原料)や、紙の原料となるパルプ(熱帯林を伐り払って植林したアカシア、ユーカリなどが原料)を生産するためです。こうして生産された、紙製品やパーム油(植物油)は、日本をはじめ世界中に輸出されています。アブラヤシなどの熱帯林を伐採した土地を農地として開発するために、安価で効率よく行われるようになったのが野焼きです。野焼きは法律で禁止されていますが、アブラヤシ農園を手掛ける人や、パーム油を扱う企業が地域の貧しい人たちを違法に雇い、特に雨が少なく、火が燃えやすい乾季(5月〜10月)に野焼きを繰り返しているといわれています。煙は大気の流れに乗り、海を越えた隣国にも害を及ぼしていることから、1980年代から国際的にも問題となってきました。国際的な措置やインドネシア政府の措置は行われていますが、今なお大きな問題となっています。
■想定される健康被害
ヘイズ(HAZE/煙害)で主に問題となる大気汚染物質(粒子状物質(PM)、二酸化硫黄、オゾン、二酸化窒素、一酸化炭素など)は、PM2.5(微小粒子状物質)です。PM2.5は粒子状物質(PM)の中でも2.5μm以下の非常に小さい粒子で、この大気汚染物質への数日間にわたる継続的な短期暴露は、呼吸器症状を引き起こし、既存の心臓または肺疾患を悪化させる可能性があると言われています。
■短期暴露時の健康への影響
ヘイズ(HAZE/煙害)は心臓や肺に影響を与える可能性があり、特に喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全などの慢性心臓疾患や肺疾患をすでに患っている人に影響を及ぼすと報告されています。ヘイズにさらされてから健康への影響や症状が現れるまでには、最大1〜3日の時間がかかる場合があります。
既往症のない健康な人の場合、数日間にわたって高いレベルのヘイズにさらされると、健康な人でも目、鼻、喉の症状(目のかゆみやのどの痛み、鼻水、皮膚のかゆみ、めまい、頭痛など)を引き起こす可能性がありますが、基本的には自然に回復し、一般に重大な健康上の問題を引き起こすことはありません。
●長期暴露時の健康への影響
ヘイズ(HAZE/煙害)は、季節性な影響であるため、シンガポールは年間を通して連続的な長期的健康への影響を示す確実なデータはほとんどありません。
■呼吸器系への影響について
PM2.5は粒子状物質(PM)の中でも2.5μm以下の非常に小さい粒子であるため、空気中に長く留まり、呼吸器系の深部まで到達しやすく、粒子表面に様々な有害成分が吸収、吸着されていることから、呼吸器系への影響をもたらすと考えられています。
■循環器系への影響
高濃度のPM2.5は心血管にも影響があると言われています。ヘイズへの短期的な暴露により、心拍数増加、心拍変動の低下、安静時血圧上昇、不整脈の発生が、特に冠動脈疾患などの動脈硬化性の循環器疾患を有した方で多かったとの報告もあります。
■ヘイズの影響を受けやすい人 高感受性者
一般に、乳幼児、高齢者、喘息などの慢性肺疾患や循環器疾患のある人がヘイズによる健康被害を受けやすいです。また、胎児の健康のために、妊娠中の女性もヘイズへの暴露を減らすことが推奨されます。
■指標は?
NEA(National Environment Agency:国家環境庁)は、ヘイズの程度を勧告するために、2種類の観測値を常に示しています。
(参照:Haze - The National Environment Agency)
① 1Hour PM 2.5 readings(μg/m³) 1-hr PM2.5
(1時間ごとの大気中PM2.5:particulate Matter 2.5微粒子状物質の観測値)
これは過去1時間のPM2.5の観測値データであり、直近の外出や行動計画の際に参考にされます。
★→高齢者、妊婦、小児、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患を患っている方 喉や目のかゆみなどの短期症状は上記のガイドラインに従ったとしても出現する可能性はあります。
② 24-hour PSI (PSI: Pollutant Standards Index 汚染物質基準指数) 24-hr PSI
こちらは24時間先の大気汚染状況を予測する指標です。24 時間の暴露に基づいて計算された指標であり、ヘイズが観測された場合、特に翌日の外出計画を立てる際に参考にされます。
2つの指標に加え、ヘイズの影響は、その人の健康状態、および屋外活動の継続時間と活動強度に左右されます。
■ヘイズが観測された場合の対処法
万が一外出等を控えるべき数値が観測された場合は、NEAやMOHによる注意喚起が行われるため、それを確認します。そして、個人に応じて、2つの上記の指標の指示に従います。
WEB Haze - The National Environment Agency(https://www.haze.gov.sg)や環境庁の公式アプリ「MyENV」で簡単に確認できます。
その上でできることとして以下の対処法が推奨されています。
·全ての家の窓を閉めて、外気を入れないようにする
·外出を最小限にとどめ、せざるを得ない場合は数値に応じてN95マスク等を装着する(通常の不織布マスクでは、PM2.5のような細かい粒子は防ぐことができません)
·喫煙等の室内の空気汚染を避ける
·外気が改善され次第、窓やドアを開けて換気を行う
·エアコン等は外気を入れない設定にして使用する
·室内では空気清浄機を使用する
·洗濯物は室内に干すか、乾燥機を使用
·水をたくさん飲む→喉の乾燥やかゆみなどの症状が軽減される場合があります。
文責・画像:仲山佑果
