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Letter from Doctor (Dec Issue) 2024

21 Nov 2024

 


男性がHPVワクチンを接種することで、男性自身の中咽頭がんを含むHPV感染による疾患の予防が期待でき、パートナーへのHPV感染リスクも抑えられるとされています。


 


HPVとは


 HPV(ヒトパピローマウイルス)は、子宮頸がん発症の原因となり、HPVに対するワクチンも一般的に認知されています。HPVは非常にありふれたウイルスで、主に性行為によって皮膚や粘膜が接触することで感染します。ほとんどの場合、感染しても自身の免疫の力で自然に排除されますが、時にウイルスが感染した状態が持続すると、がんを発症することがあります。


 HPVが引き起こす可能性のある疾患は次のとおりです。


•女性: 子宮頸がん、外陰がん、膣がん


•男性: 陰茎がん


•男女共通: 中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマ


 ウイルスの遺伝子型は200種類以上ありますが、その中でがんの原因となるのは一部です。HPVの中でも悪性腫瘍を生じやすいハイリスク型は15種類あり、特にタイプ16(16型)とタイプ18(18型)ががんの原因となる確率が高いです。中でも中咽頭がんは16型が約90%を占めています。


 HPVが引き起こす可能性のある疾患の中で、子宮頸がんはよく知られていますが、近年、HPV感染による中咽頭がんが急増しており、問題となっています。特に中咽頭がんは男性に多く見られますが、これらはワクチンで予防できるため、今回取り上げました。


中咽頭がんとは


 中咽頭がんは、図の中咽頭領域にできた悪性腫瘍です。病変ができると、のどの違和感、のどの痛み、飲み込みにくさ、のどからの出血、首のしこりなどの症状が出ることがあります。


 中咽頭がんの原因は大きく分けて2つ知られており、一つは喫煙や飲酒、口腔内不衛生などの生活習慣によるもの(非HPV中咽頭がん)、もう一つが今回の問題となっているHPV感染によるもの(HPV関連中咽頭がん)です。


 HPV関連中咽頭がんは、舌根や扁桃の小さなくぼみにがんが発生するため、発生初期の所見に乏しく、早期発見が困難なことが多いです。また、非HPV中咽頭がんに比べて、40代などの比較的若い世代にも発生することが多く、非HPV中咽頭がんより首のリンパ節へ転移しやすいことが分かっています。さらに、治療を行った場合、非HPV中咽頭がんより予後が良いです。


HPV関連中咽頭がんの日本の現状 


 HPV関連中咽頭がんは、40〜50代の男性で近年日本国内で増えており、2019年には中咽頭がんのうち55%がHPV関連中咽頭がんでした。この割合は、アジアで最も多く、世界的にもかなり高い国の一つです。


 この現状は、わが国ではHPVワクチン接種率が男女ともに低いことが影響している可能性が高いです。


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HPVワクチン


 日本では、HPVワクチンの副反応が問題となり、2013年にHPVワクチンの積極的推奨が差し控えられました。しかし、子宮頸がん予防に対するさまざまな大きな動きがあり、2021年11月にHPVワクチン接種推奨差し控えの中止が通知されました。


 現在では、再度定期接種としてHPVワクチンの推奨が行われており、HPVワクチンの積極的推奨が差し控えられていた期間にワクチン接種ができなかった女性(平成9年度生まれ〜平成17年度生まれの9学年)に対して、期限付き(令和7年3月まで)で無料キャッチアップ接種が実施されています。


 現在日本では、小学校6年生から高校1年生相当の女子を対象に、定期接種が行われています。日本国内で使用できるワクチンの種類は、防ぐことができるHPVの種類(遺伝子型の数)によって、2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価ワクチン(シルガード9)の3種類があります。2023年4月から、2価ワクチン、4価ワクチンに加えて9価ワクチンも定期接種の対象として、公費で受けられるようになりました。


 2価ワクチンおよび4価ワクチンは、子宮頸がんを引き起こしやすい種類であるHPV16型と18型の感染を防ぐことができます。それにより、子宮頸がんの原因の50〜70%を防ぎます。シルガード9は、HPV16型と18型に加え、31型、33型、45型、52型、58型の感染も防ぐため、子宮頸がんの原因の80〜90%を防ぎます。


 医学的には、早い年齢での接種が勧められています。日本では中学一年生の11歳頃が接種のタイミングとおっしゃる産婦人科の先生もいらっしゃいます。初めての性交渉前の接種が重要であり、早い年齢のほうが抗体価が上がりやすいことが分かってきており、一度ワクチンを接種してからもワクチンの免疫作用が長く持続することもわかってきているからです。


 


男性HPVワクチン


 現在日本では、男性に対するHPVの定期接種は残念ながら行っておりません。4価ワクチンのみが9歳以上の男性に適応されています(3回接種)。子宮頸がんの予防のためには、9価ワクチンが予防効果が高いことが分かっていますが、HPV関連中咽頭がんはHPV16型が90%以上を占めるため、4価ワクチンでも十分な予防効果が見込めます。


 


世界各国のHPVワクチンの動向


 日本では、上記のように男性への定期接種がなされていませんが、オーストラリア、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツなどの各国では男女ともに9歳から14歳の間(国によって年齢は異なる)に定期接種が行われており、男性の接種率が70%以上の国もあります。世界的に見ても、日本では男女ともにHPVワクチン接種率が低く、男性への定期接種が行われていない国は先進国の中では珍しいです。


 


シンガポールにおけるHPVワクチン


 シンガポールでは、National Childhood Immunisation Schedule (NCIS) National Adult Immunisation Schedule (NAIS)で、9〜26歳の女性に対して、2価ワクチンまたは9価ワクチンの接種が推奨されています。男性については現段階では明記されておりませんが、9価ワクチンは男性に対しても接種が認可されています(9〜45歳)。


(参照:Human Papillomavirus (HPV) Vaccine (healthhub.sg))


シンガポールでは、4価ワクチン(Gardasil)は2022年頃より供給を中止しております。


 


男性のHPVワクチンの必要性


 子宮頸がん、中咽頭がん、その他HPV感染によって引き起こされる疾患を予防するためには、女性だけでなく、男性のHPVワクチン接種も必要性が高く、推奨されます。男性のワクチン接種の目的は、男性自身の中咽頭がんを含むHPV感染による疾患の予防(陰茎がん、肛門がん、尖圭コンジローマなど)と、自分が感染源とならないことでパートナーのHPV感染症のリスクを抑えることにあります。


 これらを踏まえ、男性もHPVワクチン接種をご検討ください。


 当院でも、2価ワクチン、4価ワクチン、9価ワクチンが接種可能です。ぜひご検討ください。


当院では、2価ワクチン(Cervarix) および 9価ワクチン(Gardasil 9) の接種が可能です。


 在庫がない可能性もあるためまずはお問い合わせください。


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(2024年9月時点)


シンガポール 4価ワクチン(Gardasil)は2022年より供給を中止


文責・画像:仲山佑果


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