Letter from Doctor (Aug Issue 2025)
01 Aug 2025
臨床心理士・公認心理師 坂牧 円春
私たちは、つい自分に対して厳しく、批判的になることがあります。臨床場面で、様々な方と出会う中で、「私が悪いんです」「私のせいだと思うんです」「私がこうしてしまったから…」と自分を批判するような発言が出てくることも少なくありません。
自分に対して厳しい見方をしていると、他者に対しても厳しい見方をしてしまい、相手を許せない気持ちや相手への不満を多く感じることも多いと思います。他者というと、「他人」を思い浮かべるかもしれませんが、他人ではなく、子どもに対して厳しくなったり、妻や夫などパートナーへの厳しさや不満になったりすることもあります。
◆失敗への恐怖
また、大人でも子どもでも「失敗してはいけない」と失敗をとても恐れていて、小さなことでも緊張したり、不安に感じたりする場合もあります。
もしかすると、過去に失敗してひどく叱られて怖い体験をしたり、周囲の人に笑われて恥ずかしい体験をしたり、相手から期待されていたのに、とてもがっかりされた体験によって、それを“重大事件”のように捉えて、失敗することをとても怖がり、完全にやらなくてはならないと思い込んでいるのかもしれません。
また親がそのような思いを持っていると、子どもも同じような思いを知らず知らずにうちに持っていることもあります。
「失敗してはいけない」と思えば思うほど、緊張したり、焦ったり、集中できなくなったりします。楽しむ感覚が薄れて、嫌な緊張感でいっぱいになってしまいます。
では、どのように自分に対して批判的でなく許していけばいいのでしょうか?
◆この事実を認めていく。
・ものごとはうまくいかないものである
・私たちは完璧ではない
・誰でも間違うことがある
・失敗することもある
このように挙げると、「そんなことは当たり前じゃないか、わかってるよ」と思う人もいると思いますが、実際に日々の生活を送っていると、家庭生活や学校生活、仕事上でうまくいかないことがあると、そこにフォーカスが当たり、自分を責めるような感覚が沸き起こることがよくあると思います。
◆間違える許可を与える
そのような時には、「失敗することもある」「間違えることもある」と、“間違う許可”を自分にあたえてあげるといいでしょう。間違えたら、その後修正したり、補ったり、謝ったり、修復すればいいのです。また、そこから学んで、次にどのように対応したらいいかを考えればいいのです。
◆間違えたら、その後修復すればいい
よく考えてみると、その間違いが致命的であることはほとんどありません。また、間違いや失敗の後に、フォローをすればなんとかうまくすすむこともよくあります。
例えば、子育て中のお母さんが、子どもが寝てから…。
このように、自分を責めていくと、鬱々とした気持ちで子どもと接するようになり、自分の子どもに対する関わりにも自信が持てなくなっていくと思います。
自分を責めるのではなく、このように考えて対応すると良いのではないかと思います。
このように考えて、一つひとつ修復すればいいのです。
◆自分のできたことにフォーカスする
失敗を少なくしてより良い結果を出そうとするのは、もちろん望ましいですが、常に失敗を防がないといけないわけではありません。自分ができることをして、それを“自分のしたこと”として受け止め、できたことを「よし」として喜ぶ心を持っていくといいと思います。
◆「べき思考」を脇に置く
知らず知らずのうちに、自分の中に「べき思考」を強く持っている場合もあります。「〜すべき」「〜しなくてはならない」「〜しなきゃいけない」という言葉は、物事がうまくいかなそうな時に、自分を追い込むことになります。つい「〜すべき」と思い浮かんでしまう場合は、その思考が出てきたなと気づいた時に、その思考をちょっと脇において置き、今できていることをしっかり認めていくと良いと思います。
自分に対して優しい捉え方ができると、他者に失敗や間違いに対しても寛容になれることも多いです。他者には寛容なのに、自分にだけ厳しくなりがちな人は、他者に対してかける言葉を自分に対しても、かけてみましょう。
参考文献:「若者のための認知行動療法ワークブック 考え上手でいい気分」ポール・スタラード 監訳 松丸未来、下山晴彦金剛出版 2020年
画像:いらすとや
