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Letter from Clinic (Feb issue) 2024

31 Jan 2024

 

APD 聴覚情報処理障害って何???





吃音・小児構音障害、言語発達障害領域 認定言語聴覚士 鈴木利佳子

 


 


 皆さんはAPD聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorders: APD)という言葉を聞いたことありますか?小児のお子さんの中で「この子はAPDなのではないのでしょうか?」そのように心配して親御さんからご相談を受けることがあります。


 APDとは、一般的に行われる聴力検査の結果は正常と判断されるにもかかわらず、日常生活において言葉の聞き取りにくさを感じる症状で、中枢性聴覚障害の一種と考えられています。


 APDの症状は以下の6つが挙げられています。


 


⑴ 聞き誤りが多い


⑵ 雑音下で聞きとれない


⑶ 口頭で言われたことを忘れてしまう


⑷ 早口や小さな声が聞きとれない


⑸ 長い話を注意して聞き続けられない


⑹ 視覚的情報に比べ聴覚情報の理解ができない


 


 聴力正常にも関わらずこれらの症状が一つでもあればAPDを疑います。


 ここ半世紀ほどでさまざまな研究がされていますが、診断基準やAPDの定義はまだ確立されていません。テレビ番組で紹介されたこともあり、一般的に病名が認知されているにも関わらず、診断方法が確立していません。


 また、このAPD症状にはさまざまな疾患が含まれているとも考えられます。中核性聴覚障害としての純粋なAPDの他、小児では発達障害や言語発達障害に伴いAPDのような症状を呈することもあります。定義では発達障害を含むのか含まないのかの論争もあるようです。


 聴覚情報処理機能を評価する手段として聴覚情報処理検査(Auditory Processing Test : APT)があります。APTは脳に器質的な障害があることが前提となっており、聴覚理解に関する神経経路または脳部位の問題と考え、いくつかの聴覚の検査や言葉の聞き取りを評価します。


 しかし、APTAPDとしての特性を把握できるにすぎません。器質的な脳障害の既往がないにも関わらずことばの聞き取りが難しくなっている病態はいくつか考えられます。それは、注意機能や聴覚的ワーキングメモリ、言語機能に関する困難さを抱えている場合です。小児であれば自閉スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder : ASD)や注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder : ADHD)、学習障害、知的障害、言語発達障害、成人であれば,加齢による聞き取り困難、ASDADHDあるいは認知機能の低下も考えられます。またどの年代でも脳梗塞や脳腫瘍、外傷などによる中枢神経システムの機能異常によるものも考えられます。また、精神疾患による注意集中の欠陥も考えられます。


 ことばの聞き取りにくさだけを取り上げてAPDとするべきかのような議論は専門家の間でも続いており、専門家の間で大変な論争に発展してしまった歴史があります。このように聴覚情報処理障害(APD)をとりまく環境はまだ落ち着いていません。


 だとしても、特定の環境下でことばの聞き取りが低下し、コミュニケーションや学業・仕事に支障を来し、しかし難聴とは診断されないので、周囲に理解してもらえず悩んでいる人は確かに存在します。そのような人たちを支援する上で、APDという病態を理解することは重要です。


 APD症状を持つ方々は、生活の中でたくさんの困難に直面することがあります。例えば複数人の会話が聞きにくい、がやがやした場所での会話が苦手、長い話を覚えにくい、など。本人の努力だけでは解決できず、環境整備が大切と言われています。お子さんの場合、言葉の発達に影響があったり聞き間違いによる失敗や「ちゃんと聞きなさい!」と小さな頃から叱られてしまう経験が多かったりと非常に辛い経験をされていることがあります。大人でも日常生活や社会生活において困難さを感じる場面が多くストレスを抱えていることがあります。


 ご本人、ご家族でAPDの症状が疑われたら、日本人会クリニックにご相談ください。日本人会クリニックには耳鼻科医師、心療内科医師、言語聴覚士が在籍しています。必要な評価を実施し、その方に合わせた対応方法や工夫をご一緒に考えていきます。


 一人で悩まず、ぜひお気軽にご相談ください。


 


文責:鈴木利佳子


参考文献:松本希、聴覚情報処理障害、耳鼻と臨床 66巻5号 pp.190-195, 2020


 


プロフィール:鈴木利佳子(すずき りかこ)


2003年言語聴覚士、2021年公認心理師 


国家資格取得 


言語聴覚士として日本の病院で約18年間勤務、2021年来星。


趣味はダイビング、腹話術、旅行、観劇、音楽鑑賞。


専門資格:日本言語聴覚士協会認定言語聴覚士(言語発達障害領域、失語・高次脳機能障害領域)、日本摂食嚥下機能障害学会 専門療法士、日本臨床栄養代謝学会のNST専門療法士、認知症ケア専門士

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