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Letter from Clinic (Dec issue) 2023

01 Dec 2023

 

どうして子どもを褒められないの?





臨床心理士・公認心理師 坂牧 円春


 


 


 子どもの癇癪(かんしゃく)に困っていたり、子どもの反抗的な行動に困っていたりする親御さんからのご相談をよくうかがいます。どのような時に、癇癪や反抗的行動が起こるのかを詳しく聞いていくと、注意や叱責をすると、それに対する子どもの反応として、癇癪や反抗的行動が強く現れるということが多いです。その一方で、注意や叱責だけでなく、子どもを認めたり、褒めたりすることがどのくらいあるかを聞くと、ほとんどないということも多いのです。


 子育ての中で大切なことは、子どもがほどほどの自信をもって自分の人生を生きていけるようにしていくことだと私は思っています。その「ほどほどの自信」というのは、注意や叱責だけで自然に育つものではありません。「こんな私でいいんだ」という自分を受け入れるポジティブな感覚は、周囲の人たちからの肯定的なフィードバックの積み重ねで作られていくものだと思います。


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 ところが、親御さんの中からは、「よく『褒めましょう』と言われるけれど、どのように褒めたらいいかわからないんです。」「自分は褒められて育っていないし、そんなに子どもに甘くしていいんですか?」「うちの子、褒めるところなんて全然ないんです。」という方もいらっしゃいます。このように、褒めることが難しいと感じられている方は少なくないと思います。


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 では、どうして褒めることが難しいのでしょう?


子どもを褒めることが難しい場合の要因として、以下のようなことが考えられるのではないかと思います。


 


1. 相手への期待が高い


 子どもへの期待値が高く、子どもが自分の期待に見合っていないと、満足できず褒めることが難しいのではないでしょうか。


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2. 完璧でないと認められない


 最後までやり遂げることや100%の成果を出すことが正しいと思っていると、まだまだ発達の途中にいる子どもの様子や行動に対して、なかなか認められないということが多いかもしれません。


 


3. 自分に劣等感を感じている


 自分自身の劣等感が強いことで、子どもの良いところやうまくいっている行動を素直に認めることができず、褒めることが難しくなってしまう。


 


4.先のことへの不安感が強い


 先のことへの不安や心配が強い場合、目の前の子どものうまくいっている事柄や行動にフォーカスが当たらず、褒めるよりも、心配することばかり多くなる傾向もあるようです。


 


5.問題に目が向きやすい


 子どもの問題行動やできていないことを見つける癖がついており、問題にばかりフォーカスが当たり、うまくいっていることを見つけられなくなっている可能性もあります。


 


 子どもへの関わり方や子どもを見る見方は、自分への扱い方や自分自身の捉え方と似ている場合があります。例えば、自分に対して完璧でないといけないと思う方の場合、失敗しないようにと気をつけて物事を進めており、子どもの小さな失敗を気にして、注意することが多くなる場合があります。


 また、例えば、親御さん自身の劣等感が強くて「自分は、他の人に比べて何もできない」と思っていると、子どもに対しても「うちの子は、他の子に比べて何もできない」と思ってしまう場合があります。


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 そのような場合には、「子どもを褒めましょう」と言われても、子どものどこをどのように褒めたらいいのかわからなくて戸惑うのもおかしくありません。


 まずは、親御さんも自分自身の捉え方を少し緩めたり、目の前のうまくいっていることにフォーカスしていったりすることを意識してみることが大事だと思います。


 また親御さんが自分を振り返り、自分自身の捉え方がポジティブになるように変化していくことをカウンセリングを通してお手伝いすることもできます。


 そして、子どもへの良い関わりや褒め方については、「ペアレントトレーニング」で具体的に学んでいくことができます。ペアレントトレーニングとは、子どもとの良好なかかわり方を学び、子育てにおける心理的なストレスを軽減し、親子ともに心身共に健康に成長できるように支援する保護者向けのプログラムです。


 日本人会クリニックにおいては、全10回で構成されたプログラムの第1回シリーズ、第2回シリーズを開催し、現在第3回シリーズを開催中です。今後もニーズに応じて開催していく予定ですので、ご興味のある方は、当クリニックまでお問合せください。


 


文責:坂牧円春 画像:いらすとや


プロフィール


プロフィール:坂牧円春(さかまき まどか)


臨床心理士・公認心理師


日本女子大学人間社会学部心理学科卒業、日本女子大学大学院人間社会研究科心理学専攻博士課程前期修了。


非常勤講師として専門学校や大学に勤務し、臨床心理士として精神科クリニック、幼児相談室、大学の学生相談室、保健センターでの乳幼児健診、心の健康電話相談などでの臨床経験を経て、2017年2月より日本人会クリニックに勤める。


好きなこと:料理、読書、旅行、シュノーケリング


 

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