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The Heritage Trail②「The 2nd Jubilee Walk」(July 2023)

28 Jun 2023

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 ジュビリーウォークは、古代テマセクから、イギリスの植民地時代、日本の占領統治時を経て、国家による急速な都市開発に至る、シンガポールの過去、現在、未来の要素をつなぐ約8kmのトレイルです。今回は南十字星の編集委員でもある、博物館の日本語ガイドふたりの説明を聞きながら歩いてみました。


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National Museum of Singapore


 トレイルの出発地点は、市街地の中心部に位置するシンガポール国立博物館です。この博物館では、シンガポールの歴史、民俗についてわかりやすく説明しています。私たちが訪れたのは、シンガポールの約700年の歴史が紹介されている常設展「ヒストリー・ギャラリー」です。まず、1299〜1818年のSingapura(シンガプーラ)の時代。ここでは当時の人々がどんな暮らしをしていたのかを映像を交えて紹介しています。次に1819〜1941年の「Modern Colony(モダン・コロニー)」の時代。大航海時代を経てシンガポールが貿易を通じてどのように発展していったかについて詳しく説明しています。そして1942〜1945年の「Syonan-To(昭南島)」時代。このセクションのみ約3年間と短いのですが、連合国軍と大日本帝国軍との戦闘、その後の大日本帝国軍によるシンガポール占領・統治の歴史が展示されています。この3年間がこの国にどれほど大きなインパクトと傷を残しているか、そして、この歴史上の重い事実に、日本人として身につまされる思いがする時代の展示です。最後は第二次世界大戦後1945年から現在までのSingapore時代についてです。


シンガポール建国の父、Lee Kuan Yew首相(リー・クアンユー)が泣く泣くマレー連邦からの独立を宣言し、その後「アジアのハブ」と呼ばれるほど大きな経済成長を遂げた近代史が紹介されています。ガイドの説明を聞き、例えば現在のチャイナタウン、リトルインディア、アラブストリートがどう成り立ったのかも知ることができ、歴史を知ることは現代を理解することにつながるのだと実感しました。


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Fort Canning Park


 国立博物館の背後に位置する丘陵地帯は、スマトラの王子(サンニラウタマ)が定住の地として宮殿を建てた場所です。そして、イギリス人のラッフルズやラッフルズの後継者たちがこの丘に居を構えていました。やがてこの丘はイギリス軍の軍司令部として機能し、日本占領時には日本軍が一時司令部を置いた所でもあります。そしてその後はシンガポール軍によって使用されていました。現在は市民の憩いの場としての公園となっています。


 


Civil Defence Heritage Gallery


 現在も中央消防署としてその役目を果たしているこの建物は、英国風のレンガ造りの伝統的な建造物で、消防博物館は消防署の一角にあります。かつて活躍したと思われる、はしご車やポンプ車などが展示されていました。


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Peranakan Museum


 フォートカニングパークの東側、アルメニアンストリートにある、かつて中華系の学校施設だった白と薄緑色のコントラストが美しい建物の博物館です。プラナカンとは、マレー語で「その土地生まれの子」を表す言葉です。貿易で東南アジアに来た商人たちは現地の女性と結婚し、その地に根を下ろした人々が今日のプラナカンの始まりだそうです。プラナカンの男性をババ、女性をノニャ(ニョニャ)と言います。


この博物館には、手作業で作ったきらびやかなビーズ細工による大きなテーブルクロスから、スリッパのような小さなものまで、まばゆいばかりの豪華で見事な品々が展示されています。また、別のフロアでは、プラナカンの裕福な家庭の数々の食器や調度品が並べられていました。プラナカンの社会は、貿易で莫大な富を築き、その豊かさを背景に政治や経済の中枢をなす人々を多く輩出しました。


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⑤ シンガポール川に沿った遊歩道


 近代シンガポールの創設者であるスタンフォード・ラッフルズ卿が1819年に初めてシンガポール島に上陸したのも、都市名の由来となった神秘的なライオンをサンニラウタマ王子が目撃したのも、この川の河口でした。遊歩道の対岸には、おしゃれなカフェやバーが並ぶ、若者や観光客に人気の街並みが続いています。


 川沿いの地で、腕を組んで思いにふけるように川を見つめているのが白いラッフルズ像です。


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Asian Civilisations Museum


 アジア文明博物館は、シンガポール川河口付近にある博物館で、シンガポールを中心に、近接するアジア諸国の文化を紹介する博物館です。シンガポールの多様な文化遺産、相互の結びつき、世界とのつながりなどへの理解を深めることをミッションとしているそうです。何千年もの間、アジアの文化は取引され、これらのギャラリーの多くの芸術作品は、貿易によって様々な文化が地域から地域へと移動するにつれて相互作用してきたことを示しています。特に、1階の貿易(Trade)のギャラリーで、1998年に発見された沈没船からの数々の遺物の展示が圧巻で、9世紀の唐時代の陶磁器などを目にすることができました。


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Victoria Theatre and Concert Hall


 ビクトリアシアター&ビクトリアコンサートホールは、シンガポールで最も古いエンターテイメント施設のひとつです。Concert Hallは1901年に亡くなったビクトリア女王を記念してこの記念館が建てられました。当日は外観だけの見学でしたが、白い左右対称の建築物で中央部の美しい時計台がシンボルの、とても印象的な建物です。 


 また、この建物の手前には、黒いラッフルズ卿の像が、白い建物と緑の芝生の間にどっしりと立っています。ぜひこのコンサートホールで、クラシックコンサートを鑑賞してみたいと思いました。


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National Gallery Singapore


 この国立のギャラリーは、マリーナベイサンズを見据えるパダン広場隣接した場所にあります。シンガポールの歴史において重要な役割を果たしてきた、旧最高裁判所ビルと市庁舎の組み合わせで構成されています。この建物を見るだけでも重厚でため息が出るほど見応えがあります。他に例を見ないシンガポールと主に東南アジアの現代アートのコレクションを所蔵しているそうですが、今回は旧最高裁判所を見学しました。裁判官席、被告人席など、当時のままの場所に実際に立つことができ、厳粛な気持ちになりました。


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The Cenotaph


 エスプラネード・パークには、第一次世界大戦と第二次世界大戦で戦死した英雄を祀る戦没者記念碑(セノタフ)があります。地元で採石した花崗岩で作られた高さ約18.3メートルの記念碑です。裏面の碑文には「彼らの死によって我々は生かされた」という言葉が4つの主要言語(英語、マレー語、マンダリン語、タミル語)で刻まれています。


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Memorial to the Civilian Victims of the Japanese Occupation


 「日本占領時期死難人民記念碑」(中国語)と言われる、高さ68mのこの塔は「血債の塔」とも呼ばれています。四本の塔はそれぞれ華人、インド人、マレー人、ユーラシア人を表しているそうです。碑の台座には、英語、中国語、マレー語およびタミル語で碑文が刻まれています。英語碑文は「深く永遠の悲しみをもって、日本軍がシンガポールを占領していた1942年2月15日より1945年8月18日までの間に殺されたわが市民の追悼のために、この記念碑は捧げられる」との内容になっています。


 ここで約3時間にわたって歩いた今回のHeritage Trail散歩は終点を迎えました。


 


編集後記


 数あるシンガポールHeritage Trailの中で、今回観光ルートとしても有名なJubilee Walkを選びました。国立博物館を訪問したことがある方は多くいらっしゃると思いますが、このTrailの中には他にも素晴らしい博物館が点在している、シンガポールを知るうえで絶好なTrailのひとつであると思います。シンガポールと日本の関係を学ぶ際には、ぜひ博物館の日本語ガイドの方々のお話を聞いていただきたいと思います。そして、私たちが日本人として必ず知らなければならない悲しい歴史について、それぞれが考えていくことが大切なのではと感じました。輝かしいシンガポールの現在の姿は、歴史を通して見るとまた違ったとらえ方ができるかもしれません。私にとって、美しいものを見た感動と歴史の重さを実感した、大変貴重な経験をした1日になりました。


(ルイーズきよ子) 


 


参考文献:ぶらりあるき シンガポールの博物館 中村浩著 芙蓉書房出版


            シンガポール戦跡ガイド 小西誠著 社会批評社


 


文責・写真:博物館日本語ガイド 西山ひろ美、森田恵莉華


     日本人学校小学部クレメンティ校 田端真侑教諭、前島祐太教諭、ルイーズきよ子教諭


 

The Heritage Trail②「The 2nd  Jubilee Walk」(July 2023)