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Hall Exploration Series Vol.2 〜Esplanade - Theatres on the Bay〜

31 Jan 2023

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 ホール探訪シリーズの1回目が好評で、記事を読んでヴィクトリアコンサートホールに行ってくださった方もおられると聞き、嬉しい限りです。「食べ物は体の栄養。教養は頭の栄養。芸術は心の栄養。」というのが、筆者の持論です。このシリーズをきっかけに、芸術に触れる機会が増え、心に栄養をたくさん摂り入れていただければ幸いです。


 さて、2回目です。今回は「ドリアン」の愛称で親しまれている「エスプラネード・シアター・オン・ザ・ベイ」をご紹介します。


 


客席すべてが劇空間


 


 マリーナベイ・サンズと共に、マリーナでひと際目立つ建築物であるエスプラネード。2つのドームで構成された複合施設となっています。こちらは、多様な舞台芸術に対応しており、その用途に合わせた施設がどれも素晴らしいのです!オーケストラなどの音楽はコンサートホール(1600席)で、室内楽など小編成の音楽はリサイタル・スタジオ(245席)で、バレエやオペラなどの演劇はシアター(通常使用1923席)でお楽しみいただけます。それだけでなく、コンパクトながらも立派な舞台機構を備え、可動式舞台のあるシアター・スタジオ(160〜220席)や、マリーナベイがステージバックに見えるアウトドア・シアターもあります。最近、ダンス公演でよく使われているウォーターフロント・シアターもエスプラネードの施設です。こちらは、舞台を中心に客席が四方を取り囲むなど、多彩なアレンジが可能なフリー空間です。


 また、無料で音楽などを楽しめるロビーもあり、「とりあえず、エスプラネードに来れば何かの芸術を味わえる!」と言っても過言ではないでしょう。コロナ禍で閑散としていた建物の内外が、今は活気で満ち溢れています。


 今回は、シアターのバックステージを取材させていただきました。ちょうどシンガポールバレエの「くるみ割り人形」が上演されているときにお邪魔しました。コロナ禍の規制が撤廃され、3年ぶりのオーケストラ演奏となり、オーケストラピット(オケピ※1)が使用されていました。


※1 演奏会では、オーケストラはステージの上で演奏しますが、バレエやオペラの場合、オーケストラは舞台上ではなく、舞台に近い最前列から可動式になっている数列を撤去し、オーケストラのメンバーが着席して演奏出来るスペースを作り、そこで演奏します。この部分を「オーケストラピット」と呼びます。日本語では「オケピ」と略することもありますが、英語ではピットと呼ぶことが多いようです。ピットはバレエではオーケストラの動きが視界を遮らないよう、オペラでは舞台の上の演技がよく見え、歌手の声の響きがオーケストラの大音量に分断されないように演奏を行うために、劇場にとって大切な機能です。いわゆる天井の部分は網になっており、高さもあまりないので、一般の方は窮屈に感じるかもしれませんね。    


 目の前で生演奏を聴きながらのバレエ公演。しかもクワイア(合唱)つき。なんて贅沢な公演でしょう。そのオケピにも入らせていただきました。思ったよりも天井が低め。その天井部分にはネットが張られていました。指揮台に立つと、オーケストラもバレエの舞台もよく見えます。振り向くと、客席もよく見えます。聞くところによると、ダンスのテンポなどはそのダンサーによって違うとのことで、その違いに指揮者は対応しているのだとか。2週間前に初顔合わせをして、ダンサーのテンポなどを覚えるとのこと。そして、本番ではアイコンタクトを取りながら指揮を振っていると…まさに「神業」!!


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 舞台袖は、夜公演に備えてスタンバイしている小道具類がいっぱい。舞台転換は30秒でしなければならないそうです。楽屋に戻って着替える時間がないので、ダンサーが早着替えするブースもありました。オケピにいる指揮者や転換スタッフなどすべてに指示を出すのが、ステージマネージャーです。優雅な舞台の裏では、舞台美術、衣装、音楽と様々な演出要素が同時進行で進んでいるのですね。


 衣装部屋も見せていただきました。この道35年のスタッフさんにもお会いでき、多くの方々に支えられて、あの素晴らしい舞台があるのだなぁとしみじみと感じました。ダンサー、音楽、照明、道具類、舞台装置、衣装…すべてが融合されたバレエ。これぞ、総合芸術!


シアターの客席は、座席数のわりにはコンパクトに見えます。もちろん、座る場所によって舞台からの距離は違いますが、でも、どこに座っても舞台との一体感を感じるのです。すべての客席で舞台上と同じ劇空間を味わえる感覚です。どうしてそのように感じるのか…客席の形状なのか、色合いなのか、はたまた他の何かの力なのか(もしかして、怪人が住んでいる?笑)分かりませんが、大きいホールながら、「舞台と客席が一体となる感覚」を読者の皆様にも味わっていただきたいです。


 今回は、シアターをご紹介しましたが、機会があれば、エスプラネード内の別のホールもご紹介いたします。南国の果物似の建物の中も、ホットな空間ばかりです。色々な味わい方ができるエスプラネード・シアター・オン・ザ・ベイに、ぜひ足をお運びください。


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※2 舞台袖にあるこの小ぶりな機械もまた劇場には欠かせない、どころか、心臓部と言ってもよいかもしれません。この操作卓はステージマネージャーが操作し、秒刻みの建物や背景などのセットの入れ替え、照明、音響の一部、舞台上、舞台袖及び楽屋の出演者の出番を指示する役目を一気に担います。


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〜取材を終えて〜


 コンサートを聴いたり、バレエなどを観たりするのが大好きな筆者にとって憧れのホールであるヴィクトリアコンサートホールに続き、エスプラネードシアターも取材でき、まるで夢のようです。どちらのホールも雰囲気がよく、スタッフの方は親切な方ばかりですので、さらに大好きなホールとなりました。


 今回も、シンガポールバレエでアンバサダーをされているヤング靖子さんには多大なるご協力をいただきました。「※1オーケストラピット」と「※2舞台袖」の説明もヤング靖子さんが書いてくださいました。また、エスプラネードシアターのラリッサさんには、丁寧な解説付きで、バックステージを案内していただきました。お二人には心から感謝いたしております。


 さて、次回のホールはどこでしょうか…。どうぞお楽しみに♬


 


エスプラネード・シアター・オン・ザ・ベイで開催されているイベントなどの詳細は、こちらのサイトをご覧ください。


https://www.esplanade.com/


 


*今回、私が体験させていただいたバックステージのガイドツアー(最少催行人数25名)も、一般の方向けにあるそうですので、詳しくはシンガポールバレエにお問い合わせください


ambassadors.council@singaporeballet.org (日本語可)


 


文責・写真:シンガポール日本人学校クレメンティ校教諭 永地志乃


画像:シンガポールバレエ・ヤング靖子さん提供 

Hall Exploration Series Vol.2 〜Esplanade - Theatres on the Bay〜