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Letter from Editing room (June issue 2023)

31 May 2023

 


 シンガポールでは6月から8月(と11月と12月)がドリアンの旬と言われています。私は何度かドリアンを食べるうちに、ドリアンが大好きな体になってしまいました(最初は食べられませんでした)。あるとき私は「これこそが異文化理解だ」と気づきました。最初は理解できなかったシンガポールのある文化を好きになったのですから。しかし、次の瞬間こんな疑問が浮かんできました。ドリアンを好きになれない日本人はシンガポールの(一部の)文化を理解していないと言えるのだろうか。まだ、ドリアンを好きになってしまった私にとって、ドリアンはもう異文化ではないのではないか。


 そこで異文化理解とは何かを、ちょっと立ち止まって考えてみました。文化」というのは多分、体に染み付いているものだと思います。8月だからお盆だなぁ、お墓参りでもするか、と思うこととか、お正月だからおせちを食べたいなぁ、というふうに体が自然と思うこと。一方で、「理解」は体じゃなくて頭でするものだと思います。これによって、体では受け入れられないことでも、頭で考えて、「相手にとって大事なものなんだな」と尊重することができるのだと思います。


 そう考えると、ドリアンの美味しさを体で分かっている私にとって、ドリアンはもう異文化ではないと言えます。だから、私は異文化理解をしているというよりも、体の一部がシンガポール文化に染まり始めているといったほうが正確でしょう(もう9年も住んでいるので多分、そうです)。それに対し、ドリアンを美味しいとは思えないけど、「臭い!キライ!」とか言ったりせずに、ドリアンをムシャムシャ食べる私をちょっと遠くから優しく見守ってくれる友人たちの態度こそが、真の異文化理解と言えるのではないか、と思ったのでありました。


(編集部 小林智)

編集室より(6月号)2023年