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Letter from Editing room (Dec Issue 2024)

21 Nov 2024

 


 シンガポールに住まなければ使うことはなかった熟語ランキング、堂々の第一位は「渡星」です。幼少期から天体をモチーフにした本や絵が大好きだった私は、これから住む場所が「星」と表す国だと知り、素敵な響きに胸が躍りました。シンガポールは漢字で表すと「新加坡」ですが、他にも「新嘉坡」や「星架坡」など、多くの漢字表記が存在しています。「新西蘭(ニュージーランド)」との区別を図るため、一文字で表す際は「新」ではなく「星」を使うようになったと言われています。


 さらに、私の心を捉えたのは、「南十字星」という広報誌の名前です。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』では、サザンクロス駅は銀河鉄道の終点で、天上への入り口とされています。今年の春、星を渡る旅に向かうジョバンニさながら、期待を胸に編集委員に立候補しました。


 そんな南十字星ですが、日本では沖縄の一部の地域でしか観測することができません。緯度が低いシンガポールでは、年中サザンクロスを見ることができます。童心に帰った私は、ある日の夜、南十字星を探しに公園へ出かけました。しかしながら、そこは眠らない町シンガポール。煌々と輝く高層ビルによって、二等星さえもうっすらとしか確認することができません。期待していた満天の星空は、歩いても一向に現れませんでしたが、この地では夜空よりも建物と地上の夜景の方が主役なのだと実感しました。


 駐在生活中、日々の喧噪と雑務に心が沈んだ時には、ぜひとも頭上の南十字星を探してみてください。多くの探検家を遭難させ絶望に追い込んだ「ニセ十字星」と間違えないよう、何卒ご注意を。


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(編集部 相原志保)


 


 

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