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Letter from Editing room (Aug Issue 2024)

01 Aug 2024

 


 


 「2階建ての市バスがすごく多いなぁ」。それが来星したころの感想でした。


 日本では観光バス会社などが商業目的で取り入れていることは多いものの、2階建てバスが日常的に街中を走っている光景はほとんど目にしません。これまでの人生の中で2階建てバスに乗ったことがなかった私にとって、当たり前のように2階建てバスが走っている日常には、心踊るものがありました。


 ここでの生活が落ち着いてきた私は、観光地へ行くともなく、まず真っ先にバスへの乗車を目当てにバス停に向かいました。


バス停に着いて間もなく、待ちに待った2階建てバスが堂々たる表情で目の前に到着。そして、いざ胸をときめかせながらバスに乗り込み、私は2階の一番前の席を陣取りました。発車。街中の景色が車窓を駆け巡っていきます。


 しばらくして、「へぇ〜」と、心の中で一言。正直に言うと、予想に反して感動は薄かったのです。「こんなもんか」と思い、そのまま買い物をして帰路につきました。


 ただ、不思議とそれ以降も、乗ろうとするバスが2階建ての時は、1階がどんなに空いていたとしても、自然と2階へ足が向きました。「同じ金額ならせっかくだから2階に乗っておきたい」という貧乏根性というよりは、もっとナチュラルに気持ちがそっちへ向いているような感覚です。そうやって乗車回数を重ねてみて自分なりに思ったことは、2階ならではの「守られた」雰囲気に自分は惹かれているのではないか、ということです。2階は1階とは違い、すぐに降りるような乗客はいません。比較的長い時間をバスに捧げられる人たちが多い分、あくせくしていない穏やかな雰囲気が漂っています。また、新たに乗車してくる客とも対面する必要がなく、バス停に停まるたびに発生するあの喧騒とも無縁です。そして何よりも、他人と向き合う必要がありません。総じて、まさにプライベート空間がそこには確保されているのです。


 心の拠り所である2階建てバスとともに、ここでの生活をこれからも楽しみたいと思います。


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(編集部 鈴木俊太郎)

 Letter from Editing room (Aug Issue 2024)