Doctor's small column (Dec Issue) 2024
21 Nov 2024
医師 毛利由佳
Bスポット療法で上咽頭の炎症が改善すると自律神経失調症状も改善!
以前、仲山医師のドクターからの手紙で紹介されましたBスポット療法(上咽頭擦過療法)は新型コロナウイルス(COVID-19)感染後遺症だけではなく、様々な心身症状に効果が見られることが分かっています。
Bスポット療法は、喉の最上部に位置する上咽頭(分かりやすく言うと、のどちんこの裏側の上の方)に、1%塩化亜鉛といった炎症を軽減する効果のある薬剤を綿糸で擦過・塗布する治療法です。以前は主に慢性上咽頭炎に対して行われていましたが、近年、新型コロナウイルス後遺症に対しても効果があると報じられた結果、多くの方の知るところとなり、多くの耳鼻科医が施行するようになりました。実はこのBスポット療法なのですが、考案当初から心身症状の緩和にも効果があることが報告されていました。しかし、科学的根拠がないため広がらなかったという歴史があります。一説には「Bスポット療法」というネーミングが悪かったのではないかという説もありますが…なお、Bスポットの「B」は上咽頭の別名である鼻咽腔の「ビインクウ:Biinku」の頭文字の「B」からつけられています。Bスポット療法はいう名前は俗称で、正式名称は上咽頭擦過療法:Epipharyngeal Abrasive Therapyで、EATと言われます。
科学的根拠に関してですが、上咽頭の炎症に由来する症状への作用機序は概ね解明されてきています。しかし、自律神経等から生じると考えられる心身症状への作用機序は現在もはっきりした根拠はありません。ただ、上咽頭の粘膜下には細静脈叢(さいじょうみゃくそう)と毛細リンパ管が存在し、迷走神経求心路の末端神経線維が豊富に分布しています。そのため慢性上咽頭炎があると粘膜下の血行不良等が生じて自律神経失調症状が現れるとも考えられ、その為Bスポット療法で上咽頭の炎症が改善すると自律神経失調症状も改善すると考えられています。上咽頭の炎症症状でも起きる頭痛や咽頭違和感、肩こりや慢性咳嗽(まんせいがいそう)等の他、めまい、起立性調節障害、慢性疲労、過敏性腸症候群、不眠などの自律神経失調症状の改善が期待できます。また、上咽頭周囲には扁桃が分布しているため、上咽頭の炎症から自己免疫疾患など免疫の暴走を誘発する可能性も指摘されています。それによって生じるIgA腎症の急性増悪、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)なども改善する可能性が見込まれます。
現時点では心身症状の軽快については、Bスポット療法は漢方薬と同じように(漢方薬もほとんどが科学的根拠はなく経験に基づいています)、経験に基づいて認められてきている治療法で、本来は心身症状やメンタルヘルス領域の疾患は薬物療法や精神療法が標準治療となっています。しかし、中には標準治療でなかなか良くならず、長期間に渡って治療が必要になってしまう方が一定数いらっしゃいます。そのような方の中には、Bスポット療法/上咽頭擦過療法が著効される方もおります。
なかなか良くならない心身症状でお困りの場合は、日本人会クリニック心療内科までお気軽にお問い合わせください。
