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Singapore and Japanese art education  Serial column ④ (Feb issue 2022)

28 Jan 2022

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第4回 「日本の図工教育とシンガポールのアート教育展」


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「日本の図工教育とシンガポールのアート教育」展の様子


 2021年12月1日から18日までジャパン・クリエイティブ・センター(JCC)にて「日本の図工教育とシンガポールのアート教育」と題した展覧会が開催されました(主催・JCC、シンガポール日本人学校)。この展覧会には日本人学校小学部の子どもたちとシンガポールの現地小学校(6校)の子どもたちの美術作品が展示されました。『南十字星』誌上で連載してきた本シリーズの内容を踏まえ、日本とシンガポールのアート教育の違いを子どもたちの作品から明らかにする展覧会です。展示された作品総数は800点を超え、子どもたちの作品のエネルギーがみなぎる展覧会になりました。会期中には1,600人以上の方が来場されました。


 展覧会初日にはオープニングレセプションが行われました。JCC所長 古郡氏の挨拶の後、シンガポール日本人学校チャンギ校校長堤先生、そしてMOE(教育省)アート教育のディレクターであるMrs. Clara Lim-Tanさんが展覧会のオープンを祝うスピーチをしてくださいました。この様子はオンラインでライブ配信されました(現在もJCCのフェイスブックページで閲覧することができます)。

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JCC古郡所長の挨拶


 日本の子どもたちが描く絵は思い出の場面を描いたものや、物語を読んで想像した場面を描いたものが多く、それに対し、シンガポールの子どもたちが描く絵は、自画像やシンガポールの風景が多く見られました。「アートを自分自身と周りの世界について学ぶ方法として理解する」と教育計画にある通り、シンガポールの美術教育が自己と社会/文化の関係に焦点を当てていることが見てわかりました。


 日本の図工教育の特徴を紹介するコーナーでは、子どもたちが感性を生かして、材料の感じを味わいながら作った作品が展示されました。段ボールを自由な形に切って、思いのままに様々な材料を貼り付けた作品や、墨のにじみやかすれを生かした墨絵作品などが紹介されました。何を作るか決めずに作り始める(材料に触発されながら作りたいものを決める)という日本の美術教育は、シンガポールの人々の目にどのように映ったでしょうか。それに対し、ワークシートやスケッチ、下描きなどを積み重ねならが一つの作品を制作するというのがシンガポールの美術教育の特徴です。それらの制作の過程を示す資料と、完成した美術作品をならべて展示することでシンガポールの美術教育を紹介しました。このように、感性に注目する日本の美術教育と過程に注目するシンガポールの美術教育が対比されました。


 別のコーナーでは、日本の子どもたちとシンガポールの子どもたちが同じテーマで絵を描く「ふしぎなたまごプロジェクト」が展示されました。「ふしぎなたまご」は日本の図工の教科書に載っている教材で、たまごの中から出てくるものを自由に想像して描くという課題です。同じテーマで描くことで、日本とシンガポールの両国の子どもたちの想像力の相違や類似性を垣間見ることができました。


 また、展覧会場には両国の小学校の美術の教育計画に出現する単語数を比較するパネルが展示されました。日本の図工教育では「表現」「活動」「材料」などの単語が上位にあり、シンガポールでは「アート」「評価」「過程」などの単語が上位に来るという結果が示されました。作品からだけでなく、教育計画からも両国の美術教育の違いについて検討する展示になりました。


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教育計画に出現する単語数を比較するパネル


 また、12月13日からオーチャードのThe Centrepointモールの一室で「シンガポールのアート教育者展」を開催しました。この展覧会は上記の展覧会の関連企画で、シンガポールのアート教育を学習者の作品からだけなく、教育者の作品からもみてみようという展覧会です。この展覧会にはシンガポール日本人学校の美術の教員や、早稲田渋谷シンガポール校の美術教員、ラサール美術大学、ナンヤン美術大学、アートスタジオミウの先生方の作品が展示されました。


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「シンガポールのアート教育者」展の様子


 これらの展覧会を通して、日本やシンガポールの美術教育への関心が高まり、両国の文化理解がより一層深まることになれば、企画者としてこれに勝る喜びはありません。4回に渡ったシンガポールのアート教育について考える本シリーズ記事を辛抱強く読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございました。


文責:シンガポール日本人学校小学部チャンギ校教諭 小林 智
写真 : 小林 智


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小林 智 プロフィール
シンガポール日本人学校小学部 チャンギ校勤務。図画工作科担当。高校の美術教師を経てシンガポール日本人学校中学部の美術科担当。2019年から現職。


 

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