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ぶらっと散歩ヘリテージトレイル①「第1回 ティオンバル(Tiong Bahru)」(1月号2023年)

29 Dec 2022

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 新企画“ぶらっと散歩 ヘリテージトレイル”。発展めまぐるしいシンガポールにも、歴史的な面影を残す場所が多数存在します。 


 記念すべき第1回は、ティオンバル(Tiong Bahru)をご紹介します。 


 


①ティオンバルのあらまし 


 ティオンバルと聞いて、皆さんが真っ先に思い浮かべるのは、ティオンバルマーケットではないでしょうか。ドーナツ型の建物の1階は在星日本人にも人気のウェットマーケット、2階には行列のできるストールがあるB級グルメスポット。「行ったことがある」という方も多いと思います。 


 ティオンバルは、今でこそエレガントなアールデコ様式の住宅街とトレンディなカフェが立ち並び、シンガポールで人気の住居エリアとなっていますが、Tiong(福建語で“死ぬこと”や“お墓”の意味)とBahru(マレー語で“新しい”の意味)からも想像できるように、1800年代半ばにはシンガポールの広東人と客家人の遺骨が納められる墓地があり、現在のような住宅街の建設に取り組み始めたのは、今から100年ほど前のことなのです。 


 ティオンバルマーケットの周りには、その歴史が垣間見える場所がいくつもありますので、それらをご紹介致しましょう。 


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ティオンバルマーケット入り口


 


②バードコーナー 


 Seng Poh RoadとTiong Bahru Roadの交差点は、多くの人が集う重要な交差点の一つでした。 


 1980年代初頭に設置されたバードコーナーでは、たくさんの鳥かごを吊るして鳥の鳴き声を聞いたり、鳥の所有者が交流をしたりするだけでなく、多くの観光客や見物人も集まっていたそうです。今のような観光名所もない時代、綺麗な鳥の鳴き声が人々を魅了していたのかもしれません。 


 2003年に元のバードコーナーは閉鎖されましたが、名残惜しむ人が多かったのか、また2008年には近くで再開されました。今でも週末になるとHDBの一角に鳥かごを持って集まり、鳥の鳴き声を聞いている人達を見かけることがあると思います。ティオンバルのバードコーナーが今でも息づいているのです。 


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バードコーナー 


 


③タントクセン 


 タントクセン病院。2003年、SARSが流行した際にシンガポールにいらした方で、この病院の名前を耳にしなかった人はいないと思います。


タントクセン病院はシンガポールで2番目に大きな急性期医療総合病院で、SARS感染者の治療を集中的に行ったのもこの病院でした。では、病院の名前の由来をご存じですか。 


 タントクセンは、シンガポールで最も重要な初期の開拓者の一人です。1798年にマレーシアのマラッカで生まれ、1819年にシンガポールに移住した後、土地の投機によって広大な土地を有する富豪となり、慈善活動にも注力した著名な人物なのです。 


 タントクセンは旧タンジョンパガー鉄道駅の跡地にある20ヘクタール以上の土地をはじめ、兄弟と共にナツメグ農園も所有していました。生前、タントクセンが寄贈した建物や施設の中に、彼にちなんで名付けられた病院がありました。タントクセンが地元の人々の窮状を救うために1844年に建設された病院は、1903年に現在のノベナの近くに移転し、タントクセンの功績を今に伝えている、というわけです。 


 タントクセンは1850年に亡くなり、Outram Roadの墓に埋葬されています。墓はタントクセンの子孫が世話をしており、ティオンバルのこの地から今でもシンガポールを見守っているに違いありません。 


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タントクセンのお墓


 


④Tiong Bahru Qi Tian Gong (齊天宮) 


 Tiong Bahru Qi Tian Gongは、Monkey God Templeとして知られています。1920年に設立され、1938年に現在の44 Eng Hoon Streetに移転しました。 


 この寺院は、「西遊記」に登場する 孫悟空を祭っていることに由来します。多くの猿神の像があり、およそ100年前に造られたものもあります。猿神は全能で、機知に富み、気まぐれで、勇敢かつ精力的で、真実と虚偽は簡単に見分けることができると信じられています。 


 旧暦の8月16日、孫悟空の誕生日には、信者によって寺院で特別な儀式が行われます。西遊記のファンならずとも、押さえておきたいスポットの一つです。 


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Tiong Bahru Qi Tian Gong (齊天宮) 


 


⑤SITフラット 


 Singapore Improvement Trust (SIT)は、当時シンガポールで蔓延していた住宅不足と劣悪な生活条件に対処するために1920年に設立されました。 


 SITが1936年から1941年にかけてティオンバルの開発を行った際、設計を担当したのが建築家のアルフレッド G. チャーチでした。彼のデザインはアールデコ運動の後半に派生したストリームラインモダンと呼ばれるスタイルを修正したものでした。そのスタイルは、自動車、電車、飛行機などの特徴的なデザインが組み込まれており、流線型の美しい形状が特徴です。 


 きれいな曲線を描いて角が丸くなった珍しい建物は、今でも64 Tiong Poh Roadなどに残っており、これらの独自の建物は今後も維持されることが都市再開発局によって保証されています。 


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SITフラット


 


⑥センポーガーデン 


 Seng Poh Roadにあるセンポーガーデンの整備が計画されたのは1972年のことでした。 


 この庭園が目立つようにと、サラワク生まれの彫刻家リムナンセンに依頼して造られたのが、喜びに満ちた収穫のダンスを踊る少女の彫刻でした。コンクリート製で、当時の価格で2,000ドル未満だったそうです。 


 この彫刻には、住民から様々な反応が寄せられ、気に入った人もいれば、抽象的すぎて飛び立とうとしている白鳥のように見えると批判する人もいたそうです。いつの時代も文化的創造物の評価はまちまちですが、リムナンセンは「白鳥は縁起の良い鳥なので、住民に繁栄をもたらすと考えてもいい」と受け流したそうで、ひょっとしたらリムナンセンはティオンバルがシンガポールの人気エリアになることを予見していたのかもしてません。 


 センポーガーデンは、今は近隣住民の憩いの場となり、リムナンセンの彫刻もその風景に溶け込んでいます。 


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センポーガーデン


 


⑦ティオンバルフラット 


 Tiong Bahru Roadの南側に、独特なデザインの4階建てアパートが並んでいるのを見たことがある人も多いと思います。今から約半世紀前に建てられたこのアパートは、建築家のリンカーン ペイジとロバートFNカンによって設計されました。 


 実用的で無駄をそぎ落とし、建物のラインはすっきりとシンプルでいて、外部の階段にゆるやかな曲線で囲われた踊り場と円形の舷窓(げんそう)を取り入れ、機能的で現代的な外観となっています。 


 このフラットにはエレベーターがなく、住む人にとっては不便なようにも思われるのですが、落ち着いた雰囲気で、他の地域にはない趣もあることから、住んでみたいと思う人が多く、特に欧米人には人気があるそうです。 


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ティオンバルフラット


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引用元:https://www.streetdirectory.com


①ティオンバルマーケット


②バードコーナー


③タントクセンの墓


④ティオンバルチーティエンコン


⑤SITフラット


⑥センポーガーデン


⑦ティオンバルフラット


 


〜番外編〜  


ティオンバルのグルメ 


 ティオンバルヘリテイジの旅、いかがでしたか。せっかくティオンバルに行ったのなら、この街ならではの料理を食べておきたいですね。 


人気のお店は 


オールド ティオンバル バクテー


(58 Seng Poh Rd, #01-31, Singapore 160058) 


その名の通り、バクテーのお店 


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ポーキー イーティングハウス


(69 Seng Poh Ln, #01-02, Singapore 160069) 


シャンパンポークで有名なお店 


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ティオンバル ベーカリー


(56 Eng Hoon Street, #01-70, Singapore 160056) 


元祖ティオンバル ベーカリー 


 この他、ティオンバルマーケットの2階には、たくさんのB級グルメがあります。人気のお店は、食事時に行列ができていますので、一目瞭然です。 


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編集後記 


 ティオンバルといえば、「マーケット」や「カフェ」という印象が強かったのですが、かつてのシンガポールを感じられる場所がたくさんあり、驚きました。普段、何気なく通っていたカフェの側に、よく訪れていたマーケットの近くに・・・キョロキョロと周りを見渡してみると、「ヘリテージ」の看板がたくさんありました。行きつけのお店や住んでいるお家の近くにもヘリテージスポットが隠れているかもしれません。シンガポールの過去と現代が交差する街、ティオンバル。是非、足を運んでみてください。  


文責:日本人学校中学部教諭 柴引真奈、元持成美


写真:南十字星編集長 梅田哲司

ぶらっと散歩ヘリテージトレイル①「第1回 ティオンバル(Tiong Bahru)」(1月号2023年)