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新ミュージアム散歩 シンガポール・ビエンナーレ2022 〈前編〉 Singapore Biennale 2022(SB2022)-Natasha (12月号2022)

30 Nov 2022

 


2022年10月16日(日)〜2023年3月19日(日)


 


 現代アートの祭典、シンガポール・ビエンナーレ2022がついに開幕しました。芸術ファンはもとより、アート初心者にとっても、最先端の作品を気軽に楽しめる絶好のチャンスです。ぜひ足をお運びになってみてはいかがでしょうか。「新ミュージアム散歩」では、2回にわたりビエンナーレをご紹介します。


ビエンナーレとは?


 ビエンナーレは、2年に1度開かれる国際的な芸術祭のことです。19世紀に始まるヴェネチア・ビエンナーレが元祖として有名ですが、今では世界各地で開かれています。ちなみにトリエンナーレは3年に1度開かれるもので、日本では横浜トリエンナーレや新潟の越後妻有アートトリエンナーレ、瀬戸内海の島々で開かれる瀬戸内トリエンナーレなどが知られています。


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シンガポール・ビエンナーレ2022のビジュアルイメージ
Singapore Biennale 2022 Key Visual – intervened by Firas Shehadeh
Image courtesy of Singapore Biennale


 


今年で7回目


 シンガポール・ビエンナーレは2006年にスタートし、今回で7回目になります。第1、第2両回には六本木にある森美術館の館長だった南條史生氏がアーティステック・ディレクター(芸術監督)を務めるなど、日本とも深い関わりがあります。先端的なデジタル映像アートを制作する日本の「チームラボ」をはじめ、シンガポール・ビエンナーレ出展をきっかけに国際的に飛躍したアーティストも多く、アジアで存在感を放つ芸術祭です。


4人の女性芸術監督


 今回のシンガポール・ビエンナーレは、4人の女性芸術監督が統括しています。シンガポールのジューン・ヤップ(June Yap)、インド出身ドイツ在住のニダ・ガウス(Nida Ghouse)、クウェート出身ヨルダン在住のアラ・ユニス(Ala Younis)、韓国出身オランダ在住のビンナ・チョイ(Binna Choi)の各氏です。シンガポール美術館(SAM) の著名キュレーターであるヤップ氏を筆頭に、いずれも多くの展覧会を手掛けたり、自らアート制作に関わってきたりした面々です。主に4人の出身地や暮らした土地に関係する国・地域から約60組のアーティストの作品が集められています。


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4人の芸術監督(左からヤップ、ガウス、ユニス、チョイの各氏)
Image courtesy of Singapore Art Museum


メイン会場はなんと倉庫地区


 今回のビエンナーレのメイン会場は、タンジョン・パガー・ディストリパークと呼ばれる倉庫地区(Tanjong Pagar Distripark=TPD)です。ここに大半の出展作品が展示されています。


 TPDに来て最初に目に入るのは、うずたかく積まれた貨物コンテナや忙しく行き交う輸送重機、そして無機質なコンクリートの倉庫群です。世界に冠たる貿易港シンガポールの姿が垣間見えますが、前回ビエンナーレのメイン会場が中心街にあるナショナルギャラリーだったことを考えると、今回はなかなか思い切った場所を選んだようにも見えます。


 しかし、この搬入デッキや貨物エレベーターがむき出しの倉庫ビルは、実は知る人ぞ知るアートスポットです。現在本館改築中のシンガポール美術館(SAM)は2022年1月からここに機能を移しており、2フロア3,000㎡を超える大空間に、展示室やアーティスト・イン・レジデンス向けのスペースなどが設けられています。他にも複数のアートギャラリー、隠れ家のようなバーが扉を開いています。


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タンジョンパガー・ディスト­リパーク(TPD)にあるビエンナーレのメイン会場
Image courtesy of Singapore Art Museum


 TPDがアートスポットになった背景には、シンガポール政府の文化芸術振興策を担う国家芸術評議会(NAC)が2021年に、ここにアート地区を作る方針を打ち出したことがあります。それ以前にもアートギャラリーはありましたが、NACがTPDに着目したことで流れが一気に加速した格好です。シンガポールには同じNACが関わって2012年頃からアート地区となったギルマン・バラックスもあります。両地区がどう共存あるいは競合していくのか、今後が注目されます。


作品はシンガポール中にも


 さて、ビエンナーレに話を戻すと、出展作品はTPDのメイン会場のほか、シンガポール内の各所—公園やビジネス街、図書館、セントーサ島など—に展示されています。セントジョンズ島やラザロー島にも作品があるので、ピクニックがてらフェリーに乗って見に行くのも一興かもしれません。


 各作品の展示場所はビエンナーレの公式サイトで確認できます。主な出展作品や「ナターシャ」という副題については、『南十字星』2月号でご案内する予定です。


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現代アートへの敷居を低く


 現代アートは、とかく「難解」「敷居が高い」「何が何だかわからない」などと思われがちです。どうしたら現代アートをもっと気軽に楽しんでもらえるか — 近年、多くの美術館がこの課題に取り組んでおり、様々なガイド手法が編み出されています。日本語ガイドグループでも、米グッゲンハイム美術館が採用するインタラクティブな(双方向の)ガイド手法について、同館の研修に実地参加したメンバーによるワークショップを行うなど、ビエンナーレ作品を含め現代アートにどんどん親しんでいただけるよう日々研鑽を積んでいます。


アート鑑賞は学力アップにも一役?


 ところで、教育に関心がある方は、古い研究に基づく「ゲッツェルス・ジャクソン現象」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。「知能はやや低いが、創造性が高い子供」と「知能は高いが、創造性が低い子供」では、前者の学力のほうが高いという現象のことです。これを受けて最近では「学力の向上には、創造性を鍛えられるアート鑑賞が有効だ」という指摘も見受けられます。その効果は議論の分かれるところでしょうが、少なくとも多様なアートに触れることは、子供の感性を磨き、創造性を刺激する一助になるかもしれません。今回のビエンナーレでは、若年層に親しみやすい作品も展示されており、大人から子供まで幅広く現代アートを楽しめる機会となっています。


日本語ツアーを実施


 ミュージアム日本語ガイドグループは、メイン会場のTPDで日本語ツアーを実施しています。ガイドの面々は、ビエンナーレ開幕前から、4人の芸術監督自らによる作品紹介や会場案内に参加し、多彩で刺激的な作品の数々をじっくりと見てきました。アーティストの来歴や作品も詳細にリサーチしており、来場者の方々に最新のアートを見て、聞いて、体験していただくことを楽しみにしております。ツアー開催日は、グループのブログサイトでご確認いただけます。


文責・写真 ミュージアム日本語ガイド(鎌田 禎子)


 


シンガポール・ビエンナーレ2022の基本情報


公式サイトURL  https://www.singaporebiennale.org/


期間  2022年10月16日(日)〜2023年3月19日(日)


場所    メイン会場  Tanjong Pagar Distripark,  39 Keppel Road, 089065


    他の展示場所は公式サイトを参照のこと


            メイン会場のみ有料


料金  外国人S$25  (海外の学生、60歳以上はS$20)  


    シンガポール国民・PR保持者 S$15


    (NSF、60歳以上はS$10)


    シンガポール国内の教育機関の学生・教員、6歳以下は無料


日本語ガイドツアー 催行日は日本語ガイドグループのサイトhttps://jdguide.exblog.jp/に掲載


 

新ミュージアム散歩 シンガポール・ビエンナーレ2022  〈前編〉 Singapore Biennale 2022(SB2022)-Natasha (12月号2022)