心と体のセルフケア(講座講師だより)インド編 連載コラム①(10月号 2021年)
30 Sep 2021
心と体のためのスパイス
インド料理は様々なスパイスを使うのが特徴です。朝食からデザートまでインド人はスパイスをよく使います。料理に独自のアイデンティティを与え、それぞれの料理を驚くほど香り高く仕上げるスパイスを、インド人は天候や気分、健康状態を考えつつ、家庭で入手できる食材に応じて選びます。
スパイスは、食品の嗜好、風味、色どりを良くするために使うだけでなく、病気の予防、食品保存のためにも使われます。例として、糖尿病、血管疾患、関節炎、癌、エイズなどの病気の予防に用いられる他、医療、化粧品、薬品、その他多くの産業でも使用されています。スパイスは鉄、カルシウム、ビタミンB、C、抗酸化物質の優れた供給源でもあります。
インドでは多くの香辛料が生産されており、世界で使われる約80種類のうち約50種類が栽培されています。植物の葉(月桂樹、カレーリーフ)、樹皮(シナモン)、根(生姜)、果実(胡椒)、種子(クミン、マスタード)、樹液(アサフェティダ、食用ガム)、花の柱頭(サフラン)などから作られます。
インドカレーのほとんどは五つの基本的なスパイスで作られます。クミン、マスターシード、コリアンダーシード、ターメリックパウダー、チリパウダーがこれにあたり、加えてガラムマサラ、サンバーマサラなどのマサラ(ブレンドされたスパイス)を使用することもあります。
ターメリック(ハルディー)
ターメリックは東南アジア原産で、古くから使われています。オレンジと生姜のようなマイルドな香り(胡椒に似ている)で黄色のスパイスです。辛味、苦味、麝香のような風味を持ち、レンズ豆、野菜、肉料理に使用します。消毒のための軟膏としても使われます。
用途
-おすすめ料理:レンズ豆、野菜、 肉料理
-防腐剤
-宗教的儀式や結婚式
-そのまま、又は乾燥させて使う
効果
-肌を冷やして滑らかにする
-色素沈着を予防
-美肌
-血液浄化
-脳、肝臓の健康を促進
-ガン予防
-駆虫剤
-抗炎症
-免疫力を高める
シナモン(ダルチニ)
シナモンは樹皮を乾燥させたもので、甘い香りと温かみを感じさせる味わいが、料理に独特の味わいを加えます。
用途
-おすすめ料理:カレー。アップルパイ、シナモンパンのようなスイーツ
-飲料:紅茶や冷たい飲み物
効果
-抗凝固作用
-血糖値を制御する
-吐き気、発熱、下痢の緩和
-防腐剤
-炎症を軽減
-記憶の改善
-集中力を高める
-認知症予防
グリーンカルダモン(エライチ)
「スパイスの女王」として知られる、甘く、香りの高いスパイスです。
用途
-おすすめ料理:カレー。アップルパイ、シナモンパンのようなスイーツ
-野菜、肉、お米料理やお茶に、そのままか粉末にして使用する
-化粧品、香水
効果
-脳細胞をフリーラジカルによる損傷から保護するのに役立つ
-抗菌性
-抗酸化
-クーリング効果
-1日小さじ1/2杯を健康的な食
事に合わせ3ヶ月間服用することで、心臓の動脈と筋肉をリラックスさせ、血圧の正常化、脳卒中のリスクの低下を助ける
サフラン(ケサール)
サフランは「ゴールデンスパイス」として知られ、世界で最も高価なスパイスの一つです。アヤメ科の一種のサフラン(番紅花)の柱頭から抽出され、力強くエキゾチックな香りと苦味、辛味があります。イラン、スペイン、フランス、イタリア、インドで栽培されています。
用途
-おすすめ料理:ビリヤニ、パエリアなどの米料理、魚料理、パン、スープ、デザートなど地中海料理、アジア料理に使用
-着色料としても使われる
効果
-サフランオイルーセラピー効果
-体を温める効果
-血色改善
-吐き気の軽減
-頭痛の軽減
-傷の回復
-抗炎症
-免疫力アップ
黒胡椒
黒胡椒はインドで生まれ、「スパイスの王様」として知られています。刺激的な味であらゆる食品や飲料の風味付けに世界中で使われています。
用途
-スキンケアとボディケアのための成分
-薬効成分
効果
-収斂剤として機能
-血液循環を活性化
-濾胞を刺激する
マサラ
それぞれのマサラには抗酸化物質が含まれ、免疫力と抗炎症作用があります。
ガラムマサラ:
あらゆるカレーやレンズ豆料理に欠かせない人気のスパイスミックスで、配合は各家庭で異なります。ガラムは「辛い」、マサラは「スパイス」または「スパイスブレンド」を意味します。辛いですが、チリパウダーほどではありません。ガラムマサラはローリエ、シナモン、ナツメグ、クローブ、メイス、黒胡椒、ブラックカルダモン、グリーンカルダモン、赤唐辛子などから作られ、家庭によってはクミンシード、フェンネルシード、ポピーシード、コリアンダーシードを加えることもあります。初めに煎って香りをだし、次に砕いて使い、クローブ、胡椒、唐辛子の使用量によって辛さを調節します。
カレー粉:
日本で人気のカレー粉は、ターメリック、マスタード、生姜で出来ていますが、ガラムマサラとは大きく異なるのでインド料理で代替品としては使いません。歴史を振り返ると、カレーは英国がインドを支配したときに英国人によって造られた言葉です。タミル語のカリ(ソース)に由来し、現在では南アジアのスパイスや食品を指す言葉として一般的に使われています。英国人が植民地インドから帰国する時に本国で一種類の粉でカレーを作れるように、スパイス商人が作ったのが始まりと言われています。これが19世紀明治時代の日本に伝わり、有名な日本のカレーとなりました。
サンバーマサラ:
南インド料理によく使われるサンバーマサラは主に、コリアンダーシード、クミンシード、フェヌグリークシード、赤唐辛子、ターメリック、黒胡椒で作られます。ひよこ豆やホワイトグラムレンティルのような豆類も含まれるところが他と比べてユニークです。既製品は非常に辛いですが、家庭で作る場合は赤唐辛子の量で辛さを調節します。
パンチポロン:
東インドではパンチポロンスパイスとシードミックスが広く使われています。クミン、マスタードフェヌグリーク、ニゲラ、フェンネルの種子が同量含まれ、野菜カレーや肉料理、きゅうりのピクルスに使われます。以下のような効果があります。
•健康で輝く肌
•美肌
•消化を助ける
•母乳の出を良くする
•糖尿病に効く
•髪の質をよくする
•病気の予防と治療効果を助ける
•血圧低下
•心臓関係の病気
•免疫力アップ
私のお気に入りのスパイスはパンチポロンです。素晴らしく香りがよく、五つのフレーバーが野菜や肉のカレー(ピクルスにも!)に信じられないくらいに上手く働きかけ、料理に必要な味の強さをしっかり与えるからです。
心と体に有益なスパイスやハーブは沢山あります。そうしたスパイスを加えて料理を作ることで、食べ物を通じ、健康を維持する役に立ちますので、ぜひ、こうした素晴らしいフレーバーのレシピを試してみてください。シンプルなお茶から香り豊かな食事、サフラン風味のデザートまで幅広く作ることが出来ます。ただ、体に良いと言っても使いすぎにはご注意ください。
以下、簡単に素早くスパイスを使う方法をご紹介しましょう。
小さじ1杯のギー(バターオイルの一種)、小さじ1/2杯のターメリック、挽きたての黒胡椒をひとつまみ、これを毎朝空腹時に食べると、肌、髪の状態を良くし、消化、免疫力を高めます。その後はコップ一杯のお湯を飲み、20分してから食事を始めることをお勧めします。
3種類のターリ(インド料理の定食風のもの)は文中のスパイスを使って作りました。
文責・画像 : Ms. Sourabh Agrawal ソラボ アグロワル
インド料理研究家。日本人会開講講座講師(スパイスサプライズ)。シンガポール日本人会で料理インストラクターを務めて6年目。
インド全土の料理レシピを英語と日本語で教えることが可能。
1996 年から 2010 年まで日本に滞在し、東京と横浜で料理教室を開催。国際理解インストラクターとして、横浜の小学生に英語でインド文化を教えた経験もある。
翻訳:ヤング靖子
