心と体のセルフケア（講座講師だより）太極拳編 連載コラム①（3月号 2022年）
24 Feb 2022
諸説ありますが、太極拳の起源は中国・清代初期に生まれた武術と言われています。その健康効果は古くから知られていたものの習得が難しく、長い間一部の武道家の間にのみ伝授されていました。時と共に流派が生まれ、また健康維持と精神修養に重点を置いて改良され、老若男女問わず習得できる運動として普及していきました。1956年、中国は誰にでも学べる新しい太極拳として24式簡化太極拳を制定し、日本へも1970年代に紹介されています。
ここシンガポールでも、新型コロナウイルス（COVID-19）が蔓延する前は、体育館の近くや、公園や集合住宅などのフリースペースで太極拳をしているグループを見たことがある人もいるかもしれません。
シンガポールでは学校のクラブ活動や一般の習い事としても非常に人気があり、推定100万人が太極拳に親しんでいると言われています。
現在、シンガポールには５流派（陳式、楊式、孫式、武式、呉式）があり、これらは現代に普及している5大流派でもあります。
中でも穏やかな動作と伸びやかさが特徴である楊式は、習得が容易で、年齢や性別を問わずに楽しめるため、最も人気があります。
太極拳は、陰と陽、つまり「柔」の技と「剛」の技のバランスで成り立っています。
一見、ゆっくりとした動きはとても簡単そうに見えますが、実際にやってみると、手足を同時に動かすのは慣れるまでは難しいことがわかると思います。身体運動と同時に頭の体操になります。
また、さらに極めようと思うと、身体と精神を適切にコントロールし全身に気を巡らせることが必要になってくるため、大変奥の深いものです。
（写真１）
太極拳の効能
1. 心と体のストレス解消
太極拳は、短いもので3分、長いものになると20分間、緩やかに切れ目なく動き続けます。家の中でも気軽にできる負担の軽い有酸素運動です。気分転換や、または座りっぱなしの身体の血行を良くするために非常に効果的です。
2. 体にエネルギーを行き渡らせる
動きに慣れて、集中して細部にまで気を配れるようになると、体がぽかぽかしてきます。新陳代謝を高め、血行不良による冷え性にも効果的です。
またさらに極めると、“気”をうまく操れるようになるかもしれません。
3. バランス感覚と脚筋力の向上
太極拳はゆっくりした動きの中で、体の各部分を協調させ、体重移動をスムーズに行う必要があります。継続すれはバランス感覚と下半身の筋力の維持・向上が期待できます。
体を支えるためには脚筋力を鍛えなければなりません。樹木がその根によって大地と繋がっているように、私達の力や動作も地面に接している足を起点にしています。
4. 体と心の調和を保つ
身体が整うと心も健康になります。無心に体を動かすことによって、思考がリセットされて気持ちが落ち着きます。
5. 自己防衛
もともとは武術に端を発しているため、戦いの際の防御術が基になった動作がたくさんあります。拳の握り方、蹴り方、攻撃の交わし方が自然と身につきます。そして足腰も強くなります。咄嗟の事故や痴漢や災難に遭遇した時に、役に立つこともあるかもしれません。
次回は、太極拳を実践する上で心掛けておくとよいことについて解説します。
（写真2）
（写真3）
(写真1-3) 武術・護身術が基になった太極拳の様々な動作。太極拳は全身の動きを協調させ、一連の動作を切れ目なく続けることによってツボを刺激、気を巡らせて体を整えます。正しい方法を身に付ければ、何歳でもどこででも続けられ、脚筋力、バランス力、免疫力などの維持・向上が期待できます。
文責：クー・ホック・ライ
写真提供：太極拳同好会
＊記事は講師が英語で執筆されたものを太極拳同好会で和訳いたしました。英語版記事はウェブサイトへ掲載しております。
プロフィール
氏名 : クー・ホック・ライ（Khoo Hock Lai）
トレーナー :
a) シンガポール日本人会
b) シンガポール人民協会
c) スポーツSG
太極拳の経験：30年
得意技：楊式
以下の動画で楊式太極拳の特徴・種類などをご紹介していますので、ご参考にご覧下さい。
「太極拳同好会 2021夏 活動のご紹介」
