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心と体のセルフケア(講座講師だより) TCM講師③「“気”と共にあらんことを!」(12月号 2022年)

30 Nov 2022

“気”と共にあらんことを!


 


 気(气“チー”と発音)は、中医学をきちんと理解されていない人にとっては、最も論議を呼び、誤解されやすい言葉の一つです。
哲学的観点からみると、宇宙の3つの柱である天(天“Tian”)、人(人“Ren”)、地(地“Di”)の間には三位一体の気の関係が存在します。
この三位一体の関係が、総体的理論とのバランスが取れて初めて、地球上の生命は豊富かつ均衡がとれるのです。
天の気は最も重要で、太陽の光、月光、重力、星や惑星からのエネルギーなどの力で構成されています。
地の気は天の気によって調節されており、中国の理論によれば、地の気はエネルギーの線とパターンで構成され、地球の磁場と地熱が、地球上すべてのものが生きるための豊富な資源を供給しています。
人の気は、それぞれが自身の内部に気を持っており、常にそのバランスを保とうとしています。
これらのことから、気という言葉は、中医学以外にも中国の文化や言語のあらゆる部分に浸透しており、下記のようなエネルギーの活力や自然要素の機能を説明する時に使われます。


*  生气(怒り−エネルギーの爆発)


*  天气(天気−環境の性質)


*  勇气(勇気−戦うまたは防御する能力)


*  (気質−人の自然な行動傾向)


*  小气(けち−他者に与えることができない)


*  大气(雰囲気)等


 また、体内を循環し、体の動きに作用するエネルギー物質または生命力”を説明するのに役立つだけでなく、気はさまざまな内臓系の機能と活力を説明するのにも使われます。


気の源と種類


 中医学では、人体には主に2つの気の源があります。先天的な気(出生前又は生まれ持った気)は、人の生命が形成された直後から存在します。この種類の気(親から受け継いだもの)は新しい命が発達するための基盤です。出生後は、人体は外部から栄養を吸収して先天性の気を養います。後天的な気(出生後の気)は、私たちが一生のうちに吸い込んだ空気や食べたものによってつくられる気のことです。したがって、もし先天的に優れた  気を持っていなくても、後天的な気によっていつでも健康な体を手に入れることが出来るのです。


 診断と健康状態の判断を助けるために、中医学では気をさらに次の種類に分類しています。


* 元気(Yuan Qi元气)は正気(Zheng Qi 正气)とも呼ばれ、4種類の気の中でも最も大切な気で、人の生命活動において重要な牽引力となっています。誰かが重傷を負った時など、その悲惨な健康状態を中国語の慣用句元气大”(Yuan Qi Da Shang)と言って表現します。


* 宗気(Zong Qi宗气)は、私たちが吸い込む新鮮な空気と食べた物が合わさってつくられるものです。宗気は気道を通って循環し、発声、発語能力、呼吸などに関与します。そのため、声を出すことが出来なくなった時など、中国語の慣用句宗气不足”(Zong Qi Bu Zu)と言って表現します。


* 営気(Ying Qi气)は、体内を血液と一緒に血管の中を流れている気です。営気は血液の生成と全身の栄養を司どっているので、栄養不足の人は“养不良”(Ying Yang Bu Liang)と表現されます。


* 衛気(Wei Qi气)は外因性の病原体から体を守るために体表周辺で防衛している気です。毛穴の開け閉めや、汗の量を調節し、比較的一定な体温に保つ働きをしています。汗をかきやすい人は、衛気が弱く“气虚”(Wei Qi Xu)とみなされ、栄養不足の人の場合は、养不良”(Ying Yang Bu Liang)と言われています。


 気は、宇宙の自然な要素や私たちの周りを自由に流れる空気の様に、生きている人間の内部で絶え間なく活動し循環しています。中医学者は、患者の気の乱れによる症状を注視して病気の性質を判断しています。


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気の乱れ


気滞(气滞)などの気の乱れは、気の動きが妨げられたり、気が正常に流れなかった時などに起こります。臓器の痛みや腫れ等の典型的な症状は、気滞が原因です。
気逆(气逆)は、気が内臓の動きに逆らって流れてしまう時に起こります。症状としては、消化を助けるはずの胃の気が逆流してしまう時に、逆流性食道炎等があります。
気陥(气陷)は、体が内臓機能を支えるために、重力に逆うように守る働きが出来ない時に起こります。女性の子宮脱や男性のヘルニア等がこの状態の症状です。


気の調節


 TCMでは、体の気を調節するためにさまざまなアプローチを採用しています。呼吸法や気功の実践によるマインドフルネスは最も一般的なアプローチで、体と宇宙が調和するよう調節してくれます。
気”と共にあらんことを!


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文責・イラスト:クレメント・ング(Dr Clement NG Shin Kiat)


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<筆者プロフィール>


クレメント・ング シン キアット


Dr Clement NG Shin Kiat


クレメント・ング医師、TCMandYou Pte.Ltd. の創立者・主任コンサルタント、医学博士(中医学)、MBA(経営戦略)。
ング医師は、シンガポール規格評議会BHSC下にあるシンガポールの補完医療および健康製品に関する技術委員会委員長、またシンガポール鍼灸協会の会長です。


MCYS、Singtel、ST Engineering、Eu Yan Sangなどの公共および民間セクターで25年以上のクロスファンクショナルで進歩的な企業経営の実績があり、シンガポールの さまざまなTCM 組織での役員を務めてきました。 


また、英中両方の文化に精通し、英語・中国語のバイリンガルでもあります。
中国の南京中医学大学で医学博士号(漢方)を取得し、シンガポールの南洋理工大学(NTU)の南洋ビジネス スクールでMBAを取得。


国際的な中医学の先生であるング医師は、シンガポールのSkillsFutureトレーニングプログラムに認可された、漢方・健康に関する企業向けのワークショップをバイリンガル(英語と中国語)で開催されています。また、オンライン学習プラットフォームを通じて、世界100か国以上からの学生達に中医学の知識を広めています。


 診察・治療、トレーディング、およびトレーニング サービスに加え、ISO/TC 249(TCM)専門委員会のメンバー、また世界中医学会連合(WFCMS) の下のさまざまな専門委員会の評議会メンバーでもあります。シンガポール伝統中医学大学の元副学長であり、シンガポールTCM医師理事会の継続教育委員会の創設時メンバー。日本人会TCM講座講師。


 英語の記事を編集部にて日本語に翻訳いたしました。


 英文のオリジナルの記事はウェブサイトにて掲載中。

心と体のセルフケア(講座講師だより) TCM講師③「“気”と共にあらんことを!」(12月号 2022年)