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日本×シンガポール 学生国際アート交流展(11月号2022年)

31 Oct 2022

日本とシンガポールの子どもたちの交流


 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、シンガポール日本人学校では現地校との交流ができない状態が続いていました。せっかく外国の地で学んでいる子どもたちが、2年間、現地の子どもたちと交流することができなかったのです。しかし、徐々に規制が緩和されてきました。これを機に、アートを通して子どもたちの交流を実現しようというプロジェクトが進められています。


 


どんな活動をするの?


 このアートプロジェクトでは、日本とシンガポールの子どもたちが一つの絵を共同で作ります。とはいえ、同じ場所に集まって一緒に絵を描くのではありません。一人ひとりが別々に描いた小さな絵をつなぎ合わせて、大きな絵を作ります。コロナの規制が最も厳しい時期に企画されたので、子どもたちが同じ場所に集まらずに活動できるようにと考案されました。しかし、現在は子どもたちの交流が可能になっていますので、当初の予定を変更して、絵を組み合わせる作業を同じ場所で一緒に行うことにしました。この活動は子どもたちにとってかけがえのない機会となるでしょう。


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一人ひとりが別々に描いた小さな絵をつなぎ合わせて、大きな絵を作る


 


異文化理解に必要なこと


 絵を組み合わせる作業において子どもたちは、初めて出会う現地の子どもとコミュニケーションをとることに喜びを感じたり、協力して作品を作る楽しさを分かち合ったりすることでしょう。ところで、異文化を理解したり、異文化に向き合ったりするには、初めてのことや人、知らないものに開かれていなければなりません。自分の常識に囚われていると、新しいものや、知らないことを受け入れるのは難しくなります。分からないものに開かれていること、これが異文化理解に必要な態度といえるでしょう。


 


誰にも予想できないアート


 このアート活動には一つの特徴があります。それは、制作に参加している誰もが作品の完成を予想することができないということです。子どもたちは、それぞれが思いのままに自分の絵を描いています。だから、絵をつなげたときに、隣り合った絵同士が意外な組み合わせを生み出していきます。誰も、最終的な作品の完成図を思い描くことはできないのです。


この予想できない色や形の中に面白さを見つけ出すことこそが「新しさ=創造性」なのです。


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予想できない色や形の中に面白さを見つけ出すこと


 


日本の美術教育における創造性


 日本の美術の授業にこんなものがあります。粘土を手で力いっぱい握ったときにできる不思議なデコボコした形。この形をもとに、何を作るか考えるという学習です。普通、物を作るときは、制作者が先に作りたいものを考えて、それを形にしていきます。しかし、この教材では、与えられた(とはいえ自分で作ったものではありますが)偶然の形から、面白い形を見つけていくという活動を行います。つまり、学習者は制作を始めるときには自分が何を作るかのイメージをもっておらず、偶然性を受け入れながら、見たこともない形に出会い、そこに自分の作りたいものを新たに発見する、という学習なのです。


 


クリエイティビティこそが求められている


 もし、自分が何を作るか初めから分かっていたら、そこには新しさ・発見はありません。創造力(クリエイティビティ)とは、全く新しいもので、作者にとってさえも新しいものなのです。誰もが知っている通り、作業の自動機械化が進み、複雑な計算をAIがしてくれる社会がすでに到来しています。このような社会では「きれいに色を塗る」とか「上手に形を描く」というような技術の価値がどんどん下がっていきます。それらはコンピューターが人間より高い精度でやってくれるからです。むしろ、人間特有の、美しさや面白さを発見する力が求められています。


 


異文化理解とアートをかけ合わせた交流


 私は、異文化理解において、「知らないものやことに開かれた心が必要である」ということを述べました。また、アート活動において、「予想ができないものの中に良さを発見することが大事である」ということを述べました。どちらの活動においても、分からないものに開かれた姿勢が大事なのです。これは、今回のアート交流会での柱となるアイデアであり、これからの時代を生きる子どもたちに必要な力であると私は思っています。


 さて、子ども一人ひとりが描いた小さな絵は、大きな絵の一部になります。だからといって一枚一枚の小さな絵が大きな絵の中に埋もれてしまうことはありません。一枚一枚の絵は、子どもの個性に応じて自由に描かれているからです。つながっているようでつながっていない、でもひとつの大きな絵が見える、そんな複雑さ、多様性、曖昧さがこの作品の魅力になるのです。多文化が混ざり合い一つの社会を形成するシンガポールを象徴するような作品になるのではないでしょうか。


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現地校の美術の授業で制作された作品 (Yumin小学校より)


 


作品公開は12月


 この日本とシンガポールの子どもたちによる共同制作作品は12月にジャパン・クリエイティブ・センター(JCC)にて展示されます。JCCは日本の文化をシンガポールに紹介することを目的とした日本大使館の施設です。この共同制作作品は、日本とシンガポールの友好関係を感じることのできる意義のある作品になるでしょう。また、鑑賞者の創造性を刺激してくれる作品になると思います。展覧会には共同制作だけでなく、日本人学校、現地校の美術の授業で制作された作品も展示されます。両国の美術教育を垣間見るよい機会となると思います。是非お立ち寄りください。(展覧会詳細は本誌21ページを参照してください)


 


参加校 シンガポール日本人学校 (チャンギ校、クレメンティ校、中学部), Junyuan Primary School, Yumin Primary School, Qifa Primary School, Temasek Primary School, Elias Park Primary School, Casuarina Primary School, Henry Park Primary School, Pathlight School


 


文責・画像:シンガポール日本人学校小学部チャンギ校 小林智


 


<小林智 プロフィール>


シンガポール日本人学校小学部 チャンギ校勤務。図画工作科担当。高校の美術教師を経てシンガポール日本人学校中学部の美術科担当。2019年から現職。


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日本×シンガポール 学生国際アート交流展(11月号2022年)