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輝くミモザ 第10回 シンガポール日本人会クリニック医師 毛利由佳さん、 仲山佑果さん(5月号 2022年)

30 Apr 2022

 


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シンガポール在住日本人の心と体の支えに。


 


✿プロフィール✿


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◎毛利由佳 (もうり ゆか) さん


担当診療科:総合診療科・心療内科


日本医科大学卒業、日本医師会認定産業医、日本外科学会元専門医、日本産業衛生学会会員、日本プライマリケア連合学会会員、日本心療内科学会会員、日本ライフスタイル学会会員、Physiological First Aid ファシリテーター、チャイルドコーチング、チャイルドカウンセラー、家族療法カウンセラー


2022年1月よりシンガポール日本人会クリニック医師として勤務


 


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◎仲山佑果(なかやま ゆか)さん


担当診療科:総合診療科・耳鼻咽喉科


埼玉医科大学医学部卒業後、埼玉医科大学総合医療


センターで初期臨床研修修了。埼玉医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科入局後、助教として勤務


産休育休を経て2022年1月よりシンガポール日本人会クリニック医師として勤務


資格:日本耳鼻咽喉科学会認定専門医


好きなこと:ヨガ、料理、コーヒーを飲むこと


 


聞き手・文責・写真 


シンガポール日本人学校小学部チャンギ校教諭 
福島理恵・一木洋子


医師になろうと思ったきっかけやエピソードなど教えていただけますか。


毛利さん かっこいい理由はないんですが、母方の一家が医療系の家庭で。両親は歯医者でしたし、母方の親戚は薬剤師に医者、いとこは全員医者という環境も理由にあると思います。両親は自宅で開業していたので、物心ついたときから医療が身近にありました。そういうこともあり、子どものころから医療系の本を読むのが好きでした。他の職業も考えて、宇宙飛行士に憧れたことも。でも結局、「人間の体が面白くて、歯だけでなく全身やりたい」と考え医者を目指すようになりました。救命救急の現場に憧れたこともあります。でもすごくハードで、いつか結婚して家庭をもってと考えていたので、これは現実的ではないかなと感じました。


救急は24時間体制ですもんね。でも救急から外科という先生の選択もすごいですね。寝る間も惜しんで家族のケアまでしてくれる医療はすごいと思います。


毛利さん 外科では、若くして生活習慣やストレスなどを基にした疾患などで運ばれる方などもたくさん見てきました。生活習慣病やストレスなどによって引き起こされる疾患は、ある程度予防ができるはずです。自ずと、予防医学の大切さを感じるようになったんです。そこから産業医にはまっていって。その後、厚労省のストレスチェックが始まったこともあり、産業医の大切さが認識されるようになって、益々やりがいを感じました。主人の赴任で来星すると、タイミング悪く、すぐにシンガポールでは医者はできないと言われました。医者は続けたかったので日本とシンガポールを行き来して続けていましたが、やっぱり、こっちでも働けないかなと考えるようになりました。シンガポールには、多くの日本企業が参入し、多くの日本人がいらっしゃるので、その人たちの支えになりたいと思い、上司に相談し、産業医を活かせる現地法人をシンガポールにも設立させました。その後、ご縁がありまして、今の立場に至ります。


心の面のサポートもされているんですね。命も心も助けたい、という気持ちが今のご活躍につながっていますね。


毛利さん 助けるというかサポートができたらいいなと思います。ストレスの改善は、会社がやるべきことと、本人がやるべきことがあります。そのため、私の方から会社に提案することもあります。


仲山さん 私が医者を目指したきっかけは、自分が病院にお世話になった時の女医さんに憧れたからです。この方は子どももいらっしゃって家庭もあって、産婦人科の先生だったのですが、そういったところにも憧れていました。医者を目指す途中で、何度も挫折したこともありました。医師じゃなくてもよかったかもしれませんが、たまたま憧れの女医さんが医師だったので目指すきっかけになりました。


女性が育児しながら働いていることに憧れたとおっしゃっていましたが、仲山先生ご自身にもお子様がいらっしゃいます。家庭がありながらお仕事されていて、何か工夫されていることはありますか。


仲山さん 家庭があってこその仕事だと思うので、家族を大切にできるように、仕事以外の時間を家族の時間に費やすよう意識して過ごしています。実は、夫の赴任でシンガポールに来てから、しばらく仕事をしない時期があったんです。でもその時に、自分には、一日中家の中にいるのが向いていないなと気付きました。いろんなタイプの方がいると思うのですが、私には向かないと思いました。自分の経験を生かして社会のために貢献したい、と考えるようになり、ちょうど毛利先生の働く女性を特集した記事を拝見したんです。そして、思い切って毛利先生に連絡したところ、わざわざ毛利先生が時間を作ってくださってお話する機会をいだたきました。その時わたしは働くことが決まっていなかったのですが、やはり自分で行動して、やりたいことをやっている女性は素敵だなと感じました。


診察の際に心がけていらっしゃることはどんなことですか。


毛利さん 一般診療と心療内科では、まず話をしっかり聞くことに気をつけています。自分の症状などを話される場合は、その状態をしっかり見て・触って・調べて・判断します。心療内科では、話したくても話せないこともあるので、「待つ」ことを心がけています。相手の答えを急がず待ってあげること。そして、否定せず、まずは受け入れる姿勢を心掛けています。


仲山さん いままで主に診察していた耳鼻咽喉科では、命にかかわる病気というよりも耳鳴りや鼻詰まりといったような機能的なが多く、検査等では異常はないけれど、自覚症状はあるといった患者さんも多かったので、自分が患者さんだったらと常に考えるようにしています。検査で異常がなくても、患者さん自身にとっては大きなことなので、相手が何を求めているかを考えます。患者さんによってここまで治してほしいな、という希望が異なるのでその塩梅が難しいところではありますが、その見極めを意識しながらやっていくことが大切だと思っています。


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インタビューの様子


 


先生ご自身の健康のために普段なさっていることや、ストレス対策などありますか。


毛利さん ストレスをためないように、栄養バランスを考えた食事を摂ったり、定期的な運動をしています。子どもたちとテニスや水泳をしたり、家族でイーストコーストパークへ出かけたり。また、コミュニケーション不足がストレスの原因になったりするので、意識しています。


仲山さん 運動として時間を取るのが難しいので、「ながら」でできることを探しています。子どもと出かけるときになるべく散歩をして歩いたり、病院まで通勤でバス一駅分歩いてみたりなど、毎日の中で積み重ねられるものを。休みの日は、夫も運動が好きなので、どちらかが子どもを見ているときに順番で運動したりとお互いに運動して気分転換できるよう意識しています。


シンガポールで他に流行している、または日本より気を付けるべき病気や感染症とその予防策を教えていただけますか。


毛利さん やはりデング熱ですね。ステイホームになってから、急激に増えています。デング熱を媒介するネッタイシマカは、オフィス街より住宅街に多い傾向があるようです。また、ネッタイシマカは夕方以降活発になる日本のイエカと異なり、日中に活動が活発になるので、そのタイミングで家にいることが多くなったことで、家具などに潜んでいる蚊に刺されたり、以前よりもウォーキングや公園などに出かける人が増えたたりしたのも原因だといわれています。もしデング熱かもと感じたら、すぐ病院を受診してください。採血などで診断できます。症状としては、突然の高熱で発症し、頭痛、眼窩痛、顔面紅潮、結膜充血などを伴います。筋肉痛や関節痛、強い全身倦怠感を呈し、異常なだるさを訴える方が多いです。軽症の方も少なくなく、分かりにくい場合もありますが、重症化することもあります。実際に感染者の75%は無症候か軽症です。重症化する可能性は1〜5%で、デング熱は初感染よりも2回目の感染のほうが重症化しデング出血熱になる傾向があります。デング熱ウイルスは1〜4型の4種類の血清型があり、1度かかった血清型に対しては終生免疫を獲得します。しかし別の血清型のデング熱ウイルスに感染した場合、抗体依存性の感染増強現象というものが起こり、感染したウイルスがより効率よく体内に取り込まれて増殖してしまうため、2回目のほうが重症化するのではないかと考えられています。但し3回目以降の感染は殆どが無症候か軽症でおさまるようです。重症化した場合、放置すると致死率は20%以上といわれていますが、適切な医学的対処をすれば死亡率は1%未満となります。早期発見、早期治療が重要となります。日本国内ではデング熱の予防接種は開発段階で臨床使用には至っておりませんが、海外の一部地域では予防接種を受けることができます。このワクチンは4価の組み換え弱毒化ワクチンですが、一度もデング熱にかかったことのない方がこのワクチンを受けると、その後デング熱に感染したときに重症化することが報告されています。逆に1度でもデング熱にかかったことのある方はこのワクチンを受けたほうが2回目の感染時に重症化する確率を下げられるという報告があります。理由は分かっていません。そのため、海外でデング熱のワクチンを接種する場合は、明らかにデング熱と診断された既往があるか抗デングウイルス抗体を持っているかを必ず確認してください。採血検査で抗デングウイルス抗体を持っているかは調べることができます。値段も高いため迷われる方も多いのですが、どのくらい長くシンガポールに滞在されるかを基準に考えられてもいいかもしれません。


 A型肝炎やB型肝炎は、予防接種を打つことをお勧めしています。A型肝炎は主に汚染された飲食物などから経口感染します。シンガポールでは衛生環境に気を付けていればリスクは低いですが、周辺諸国ではまだまだ多く見られています。B型肝炎は血液や体液を関した感染が主ですが、東南アジアではキャリア(保菌者)の方が多いので日常生活における感染リスクは上がります。また、赤道直下のシンガポールは、年中インフルエンザが流行します。予防接種は、春(南半球型)と秋(北半球型)の2回は打った方がよいかも。病院に行くと、流行が予想されている型のものを打つことができます。


先生方はとてもお肌がきれいでいらっしゃいますよね。どのように若さを保っていらっしゃいますか?アンチエイジング対策は?


仲山さん ストレスが一番よくないので、ストレスをためないように心がけています。仕事をせずコロナで外に出れず家事と育児だけしていたときは、髪もぼさぼさ、気が付いたら化粧もしていなかったので、人に会う・外に出るのは大事だなと思います。人と会うようになると前より鏡を見るようになりました。働きははじめて、「表情がちがうね、働いている方が表情がいい」と家族に言われました。


毛利さん それ、私も子どもに言われました。働いているお母さんが好きだって。


仕事をしている生き生きした表情っていうことですね。自分の充実した生活を送るということが、健康につながるんですね。


毛利さん アンチエイジングには、保湿と日焼け止めがポイントです。シンガポールは湿気が多いですが、エアコンで乾燥するので、保湿はしっかりしてください。保湿だけで十分なことが多いです。日焼け止めは、肌が出ているところは全部、そして保湿は全身に。朝はビタミンを摂るとかですね。


ビタミンの摂り方でアドバイスはありますか。


毛利さん 水溶性ビタミンは、多く摂ると不要な分は尿で排出されるので不必要に神経質にならなくても大丈夫ですが、脂溶性ビタミンは、多く摂ると尿で排出されず、体内にたまりがちですので、気を付けて摂取してください。一番よいのは、やはり食事で摂ることです。厚生労働省のサイトもご覧ください。【Eヘルスネット:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/】不特定なネットの情報よりも、ソースが確かな情報を見るようにしてください。


食事をバランスよくというのも難しいですよね。


毛利さん 以前よく言われていた「30品目」に合わせると、カロリーが高くなるので、最近は言われなくなりました。厚生省も取り下げています。これは個人的な見解ですが、1日でバランスを取るのではなく、1週間で全体でバランスが取れればよいと考えると、ストレスも軽減されるのではないでしょうか。アンチエイジングの基本は、やはりストレスをためないことです。ストレスで肌が荒れたり、表情も変わったりするので。いつも怒っていると、怒った顔のまま表情が固まってしまいがちです。いつも笑顔の人は、笑顔の表情筋が鍛えられるので、いつも笑顔になります。また、50歳の人が、20歳の美しさを求めるとやはり不自然になるので、50歳なら50歳の美しさを。年齢相応の美しさがあると私は思います。


仲山さん 年相応に年を重ねられたら素敵ですよね。グレイヘアでおしゃれで素敵な方たくさんいますよね。でも育児していると、鏡を見なくなりました(笑)マスクで隠せるのがよくて。


インタビュー記事を読んでくださる皆様に一言お願いいたします。


仲山さん 働き始めて間もないですが、自分の経験をもとに新たな知識も取り入れながら在星日本人のみなさんの医療に何か貢献できればと考えています。全力でやらせていただきたいと思っています。


毛利さん これまで培った様々な経験を活かして、幅広く日本人の方のお役に立てればと思っています。もちろん全力で。年齢に関わらず、心身の不調はもちろんのこと、お子様の発達や生活習慣病の予防、アンチエイジング、介護など、何かお困りのことがあればお気軽にご相談ください。


 


インタビュー後談


 母として、そして妻として、家庭をもちながら医療に携わっていらっしゃる毛利先生と仲山先生。先生方の志の高さに、インタビューさせていただいて大変感動しました。誰かのために貢献したいという思いが、国境を越えて、そして自分の人生を輝かせる原動力にもなっているということなど、素晴らしいお話を聞かせていただきました。貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。


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インタビューを終えて、記念写真
(左から)一木洋子教諭、毛利由佳医師仲山佑果医師福島理恵教諭


インタビューは2022年3月17日(木)に日本人会にて行われました。

輝くミモザ 第10回 シンガポール日本人会クリニック医師 毛利由佳さん、 仲山佑果さん(5月号 2022年)