ドクターからの手紙 「今日から使える心理学講座②」(9月号 2023年)
31 Aug 2023
心理学を使ってみよう!第二弾!子育てや同僚対応の手助けに!
報酬は効果的に使いましょう!使い方に要注意!!
アンダーマイニング効果
外発的動機付けによって内発的動機付けが低下してしまうことです。内発的動機付けとは自らの関心や意欲などに動機づけられて引きおこされる行動、外発的動機付けとは外からの報酬に動機づけられて引きおこされる行動です。
つまり、自発的に行動していたことに対して報酬を与えてしまうことで、逆にモチベーションが下がってしまう現象のことです。自ら進んで達成感や満足感を得たり、自らの楽しみのために行っていたのが、報酬を与えられることで、それが報酬を得るための手段となってしまい、元々の内発的な動機が失われてしまう為だとされています。
例えば、負けず嫌いな子供が自発的に一生懸命勉強した結果、成績が凄くよくなったので、喜んだ両親がご褒美をあげてしまいました。するとその子は、その後だんだんご褒美がもらえないなら勉強しようと思わなくなってしまいました。元々は負けたくないという内発的な動機付けからやっていた勉強だったのが、目的が報酬(外発的動機付け)に変わってしまったのです。
アンダーマイニング効果を起こさずに、さらにやる気を高める(後述するエンハンシング効果)を期待できるのが「褒める」ことです。褒めるときは努力の過程を褒めてあげる方がより良いとされています。内発的動機付けは、「自律性」「有能感」が大きく影響していると言われています。自律性とは自分の行動を自分自身で決めることに対する欲求、有能感とは自分の能力とその証明への欲求です。分かりやすく例えると「自分の知識や能力が高まっている実感がある」とか「勉強が楽しい」から自ら進んで勉強している状態です。
クレスピ効果
報酬の量に応じてやる気が著しく変化することです。特に報酬が少なくなるとやる気が顕著に低下することが有名です。アメリカの心理学者Leo P. Crespi氏がネズミの実験により発見しました。ネズミに与える餌の量を急に減らすと、ネズミが給餌場に来るスピードが遅くなることから発見されました。これが意味するところは、報酬が減ると意欲が低下するのはいわば本能によるところも大きいということです。ここで注意が必要なのは、報酬の減少量に比例して意欲が低下するのではなく、それ以上に顕著に低下することです。ご褒美や給与を調整するときには、この効果を気に留める必要がありそうです。
褒めてやる気を引き出す!!
エンハンシング効果
先では内発的動機付けに報酬を与えてしまうと、それが低下してしまうことを説明しました。自ら進んでやっていることへの報酬(特に物的報酬)には要注意でした。では、そもそも内発的動機付けがないもしくは低い場合はどうでしょう。この場合は、外発的動機付けによって内発的動機付けを高めることができます。これをエンハンシングと言い、アメリカの発達心理学者エリザベス・ハーロック博士の実験によって証明されました。小学生に算数のテストを5回受けさせる実験を、学生を3つの群に分けて行いました。できた部分を褒めた群・できてない部分を叱る群・何も言わない群に分けたところ、最終的には褒められた群の成績だけが上がったのです。何も言わない群は変化はなく、叱る群は一時的に上がったものの最終的には成績が低下しています。エンハンシング効果は「賞賛効果」ともいわれ、賞賛などの言語的報酬によってモチベーションを高めます。物的報酬の場合は一時的にはモチベーションは高まりますが、持続性が少なく、更なる物的報酬が必要になってしまいます。できるだけ言語的な報酬にされることをお勧めします。褒めるときは結果ではなく、過程や努力を褒めるようにしましょう。エンハンシング効果によって内発的動機付けを高めるだけでなく、自己肯定感の向上も期待できます。なお、怒られたくない等も外的動機付けにはなりますが、先の実験でも見られたように一時的にはエンハンシング効果は見られますが、最終的には成果は低下しますので、できるだけ避けましょう。
まだまだ使える心理学効果はたくさんあります。今日から使える心理学講座③を乞うご期待!
文責:毛利由佳
画像:いらすとや
プロフィール:毛利由佳(もうりゆか)
担当診療科:総合診療科・心療内科
日本医師会認定産業医、日本外科学会元専門医、日本産業衛生学会会員、日本プライマリケア連合学会会員、日本精神科学会会員、日本心療内科学会会員、日本ライフスタイル学会会員、Physiological First Aid ファシリテーター、認知症キャラバンメイト、チャイルドコーチング、チャイルドカウンセラー、家族療法カウンセラー
2022年1月よりシンガポール日本人会クリニック医師として勤務