ドクターからの手紙 時間(11月号 2021年)
27 Oct 2021
医師 白井隆光
月日が経つのは早いもので、今年も残すところあと2か月。皆様もそろそろ年末に向けて気忙しい日々をお過ごしのことと思います。毎回このコラムで医学的見解にとらわれず、思いつくままに書き綴っておりますが、今回は「時間」について思うことを書いていきたいと思います。
皆様は「時間についてどう思いますか?」と漠然と問われたらどう答えますか?今の私ならば「時(間)が経つのは早いし、それを自覚して行動しているつもりだが、振り返ってみると、後悔や焦りを感じる」と答えると思います。
年をとればとるほど、現在から過去を振り返った際、時(間)が経つのが早いと顕著に感じます。同じ時間なのになぜ年を取ると短く感じるのか?恐らく、過去を振り返るときのある時間はそれまで生きてきた期間に対して相対的にとらえてしまうからと思っております。例えば、5歳の私が振り返った1年は私の人生の中では20%だが、50歳の私が振り返った1年は私の人生の中では2%というように、年をとればとるだけ、その人の人生に対する1年の割合はより短くなってしまいます。従って、長生きすればするほど、過ぎ去った1年が短く感じるのは仕方がないかもしれません。
もう一つ、時(間)が経つのが早いと感じるのは、現代社会の情報過多にあるかもしれません。あふれかえっている情報に惑わされて自分を見失うことは大なり小なり誰もが経験していることでしょう。情報についていくのが精一杯の人もいるでしょう。確かにまだインターネットがなかったころはリアルタイムで海外の情報を入手するとかは夢のまた夢であったでしょうし、それ以前のテレビ、ラジオなど電波が登場する前の世界と比べると、現代の世の中は非常に忙しくなっていると思います。
巷にあふれるタイムマネジメントについて書かれた記事を見るときにも、改めて現代社会は忙しいと感じます。特に有効な動機付けを行う期待理論やモチベーション理論等、限られた時間で如何に効率的に物事をこなすかに着目しているものを読むにつけ、そのことを感じます。「果たして人間、効率を追求して様々なことを無理して詰め込む必要があるのか?」という疑問です。更に、無理に忙しくしているわけではなく、積極的にいろんなことをしたいという思いも、単に余りにも多い情報に踊らされて、やりたいという気になっているだけではないかと思ったりもします。
タイムマネジメントと言えば、優先順位をつけ取捨選択をして本当にやりたいことをだけ実行することの重要性を説いている記事もあります。確かに共感でき、目標を絞り、試してはみるもののやはり振り返ると後悔したり焦ったりを繰り返しております。それについても、世の中が変わっていくスピードが早いので、現在から過去の行動を見ると無駄に感じ、後悔や焦りが生じると考えると納得がいきます。然しその反面、本来、後悔や焦りを感じないように過去から学習して未来の出来事に備えるべきなのでしょうが、その学習が足りない、つまりもっと先の時代を読まないといけないと不甲斐なさに落胆することも多いです。
日々何かと余裕なく過ごしてはおりますが、時にふと、「時間」について考えてしまうと、無限ループに入って抜け出せない私がいることに気づきます。恐らく、この問題については悩みながらこの先も生きていくのかなと思っておりますし、この悩みながらのあるがままの心を受け入れることこそ、気持ちの安定を図るうえで重要なのではないかと勝手に思ったりしています。殆どの皆様が、生きるために必死で振り返る時間がないほど、目の前のことをこなしていると思いますが、偶には解決しない悩みを持っているという状況そのものを受け入れて、その状態を肯定的にとらえることも必要なのかもしれません。脱線しましたが、時間について思うことを書き綴ってみました。皆様、悔いのない時間をお過ごしください。最後までお付き合い頂き有難う御座いました。
白井 隆光(しらい たかみつ)
医学部卒業、臨床初期研修修了後、大学病院、一般市中病院等で精神科を中心に診療に従事している中、2020年3月からシンガポール日本人会クリニックにて診療を開始。