aboutus-banner

ドクターからの手紙 新年の目標について思うこと(1月号 2021年)

01 Jan 2021

医師 白井隆光


 


 読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。


 


 2020年を振り返ると新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、シンガポールではサーキットブレーカー、そしてその後も続く様々な制限の中で、いろいろな意味において皆様の生活上、今まで経験しなかったことが多くあった一年ではなかったでしょうか?


 今回は新しい年の始まりということもあり、気持ちを新たに新年の目標を立てようとしていらっしゃる方へ、「目標設定」その中でも特に「動機」に関連することを思いつくままにつづっていきます。医学的な観点というより、むしろ私の個人的雑感と思って読み進めていただければ幸いです。


 大きな目標を立てる上で、一番大切なのは何かと問われれば、「明確な動機」と答えると思います。自分が本当に何をしたいか明確な場合、実現に向けた過程で、つらいことがあっても乗り切れる原動力となるからです。つらい時に、その目標が達成した自分を想像して、少しワクワクする。そのワクワクをエネルギーとして、今やるべきことを冷静に考えて行動する。一つ一つの行動が大きな力になり、困難を乗り切り前進するという流れです。しかし言うは易く行うは難しとはよく言ったもので、様々な理由でこれを実行するのは難しいのが現実です。その中でも、「自分が本当に何をしたいか」がわからないという方が多いのではないでしょうか?


 目標達成は、次のスタートラインに立つことに過ぎないと考えている場合、自分は何をしたいのだろうという疑問をもつのはよくあるケースです。例えば、中学受験が終わったら高校受験、高校受験が終わったら大学受験などの志望校合格や、組織の中での昇進が目標の場合はそれに該当するでしょう。それに対しては、


1.最終的になりたい自分を考えて逆算した時に、その目標があると納  得すること


2.その目標そのものを達成した時に、楽しめることを考えることの2つで対応できたらとよいのかと思います。


先ほどの例でいうと「〇〇高校合格」といった目標があった場合、


1.最終的になりたい職業や享受したい生活を思い描いて、全体の目標の中に高校合格があると考え納得すること


2.目指している高校に入学後、楽しみたいことをイメージすることになるかと思います。


 日々忙しい生活に追われていると、いったい自分は何をしたいのだろうという疑問をもつ方も多いと思います。忙しい生活が、ご自身にとっての明確な動機に基づく目標と関係している場合、短期的には自分に言い聞かせることはできるかもしれません。しかし自分を見失うほど忙しい時は、往々にして心身に負荷が過剰にかかっている可能性が高いので、少し休むことをお勧めします。休むことで、少し心と体に余裕がでてきたところで改めて自分を見直してみるのも大切だと思います。


 中には、先のことが読めないから何がやりたいかわからないという方もいらっしゃると思います。それへの対処としては、その状況に応じていくつかあると思いますが、できることならば可能性が高いケースと最悪なケースのふたつのパターンを想定したうえで、やりたいことを思い描くのがよいかとは思います。つまりすべてのケースを想定するときりがないし、楽観論にすがりすぎるのもリスクが高い場合もありますので、折衷案で考えるのが良いのではないでしょうか?一方で先が読めないと本当に心からやりたいことが出てこないならば、長期的に欲するものは何かと考えるだけはなく、短期的にやりたいことを探すのも一考です。例えば学生さんが、将来の進路を考えるときに先に進んだ時により選択の余地が大きいと思われる進路を目標において頑張るなどがそれにあたります。ただし短期的にやりたいことを探す場合、ともすると「らくしたい」「いまがよければよい」という気持ちが優先されてしまうと後々苦労することがあるので注意が必要です。


 それ以外にも、選択肢が多く何がやりたいか判らないという方は、限られた時間でできることには限界があることを知り、取捨選択をして目標を絞る必要があると思います。人によっては睡眠時間を削ったり、食事の回数を減らしたりして時間を作る方がいらっしゃいますが、健康に関することは犠牲にしてほしくないと強く思います。


 冒頭申し上げました通りこれらはあくまで現時点での私の雑感であります。従って、他にもいろんなやり方や考え方があるのは当然と思います。私自身、良い考えがあったら柔軟に取り入れております。


 皆様にとって本年も良い年でありますよう祈念しつつ、筆をおきたいと思います。


白井 隆光(しらい たかみつ) 


医学部卒業、臨床初期研修修了後、大学病院、一般市中病院等で精神科を中心に診療に従事している中、2020年3月からシンガポール日本人会クリニックにて診療を開始。

ドクターからの手紙  新年の目標について思うこと(1月号 2021年)