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ドクターからの手紙 季節感(8月号 2021年)

31 Jul 2021

医師 白井隆光


 


 読者の皆様、こんにちは。シンガポール日本人会クリニックの白井と申します。シンガポールの生活に対し、皆様、様々な感想をお持ちだと思いますが、その中でも、「一年中夏で季節感がなく、いつ何をしたかが良く判らず時間の感覚が狂うし面白くない」と仰る方が結構いらっしゃいます。今日は季節感について個人の雑感を綴っていきたいと思います。


 仰っている方々に詳しく聞いてみますと、日本も最近、異常気象といわれ、猛暑と極寒しかないという意見もありますが、多くの地域で、春は花見、夏は海水浴、秋は紅葉、冬は雪遊びと四季がはっきりしており、見える景色も異なれば、着る洋服も異なり、細かいことを言えば日の出や日の入り時間も違うなど、変化にとんだ一年を過ごすことができます。それに比べてシンガポールは一年中常夏で、雪を見ることもなければ、野外で桜を楽しむこともなく紅葉も見られず、一年中、ほぼ午前7時ごろに日が昇り、午後7時ごろに日が沈む、とても単調ですというな具合です。


 確かに、季節感がないというのは一見本当のような気がします。シンガポール人ないしは長期に在住している方にお聞きしても、「ここはずっと夏ですから」という方が多いですが、よくお聞きすると、殆どの方は日本をはじめとするはっきりとした四季の変化がある海外に在住ないしは旅行をしている方ばかりで、それらの地域と比較して「夏しかない」と仰っている感があります。


 私は未だ来星して長くはないので単なる時々の変化だけなのか季節と言ってよいのか何れか判りませんが、植生や街の風景は時期により少しずつ異なっているのではという印象を持っています。例えば、四季咲きと言っている植物も花が咲いている時期、実がなっている時期など少しずつ姿を変えているようですし、雨が多くて気温は朝夕そこそこ涼しい日もあれば、1日中直射日光が強く非常に暑い日が続くこともあるようです。又、人為的なもので季節とは言わないとお叱りを受けるかもしれませんが、旧正月、ハリ・ラヤ、中秋節(ムーン・フェスティバル)、ディーパバリ、クリスマスなどなど、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で縮小されたとはいえ、イルミネーションや飾りを街のあちこちで見かけることができ、一種の季節感を味わうこともできます。更に、赤道近くに位置しているため、緯度と経度の関係で、北半球でいう春分直後と秋分直前の午後1時頃に太陽が天頂(真上)に来て、影がなくなる現象が観察でき、日本ではまず経験できない年2回の昼間の天体ショー?を楽しみにしています。(マニアックになりますが、日本最南端は東京都沖ノ鳥島の北緯20°25′31″で北回帰線より南に位置しているので、そこでは実は夏至の前後に年2回観察はできるみたいですが、なかなか行くことが難しいと思います)実はこれには続きがあって、春分直後から秋分直前までは太陽は北を通るので理論上、影が南にできるので、日本では経験できない南の影を観察しようと自分の影で試みていたのですが、流石に赤道近くに位置しているためか、さほど影が長くならず、南の影を実感するまでに至っておりませんでした。しかし先日、大きな樹の下で、南の影を認識して少し嬉しい気持ちになりました。


 季節感なのか異常気象なのかは遠い未来から俯瞰しないと判らないこともあるかもしれませんし、はっきりとした季節の変化を求めると難しいかもしれませんが、小さな変化を観察してみるといろんなことが見えてくるかもしれません。簡単に日本へ一時帰国できずに悶々とした日々を過ごしていらっしゃる方々も多いとは思いますが、ほんの少しでもシンガポールの生活が楽しくなるような、小さな変化を体験してみたら如何でしょうか?


 


白井 隆光(しらい たかみつ) 


医学部卒業、臨床初期研修修了後、大学病院、一般市中病院等で精神科を中心に診療に従事している中、2020年3月からシンガポール日本人会クリニックにて診療を開始。

ドクターからの手紙 季節感(8月号 2021年)