クリニックからの手紙 「レイト・トーカー」って知っていますか?(9月号 2024年)
01 Sep 2024
「レイト・トーカー」って知っていますか?
〜言語発達の遅れと学習障害〜「ことばは話せていれば大丈夫?」
言語聴覚士・公認心理士 鈴木利佳子
標準と比べて言葉の発達が遅いと感じる時、とても不安になりますよね。
「1歳すぎても言葉を話さないなあ」、「言葉は出てきてるけど、2歳過ぎても数個の単語しか話さないなあ」と心配な場合、言語専門家への相談をおすすめします。1〜2歳の言葉の発達は個人差も大きいのですが、2歳を過ぎてもほとんど言葉を話さないお子さんを「レイト・トーカー」と言います。
「レイト・トーカー」とは
・言葉の遅れがあり、2〜3歳になっても語彙数が50語以下で2語文を話さない
・聴力、知的発達、社会性の発達、運動発達に明らかな問題はない
・発現率13.4%(男児は女児の3倍)
・レイトトーカーの75%は3歳までに追いつくが15〜20%は言語発達障害に至る
・5歳を超えて言葉の遅れがある場合「言語発達障害」と診断される
2〜3歳児で、いくつかの言葉を話していても、ほとんど単語だけで話す子、または全く話さない子というイメージです。「言葉がおそい子」つまりレイト・トーカーは全体の13.4%もいる、と言われています。レイト・トーカーのほとんどは5歳までに定型発達に追いつきます。しかし、レイト・トーカーの中で20〜30%のお子さんは5歳を過ぎても言語発達の遅れが見られ、「言語発達障害DLD(Developmental Language Disorder)」とされ、その後の学習に影響すると言われています。以前は1歳6ヶ月検診、3歳児検診で「言葉の遅れはあるけど、社会的関わりはできているようなので様子を見てみましょう」「そのうち追い付きますよ。経過観察しましょう」と言われたり、周囲に相談すれば「大丈夫、そのうち言葉は話すから」「男の子だからね、言葉は遅いのよ」「大丈夫、お父さん(お母さん)も言葉は遅かったから」「そんなに心配しなくても大丈夫」などと言われたりしていました。しかし最近の研究からは以下の図のように、レイト・トーカーは言語発達障害や発達障害の予測因子として考えられ、早期発見早期介入が必要と言われています。
5歳以上の言語発達障害のあるお子さんの中には軽度の知的発達の遅れや社会性発達の遅れ、運動発達の遅れのある子も含まれることもありますが、「言葉を話している」「簡単な日常会話ができている」ためなかなか気付かれずに支援に繋がらず、学童期になってから「学習の困難さ」「人間関係のつまずき」「行動の問題」となって現れることもあります。そのため、レイト・トーカーを見逃さずに早期からフォローしていくことがとても大切です。
では、なぜ言語発達と学習や人間関係のつまずきが関係するのでしょうか?
レイト・トーカーは周囲の言葉を受け止める力が弱いために、発音が不明瞭だったり、語彙が少なく文の発達が遅れると言われています。つまり、周囲で話されている言葉を切り取って理解していく力が弱く、言葉の習得が遅れると言われています。そのため、言葉の音の意識
が育ちにくく、言葉の音の並びを習得しにくく、語彙の習得(理解・表出)が遅れます。また、言葉の意味の結びつき、意味的ネットワークの構築や動詞の習得が苦手だと言われています。
そして文の組み立て方、日本語の助詞の使い方の習得に困難を示します。就学前の言葉の世界は「コミュニケーション言語」と言われ、身近な人とコミュニケーションを築く言語です。特定の親しい人と、言葉を使って、その場の状況の文脈を使って会話ができれば十分な「話しことば」です。
しかし、学童期以降の言葉の世界は「学習言語」と言われ、学習の手段であり、思考・推論するため、または知識を得るための道具としての言語となります。社会で人間関係を調整する役割を担う言語であり、不特定多数の一般者と現前の状況から離れた場面でも言葉の文脈のみを用いて「自分の思考を伝達する」道具となります。読み書きを含め、文の組み立て、文脈の理解、言葉の知識など様々な言葉の側面の発達が重要となります。学習障害というと「読み書きの困難さ」だと思われている様子ですが、読み書きの困難さの根底には言語発達の問題があることが多くあります。ディスレクシアの診断には言語発達障害の除外診断が必要となります。クリニックに「学習の問題」としてご相談に来るお子さんの評価を行うと、多くのお子さんが言語発達の問題を抱えていることに驚かされます。
学童期のお子様の言語発達の問題は「説明するときに、何を言っているのかわかりにくい」という症状として現れることが多くあります。たくさん話はしているけど、内容がわかりにくい、という場合、多くは言語発達障害を抱えていることがあります。
言語発達の問題は幼児期・児童期のみならず、青年期、成人期にも影響をもたらすと言われています。人間は言葉と共に生きています。言葉は大切な伝達の手段であるとともに思考の手段です。
私は言語聴覚士として「レイト・トーカー」を含め言葉の問題を早期に発見し、支援に繋げ、豊かな人生お手伝いができることを願っています。どうぞ、ことばや学習に心配がありましたら日本人会クリニックに気軽にご相談ください。
参考図書:レイトトーカーの理解と支援 編者:田中裕美子 著:遠藤俊介・金屋麻衣 学苑社
文責・画像:鈴木利佳子
