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シンガポールと日本の予防接種の違い(3月号 2022年)

24 Feb 2022

医師 仲山 佑果


 


■はじめに


 予防接種とは、感染症の原因となるウイルスや細菌、またはそれらがつくりだす毒素の力を弱めた予防接種液を体内に接種することで免疫をつくり、病気への感染、重症化を予防することを目的とします。生後数か月の間に赤ちゃんは母親の胎盤を通じて獲得した免疫を失ってしまうため、赤ちゃんは自分自身で免疫をつくる必要があります。その助けとなるのが予防接種であり、お子さんの成長にあわせて適切な時期に予防接種で免疫をつくり感染症の予防をしていくことが重要です。また大人も、生活環境に合わせて必要な予防接種を受けし、各個人の発病や重症化を防止し、それによる疾病の蔓延も予防し、社会的損失防止にも努める必要があります。シンガポールで生活していく上で、日本の予防接種制度と異なる点もあるため、ここでは、日本とシンガポールの予防接種の相違点について説明いたします。


 


■小児予防接種の動向(日本)


 まず日本においての小児予防接種の動向について述べます。


 日本では、現在14疾患(B型肝炎、ロタウイルス感染症、Hib感染症、小児の肺炎球菌感染症、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、結核、麻疹、風疹、水痘、日本脳炎、ヒトパピローマウイルス感染症)が小児定期接種の対象となります。ロタウイルスは、2020年10月1日より任意接種から定期接種となりました。また、日本で1993年4月までムンプスは、麻疹・風疹・ムンプス三種混合ワクチンの定期接種として実施されていましたが、副反応の報告により、ムンプス(流行性耳下腺炎)は現在任意接種となり、麻疹風疹混合ワクチンが定期接種として実施されています。ただし、ムンプスウイルスの合併症・不妊症予防の為にムンプスに対する予防接種は現在も引き続き推奨されています。


 


■小児予防接種(シンガポールと日本の相違点)


 シンガポールでは、ジフテリアと麻疹のワクチンが義務接種となっており、法律で定められている点で日本と大きく異なります。日本の14疾患の定期接種のうち、日本脳炎とロタウイルス感染症の2疾患はシンガポールでは任意接種となりますが、それ以外の12疾患はシンガポールでも定期接種となります。水痘は、以前はシンガポールでは任意接種でしたが、シンガポールにおいても2020年11月より小児の定期予防接種に組み込まれました。一方、ムンプスは、日本で任意接種となりましたが、シンガポールでは定期接種のワクチンとなり、麻疹・風疹・ムンプス三種混合ワクチンまたは、麻疹・風疹・ムンプス・水痘の4種混合ワクチン(二回目のみ接種可能)として投与されることが一般的です。定期接種に含まれていない日本で任意接種のインフルエンザ、ムンプス、またシンガポールで定期接種に含まれていない日本脳炎、ロタウイルスの4疾患は、シンガポール滞在中も罹患するリスクがあるため接種をお勧めいたします。


 


■成人予防接種の動向、シンガポールと日本の相違点


 シンガポールでは、11疾患(インフルエンザ、肺炎球菌、破傷風、ジフテリア、百日咳、ヒトパピローマウイルス、B型肝炎、水痘、麻疹、ムンプス、風疹)に対するワクチン接種を該当する年齢、対象者に推奨しています。日本では、上記11疾患に加えて、帯状疱疹、A型肝炎、髄膜炎菌、日本脳炎も接種が該当する年齢、対象者に推奨されており、インフルエンザ、肺炎球菌(PPSV23)、麻疹風疹混合(MR)は該当する年齢で定期接種も行っております。成人に対する肺炎球菌の予防接種はPCV13とPPSV23の2種類があり、65歳以上の方、基礎疾患のある方についてはそれぞれ両方の接種が日本でもシンガポールでも推奨しております。ただし、日本の現段階では上記対象者に対してPPSV23は定期接種、 PCV13は任意接種を実施しています。その他の相違点として、シンガポールではTdap(ジフテリア、破傷風、百日咳混合ワクチン)が、妊婦(妊娠ごとに1回の追加接種)の方に接種が勧められている点で日本と異なります。日本では、Tdapは未承認ワクチンのため輸入ワクチンとして扱う医療機関で接種するしかなく、妊婦への任意接種、定期接種の対象にはなっておりません。また、百日咳は、成人の流行が近年日本で問題となっており、乳幼児に定期予防接種を受けていても成人になって免疫効果が低下するため、シンガポール滞在中の成人の方のTdap(ジフテリア、破傷風、百日咳混合ワクチン)接種をお勧めいたします。さらに日本では、帯状疱疹ワクチンが2016年3月から50歳以上の帯状疱疹予防として任意接種が可能となりました。50歳以上の方へ接種を推奨いたします。


 


■最後に


 ご存じの通り、現在シンガポールでは、5歳から11歳への新型コロナウイルスに対するワクチン接種を開始し、オミクロン変異株の出現も踏まえ、成人に対するブースター接種(3回目)も政府が推奨しております(2022年1月現在)。長引くコロナウイルス感染症に対する予防と共に、その他の感染症に対しても、最新の情報を入手し、自身、家族、社会のために予防接種を受けていきましょう。


プロフィール  仲山佑果 (Nakayama Yuka)


埼玉医科大学医学部卒後、埼玉医科大学総合医療センターで初期臨床研修修了。


埼玉医科大学総合医療センター耳鼻咽喉科入局後、助教として勤務。


産休育休を経て2022年1月より日本人会クリニック医師として勤務。


資格:日本耳鼻咽喉科学会認定専門医


好きなこと:ヨガ、料理、コーヒーを飲むこと

シンガポールと日本の予防接種の違い(3月号 2022年)