「吃音」って何?(6月号 2023年)
31 May 2023
きつおん
「吃音」って何?
吃音・小児構音障害、言語発達障害領域 認定言語聴覚士 鈴木利佳子
「吃音」とは言葉がつまってなめらかに話せない言葉の症状で、音のくりかえし(例:「こ、こ、こ、こんにちは」)、引き伸ばし(例:「こーーんにちは」)、ことばが出せずに間があいてしまう(例:「・・・っこんにちは」)という3つの特徴的な症状がありますICD-10, WHO)。(1)
吃音の言語訓練を受けているお子さんに「クリニックからの手紙に吃音について書こうと思うけど、どう思う?」と聞いたら『いいと思う!みんなに吃音について知ってもらいたい!』『みんなが吃音のこと知ってくれたら僕たち安心してみんなともっと楽しくおしゃべりできる!』そんなご意見をいただきました。そして内容を一緒に考えてくれました。今回は、協力してくれたAさん、Bさんの意見をもとに、皆さんに吃音について知っていただきたくお書きしました。
吃音は①発達性吃音(体質により3〜5歳から見られる)②獲得性吃音(脳損傷や心的なストレスに続いて生じる)に分類されます。
お子さんでは10人に1人くらい、大人では100人に1人くらいの割合で吃音を持つ方がいらっしゃいます。吃音の9割は発達性吃音で、3語文が出始める3歳くらいから軽い繰り返し(例:あ、あ、あのね)から始まり、うまく話せる時期とうまく話せない時期を繰り返しながら、7〜8割くらいは自然に治り2〜3割は症状が続くと言われています。少し前までは、吃音の原因は不明とされ、原因や治療法に関する様々な迷信やデマがまことしやかに囁かれていました。そして不幸なことに、心無い周囲の対応や言葉に傷つき悩む方も多くいらっしゃいました。現在は吃音についての研究が進み、原因も解明されつつあります。日本では2021年に幼児吃音に関しての治療法や対応方法についてのガイドライン(2)が示されました。日本では健康保険適応で言語聴覚士(ST)の言語療法を受けることができます。吃音は脳内の言葉を話すための神経伝達に由来するものです。そのため、適切な言語訓練により話し方の大変さは軽減すると言われています。
実はかなり多くの方が吃音を経験され、親戚や身近な方で吃音を持っている場合が多くあります。でも、実際に「吃音って何か知ってる?」と聞かれると、答えられる方は少ないのではないでしょうか?実際に、私の家族に「吃音って知ってる?」と質問したら、「ん・・・なんとなく。でもよくわからない。吃音って言葉、最近聞くようになったような気がするけど、話し方の癖のこと?」と回答が来ました・・・。あまり一般的に知られていないのですね。
歴史上の人物から芸能人まで、吃音を持つ人はたくさんいます。日本では徳川家光(徳川三代将軍)、白洲次郎(実業家)、田中角栄(元首相)、小倉智昭(ジャーナリスト)、海外ではジョージ6世(イギリスの元国王、映画「英国王のスピーチ」は有名です)、ウィンストンチャーチル(イギリスの元首相)、ジョー・バイデン(アメリカ合衆国大統領)などが有名です。日本国内外、吃音をお持ちの方では偉業を成し遂げた方も多くいらっしゃるのですね。(3)
では、周囲に吃音のお子さんや吃音の方がいたら、どのように接すればいいのでしょうか?Aさん、Bさんが嬉しい対応と悲しくなる対応を教えてくれました。実体験だそうです。
吃音は環境や周囲の対応により症状が変化します。それは、ストレスがかかる環境により脳に負担がかかり神経伝達がうまくいかなくなることがあるからです。発達性吃音は環境調整や適切な支援により、吃音による不都合を緩和し、症状の悪化を軽減することができるといわれています。逆に吃音が出た時に笑われたり、注意されたり、相手にびっくりされたりすると、話すことや吃音が出ることに嫌悪感や不安を感じるようになります。さらに周囲の人から話し方を指摘される場面が多くなると、話す前に不安を感じたり、吃音が出ることを恥ずかしく思ったり、話す場面に恐怖を感じるようになります。吃音という症状を知らないと、どのようにしたら良いのかわからず、心無い発言や態度で、相手の吃音を悪化させてしまう恐れもあります。
是非、吃音という症状について知ってください。吃音の方が周りにいたら、是非ゆっくり話を聞き、あなたもゆったりと話をしてください。そして話し方ではなく、話の内容を聞いてください。そして、吃音があってもなくても、みんなが楽しく会話し、楽しくコミュニケーションをとれる世界であるといいなと思います。
シンガポールは多様性の国。一人ひとり違った個性や能力を持つ個人として尊重され、誰もが希望を持ち自分らしく生きられる、誰もが能力を発揮し、参画・活躍できる社会。もし、あなたのお子さんが「Aくんはどうしてあの話し方なの?」と聞いてきたら、お子さんが学べる良いチャンスですね。
吃音のご相談は日本人会クリニックでも多くあります。その方の症状や年齢によって対応方法や訓練方法が変わります。言語療法では幼少期は環境調整が主となり、学童から成人は症状に合わせて様々な療法を組み合わせながら効果的な言語療法を実施していきます。吃音が出始めてから半年、1年経過しても症状が変わらない場合や、非常に不安に感じるような場合、もちろん大人になってからも吃音の症状にお悩みの場合など、どうぞお気軽に日本人会クリニックの言語聴覚士へご相談ください。
文責:鈴木利佳子
イラスト:いらすとや、Aさんが描いてくれた絵
参考文献:
1. 送ァ障害者リハビリテーションセンターホームページ:
吃音http://www.rehab.go.jp/ri/departj/kankaku/466/2/(閲覧日:2023年4月1日)
2. c児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)
3. PO法人 日本吃音協会(SCW)公式ホームページ :
https://www.npo-scw.org/より「吃音をもつ有名人・芸能人」
(閲覧日:2023年4月1日)