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言語機能と学習障害(7月号 2022年)

01 Jul 2022

 


言語聴覚士・公認心理士 鈴木利佳子


 


 最近、学習面での心配事でクリニックを受診される方が多くいらっしゃいます。どのような心配ですか?とお聞きすると「どんなに頑張っても漢字が覚えられない」「字が上手くかけない」「書くのが遅い、苦手」「音読でつまずく」「算数が苦手」「学校の授業についていけない」「上手く説明することが苦手」「作文が苦手」などなど、理由は様々です。


 学習環境面から日本語に接することが少なく、そのために日本語学習が上手くいっていないのか?それとも何か別な問題があるのか?と悩まれる方もいらっしゃいます。お子さんの中には、どんなに頑張っても学習が上手くいかずに、落ち込んで意欲をなくしてしまったり、出来ないことを叱咤激励され続けることで抑鬱状態に陥ってしまう子もいます。


 


・音読が遅く、つまったり、読み間違える


・文末など適当に読んでしまう


・1度目はたどたどしく読むが、内容がわかると比較的スムーズに読む


・文章の内容(あらすじ)をつかんだりまとめたりすることが難しい


・読むのが疲れる


 


・っ、ゃ、伸ばす音など書き間違いや抜かしが多い


・わ・は、お・をなど同じ音の表記に誤りが多い


・め・ぬ、わ・ね、雷・雪のように形が似ている文字の誤りが多い


・画数の多い漢字に誤りが多い


・書く速度が極端に遅い


・考えた内容を書いて表現することが難しい


 


・数の概念が身につかない


・数系列の規則性などの習得が難しい


・計算を習得することが難しい


・文章題を解くのが難しい


 


clinic_letter_july2022_2.jpg (79 KB)


<学習障害とは>


 発達障害のうち、学習に関する障害は、米国精神医学会の診断基準(DSM-V)では限局性学習症(限局性学習障害)と呼ばれ、発達障害者支援法では学習障害と呼ばれます。


 学習障害(限局性学習症、LD)には、教育的な立場でのLD


(Learning Disabilities)と医学的な立場でのLD(Learning Disorders)の2つの考え方があります。


 


 教育的立場(学習障害:文部科学省の定義):全般的な知的発達に遅れがなく、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す状態。(医学会の定義より広い)


 医学的立場(限局性学習障害(SLD:Specific Learning Disability:DSM5):知的能力の低さや勉強不足が原因ではなく、脳機能の発達の問題。特異的な発達障害のひとつに位置づけられている。年齢から推定される習得度との間に著明な乖離を示し、日常生活や学業および職業を遂行する際に障害を認める水準である


<分類>


• 読解(Dyslexia)文字から音への変換(Decoding)の障 害、音読困難や黙読の困難があることに加え、音読できても意 味を理解できない症状。


• 数学(Dyscalculia) 算数能力の障害。


• 書き取り(Dysgraphia)単語の意味に対応する文字形態想起 


 の困難さ、文章における文法の誤り、書字での思考表出の困 難さ。書かれた文字の形態が整っていない状態は除外。


 


 言語機能(読む、書く、話す、聞く、計算)は話し言葉のコミュニケーションのみならず、思考や読み書きに大きく影響します。学習障害は言語機能(脳機能)の問題です。


 発達性ディスレクシア(読み書き障害)の発生頻度はアルファベット語圏で3〜12%、日本での発達性読み書き障害の出現頻度は、読みに関して、ひらがなで0.2%、カタカナで1.4%、漢字で6.9%、書字に関してはひらがなで1.8%、カタカナで3.6%、漢字で6.0%と報告されています(Uno et al., 2009)。けっして、本人の努力不足ではなく、脳機能の問題により、頑張ってるのにできない状態です。早期発見により本人が分かりやすい学習方法を見つけてあげる支援が必要です。家庭と学校、そして医療関係者の連携がとりわけ必要な疾患です。


 学習障害の医学的診断は、標準化された検査に基づいて行われることになっています。1.知的機能評価 2.読み書き検査 3.読み書きを支える音韻認識機能、視覚認知機能、言葉の検査などを行います。学習の困難の直接的原因が、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害等の障害や、環境的な要因である場合は、学習障害ではありません。環境要因を排除するためには、文字習得に関連する認知能力の精査(視覚認知、注意機能、音韻操作や語彙力などの言語機能など)が必要です。医師や言語聴覚士など専門家と相談することが必要になります。


 ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)がある場合は、学業不振の症状がそれらに伴うものかどうか見極めが必要となります。


 学習障害には的確な診断・検査が必要で、一人ひとりの認知の特性に応じた対応法が求められます。家庭・学校・医療関係者の連携が欠かせません。


 現在は、学習障害と診断された場合、合理的な配慮(障害者差別解消法に基づく)を受けるために相談することができます。必要な支援が受けられるよう、どんな困難があるかについて知り、どのように配慮してもらえれば学習や仕事をしやすいかを理解し、配慮について学校や職場と相談することが必要です。


 日本人会クリニックでは学習障害の検査ができるようになりました。読み書き・学習の心配など、お気軽にご相談ください。


 


合理的配慮の一例


試験時間延長


PCの使用


読み上げ、代筆


特別支援教育支援員の活用


課題の量と質の変更と調整


(記述式を選択式、ひらがな表記も評価、宿題の量など)


clinic_letter_july2022_1.jpg (80 KB)


参考文献:
宇野 彰、限局性学習障害(症)のアセスメント、児童青年精神医学とその近接領域 5(8 3 );351─358(2017)  (閲覧日:2022年5月)


学習障害(限局性学習症) | e-ヘルスネット(厚生労働省)https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp › information › heart(閲覧日:2022年5月)


ディスレクシア | 国立成育医療研究センターhttps://www.ncchd.go.jp › hospital › sickness › children(閲覧日:2022年5月)


clinic_letter_july2022_3.jpg (131 KB)


プロフィール:鈴木利佳子(すずき りかこ)


失語・高次脳機能障害領域認定言語聴覚士、日本摂食嚥下リハビリテーション学会学会認定士、認知症ケア専門士、NST専門療法士 


2021年4月より日本人会クリニック勤務


趣味はスキューバダイビング、旅行、ヨガ、腹話術

言語機能と学習障害(7月号 2022年)