シンガポール在住日本人のストレス要因(12月号 2022年)
30 Nov 2022
臨床心理士・公認心理師 原田舞香
皆さん、こんにちは。早いもので、2022年がもうすぐ終わりますね。今年はやっとコロナ禍の規制が緩和されました。この年末年始は3年振りに一時帰国や、島外に旅行に行かれてお過ごしの方もおられるでしょうか。今回は日頃コミュニティ内での生活や、カウンセリング業務を通して見聞きするお話を踏まえ、シンガポール在住日本人(以下、在星邦人)の方からよくお伺いするストレス要因についてお話させて頂けたらと思います。
1.日本との生活環境や文化の違い
・住環境が日本と異なっている(すぐ壊れる、虫が出る等)
・四季がなく気候が合わない
・言葉の問題(英語・中国語)
・現地や第三国から来ている方との生活習慣の違いへの戸惑い
・シンガポールはゴミ一つないと聞いていたのに、違った等
日本のメディアで取り上げられているシンガポールのイメージと、実際の生活環境が違う、こういった問題は、特に来星されてからの年数が比較的少ない方から伺うことが多いように思います。
2.経済的問題
・家賃が高騰しており、引っ越しを余儀なくされた
・家賃が高くて、思ったような物件に入居できなかった
・学費・医療費を始め、物価が高い
・日本のものが手に入るが、全て価格が高い
このような経済的問題は、他の海外諸国と比較して、とりわけシンガポールに顕著な問題のように感じています。
3.就労や職場の問題
家族の転勤に帯同して来星された方からは、
・日本の仕事を退職して来星し、仕事が出来ない。
・LOC(Letter of Consent)期限が切れ、働けなくなった。
日本から派遣されてシンガポールに駐在している方からは、
・現在の仕事内容が自分に合っていない
・業務負荷が高すぎる
・社内風土の問題
・任期が未定で将来の見通しが立たない
シンガポールで就職されている方からは、現在の勤務先をいつレイオフされるか分からず、将来の仕事が不安、という声も伺います。
4.人間関係
・ご夫婦または親子関係
・職場の人間関係(日本人同士・現地や第三国から来ている方と)
・ご近所さんやママ友同士の関係
・学校・習い事での人間関係
・同じシンガポール在住女性がSNSに充実した生活振りを投稿している記事を見掛け、自分に劣等感を感じる
その方のライフスタイルにも拠りますが、日本人コミュニティ内のみで生活している場合は、とりわけコミュニティの狭さから逃げ場のないように感じる方もおられるかと思います。
5.お子さんにまつわること
・妊活について
・子育てが孤独・辛い
・お子さんを育てにくく感じる
・お子さんが発達障害ではないか
・自分の育て方に問題があるのではないか
・お子さんの不登校
・思春期の子どもとの向き合い方
・マルチリンガルのお子さんの言語教育の問題
・お子さんの進路について
などなど、お伺いします。当院にはお子さんにまつわるご相談も多く寄せられています。
以上、在星邦人の方からよくお伺いするストレス要因をご紹介させて頂きました。皆さん「そう、そう!」と思われるものもあれば、「こんなこともあるのになぁ・・・」と思われたこともあるかも知れませんね。たとえ同じ条件に置かれていても、そのことをストレスに感じる人も、そうではない人もおられるかと思い、個人によって受け止め方は千差万別かと思います。
そして今まさに、先述のようなストレス要因により、苦しい思いをされている方もいらっしゃるかも知れません。このような「こころの悩み」を抱えた時、母国語で専門家に相談出来るということが、ご自身の助けになる場合もあるかと思います。微力ではございますが、当クリニックもその一助になることを願っています。
プロフィール:原田舞香(はらだ まいか)
臨床心理士(日本臨床心理士資格認定協会)・公認心理師
大学心理学専攻卒業後、民間企業勤務を経て大学院修了。大学研究所、心療内科クリニック、リワーク支援機関、勤労者のメンタルへルス相談・研修講師を務める。2009年〜2015年中国在住。子育て支援、中医クリニック等の臨床経験を経て、2018年〜シンガポール日本人会クリニックに勤務(非常勤)。
