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言語聴覚療法、って何?(12月号 2021年)

24 Nov 2021

言語聴覚士 鈴木利佳子


 こんにちは。言語聴覚士の鈴木利佳子です。私は2021年5月から日本人会クリニックにて言語聴覚療法を担当しております。日本人会クリニックでは約20年前から言語聴覚士が言葉の相談・訓練を行っており、特にお子さんの言葉の発達に関しての相談を多く受けています。


 ところで皆さんは、『言語聴覚士』ってご存知ですか?なんとなく、言葉の訓練士でしょ?というイメージで捉えていただくことが多いかと思います。「私は言語聴覚士です」と自己紹介すると『???何ですか?どんな仕事??』とたくさんの「?」をつけて聞き返されることも多くあります。まだまだ日本には少ない言語聴覚士ですので、よく知らないな、と思われる方が大多数と思います。今回はあらためてみなさんに言語聴覚士、というものを知っていただき、身近に感じていただき、気軽に相談していただけたらいいな、と思っています。


 さて、私たち言語聴覚士の得意分野は、「言葉(言葉を話す、聞いて理解する、読んで理解する、文字を書く、計算する、思考する)」と「聴覚」と「食べる・飲み込む」の3つの分野です。人間の身体で言うと、首から上の、「のど」、「口」、「顔の動き」、「耳」、「脳の働き」にアプローチします。


 対象となる患者さんは、お子さんでは言語発達の遅れ、発音、吃音、うまく食べられない、学習障害など、大人では、事故、病気による失語症、発声発語障害、摂食嚥下障害、高次脳機能障害、認知症など、多くあります。またどの年代でも耳の聞こえや声に関する相談・訓練があります。一生を通じて、どの世代、どの方も、もしかしたら自分や家族・友人に起こるかもしれない言葉や聞こえ、食べる問題を精査し、訓練や援助を行い、対処法を本人やご家族と一緒に考えていくのが言語聴覚士です。是非、身近に感じて気軽にご相談くださいね。


 日本では2021年現在、3万6千人の言語聴覚士がいます。私が言語聴覚士となった約20年前は5千人でしたので、だいぶ増えたなという感覚です。しかし日本で言語聴覚障害を持つ患者数は約2,900万人と推定され、さらに高齢者の5人に1人は認知症になり、多くの高齢者が摂食嚥下障害を抱えている現状を考えると、まだまだ言語聴覚士の専門的サービスが必要な方に行き届かない現状だ、と感じています。


 日本での言語聴覚士の所属先は医療機関70%、介護分野15%、小児療育などの福祉分野7%、教育2%となっています。関わる障害は摂食嚥下障害28%、成人の言語認知28%、発声発語28%、聴覚5%、小児の言語や認知9%と報告されています。小児の言語発達に関わる言語聴覚士が少なく、小児の言語発達や言葉の問題を言語聴覚士が外来で相談・訓練できる医療機関は非常に少ない現状があります。私が日本にいる時も、小児の言語発達や言語訓練についての相談を受けた時、年齢や病名によっては紹介できる訓練施設がなくて困ったことが多くありました。それを考えると、ここシンガポールで、言語発達を含め言語聴覚療法の相談ができる医療機関がある、ということは非常に頼もしいことだと思っております。


 シンガポールは英語、中国語が飛び交い、日常生活では日本語以外の言語に触れることが多くあり、子どもの言語発達におけるこの環境は、非常に興味深い環境であるとともに、日本に比べ言語習得環境は非常に特殊で複雑です。


 クリニックで言語発達の相談を受けていると、多言語環境であるが故に良い面と、難しい面があるということに改めて気付きます。言葉はコミュニケーション手段であると同時に、思考でもあります。言語発達は思考の発達にもつながります。言葉は奥深いな、とシンガポールに来て改めて感じることも多くあり、バイリンガルと脳機能についてのお話も、いつかここでさせていただきたいと思います。


 日本人会クリニックはシンガポールにて言語聴覚療法を提供できる数少ない医療機関です。子供から大人まで、言葉や声、聞こえ、食べることや飲み込みについてのご相談がありましたら医師にご相談ください。医師の判断により、言語聴覚療法やご相談を受けることができます。 


 こんなことで相談してもいいのかな、相談だけでもいいのかな、と悩む方も、Welcome!!どうぞ気軽に相談してくださいね。


参考:日本言語聴覚士協会HP会員動向
刈安誠他コミュニケーション障害の疫学 : 音声言語・聴覚障害の有病率と障害児者数の推定2016より


 


言語聴覚士 鈴木利佳子


4年制大学を卒業後一般企業に就職。そこで聴覚障害を持つ職員と出会いコミュニケーション支援に興味を持ち言語聴覚士になると決心。2003年言語聴覚士国家資格を取得後、日本の医療機関にて脳外科、回復期病棟勤務を中心に、県教育委員会の外部専門家活用事業による支援学校での障害児支援、摂食嚥下障害や失語症者支援のため地域での講演活動などを行ってきた。2021年4月に来星。
失語・高次脳機能障害領域認定言語聴覚士、日本摂食嚥下リハビリテーション学会学会認定士を持っている。趣味はスキューバダイビング、旅行、ヨガ、腹話術。

言語聴覚療法、って何?(12月号 2021年)