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クリニックからの手紙  脳の筋トレ、マインドフルネスを習慣に(12月号 2020年)

01 Dec 2020

脳の筋トレ、マインドフルネスを習慣に


公認心理療法士 相賀ゆか


 


 人間関係がギクシャクしたり、仕事や子育てがなかなかうまくいかないと、頭の中でネガティブな思考が止まらなくなることはありませんか。心配しても仕方のないことをあれこれと想像して、不安やイライラで頭がいっぱいになると、心も身体も疲弊してしまいます。そんな時に強い味方なのが、「マインドフルネス」を使った心のケアです。


 


意外と長い歴史があるマインドフルネス


 医療分野で1970年代に、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)が、痛みを伴う病気を持つ方への治療として始まりました。その後、うつ病の方への再発予防のためにマインドフルネス認知療法(MBCT)が開発されました。今世紀に入り、FMRI(磁気共鳴機能画像法)による脳機能計測の研究が進み、大人の脳も変化する性質を持ち続けるという考え方が出てきた中、「瞑想が大人の脳に変化をもたらす」という脳科学の研究結果によって、急速に広がっていったのです。


 


 2010年代には、マインドフルネスは科学的根拠が高く、心理的な問題、特に不安・うつ・ストレスの減少などに効果があるということが分かり、エビデンスが高い臨床診断ガイドラインとして、色々な疾患の治療法として医療現場でも使われるようになりました。世界で最も大きな心理学会であるAPA(アメリカ心理学会)とイギリスのNHS(国民保健サービス)もマインドフルネスの効果を認めています。オックスフォード大学の2015年の研究では、うつ病に対するマインドフルネス認知療法と投薬の効き目はほぼ同じだという結果も発表されています。


 


マインドフルネスって?


 提唱者のジョン・カバットジンによると、マインドフルネスとは「今、ここでの経験に、評価や判断を加える事なく能動的な注意を向ける事」。リラックスして、過去や未来でなく「今」に集中し、解釈を加えずにそのままに気づき、深い思いやりを持って批判的な心を中立に保つことです。


 逆にマインドフルではない状態とは、「当たり前という思い込み」と「自動操縦状態」。例えば「あの人、ありがとうって言わないの?普通この場面では感謝するのが当然なのに。どうしてかな。嫌われているのかも。」というように思考を忙しくするのは、マインドレスな状態です。


 


マインドフルネスの効用


 マインドフル瞑想によって、それぞれの脳部位の構造を変える働きをします。身体感覚の気づき・記憶・感情の調整などを司るそれぞれの部位が瞑想によって分厚くなっているそうです。これって、まさに脳の筋トレですよね!つまり、心や身体の病気の人たちだけでなく、健康な人々にも色々な効果があるということなのです。


 


・集中力が高まり、仕事の生産性がアップ


・コミュニケーション能力が高まる


・ストレスが減り、自己コントロール能力が上がる


・免疫力アップ、よく眠れるようになる


・イライラが減り、穏やかに行動できるようになる


 


マインドフルネスの実践


 瞑想はあくまでもマインドフルになるための有効な手段の一つです。健康のためにジョギングをするのであって、健康=ジョギングではないというのと同じで、方法は色々あります。


 


1)マインドフルネス瞑想 


 自分の呼吸を丁寧に観察します。最初は一呼吸からでもかまいま せん。継続していくことが大切です。


2)マインドフル・イーティング 


 五感を使って細かいところまで注意を向けて食べます。間食も減るの でダイエット効果もあり、また集中力や仕事の効率も上がるそうです。


3)ボディスキャン 


 身体からのメッセージを感じ取り、気づきやすくなります。


4)マインドフル・ジャーナリング 


 毎日数分でも、湧いた気持ちをそのまま綴ることを続け、自己認識 力を高めます。


5)マインドフル・ウォーキング 


 歩きながら、地面から離れたりくっついたり、という脚の裏側の感 覚に集中します。


6)マインドフル・リスニング 


 口をさしはさまず、目・耳・心を使って、話を聞くことだけに集中し ます。家庭や職場でもすぐに始められますね。


 


 2000年代前半に、仲間に誘われマインドフルネス・エンカウンターグループに入ったのが、マインドフルネスを知った最初のきっかけでした。故郷から離れて海外で暮らすストレスの多い生活の中、私にとって大きな助けとなったこともあり、仕事でも使わせていただくようになりました。皆様も、日本を離れて新しい環境下で色々なことがあると思いますが、マインドフルになる時間を大切にしていただけたらと願っています。


 マインドフルネスを実践することによって、傷つかなくなるわけでも、常にポジティブになれるわけでもありません。しかし、マインドフルに生きることによって、ごまかしや隠し事をせずに、良くないことが起きても何かのせいにしたりせず、自分の人生に起こることを受け入れる強さとしなやかさが身につくと思います。心身の健康や自己成長のために、生活の中にマインドフルネスを取り入れてみませんか。


 


プロフィール 相賀ゆか 


公認心理療法士・公認カウンセラー(シンガポール)/公認心理師(日本)/公認心理療法士・公認結婚家族療法士(米国カリフォルニア州) 


1998年より、小・中・大学・医療機関・カウンセリングセンターなどで心理療法、カウンセリング、カップルセラピーを行う 


【好きなこと】福建蝦面(ホッケン・ミー)の食べ歩き、ヨガ、図書館巡り

クリニックからの手紙  脳の筋トレ、マインドフルネスを習慣に(12月号 2020年)