ハローインタビュー シンガポールのサッカークラブ タンピネス・ローバーズFC (Tampines Rovers FC) 仲村京雅選手、山下柊哉選手(8月号2023年)
25 Jul 2023
シンガポールのサッカークラブ
タンピネス・ローバーズFC
(Tampines Rovers FC)
仲村京雅選手、山下柊哉選手
自分の目標はワールドカップに出ることなんだけど、同時に、人々を笑顔にして夢や目標を与えられるような存在になりたいです。(仲村選手)
「これだけやったから後悔ないや」と言えるようになれば、自分の思い描いているような人生になると思います。(山下選手)
Singapore Premiere League(シンガポール・プレミア・リーグ。以下、SPL)で、多くの日本人選手が活躍しているのをご存じでしたか。SPLは、シンガポールのサッカーリーグで、日本でいうとJリーグです。今回はタンピネス・ローバーズに所属している仲村京雅選手と山下柊哉選手にインタビューをしました。インタビューをしたのはシンガポール日本人学校小学部チャンギ校の子供たちです。
はじめ、子供たちは緊張した様子でしたが、両選手とアイスブレイクゲームをした後には徐々に笑顔が見られるようになりました。両選手は、一般の人が入れないトレーニングルームを案内してくれました。子供たちだけでなく、引率した保護者の方々も興味津々の様子でした。そして、ミーティングルーム(これも特別に開けてもらいました!)に移動してインタビューが始まりました。
(取材日:2023年6月11日)
ー どうしてシンガポールでサッカーをしようと思ったのですか。
仲村選手 日本ではJ3(※)でプレーをしていたのだけど、大きく環境を変えたいと思っていたんだよね。その時にアルビレックス新潟シンガポールの方が「(背番号)10番をあけて待ってるから移籍しておいでよ」と言ってくれたので、大きな賭けだけどこれはチャンスだな、と思ってシンガポールに来ました。(※Jリーグの第三部リーグ)
山下選手 僕はある年に、天皇杯(※)に出場してゴールを決めたことがあって、その直後にアルビレックス新潟さんからオファーをいただきました。その時はJリーグに行きたいという気持ちもあって葛藤しましたが、このタイミングで海外に出るというのもいいんじゃないかなと思って、思い切ってシンガポール行きを選びました。その後、私の目標であるアジア・チャンピオンズ・リーグという大会に、隣に座っている京雅君がタンピネスローバーズのプレーヤーとして出場していました。その試合を見て、自分も出場したいと思ったんです。だから、このチームからオファーをもらったときにすぐに受けました。
(※毎年元日、国立競技場にて決勝戦を行っている国内サッカーのプロアマ混合のトーナメント戦。)
ー パスをもらう時に、ボールを見ていると周りが見えなくなると思うのですが、どのようにボールを受けたらいいですか。
仲村選手 いい質問だね。プレー中は、ボールを持っていない時でも周りの状況を把握していなければいけません。試合で一人のプレーヤーがボールを触ってる時間って、実は合計1分ぐらいしかありません。それ以外の89分の間に、ボールが来たときにどう動くかを考えていなければなりません。相手がどう動こうとしているか、どこにスペースがあるか、ボールが来る前に考えていないといけないね。それと、人って近くを見てると遠くは見えないんだけど、遠くを見ていると近くも見えるんだよね。だから初めは遠くから見て、だんだん近くを見ていくというのを意識付けていくと良いと思います。
ー いつからサッカー選手になりたいと思うようになりましたか。
仲村選手 最初にもらった誕生日プレゼントがサッカーボールでした。多分、親がサッカー選手になってほしいと思ってたんだと思う。それでずっとボールを触っていたら、いつの間にか自分はサッカー選手になるんだという気持ちになっていました。僕は負けず嫌いなので、この選手に負けたくないとか、このチームの中で1番になりたいという気持ちを持っていたら、自然とプロ選手になりたいと思うようになりました。
山下選手 僕も父がサッカーをやってた人なので、幼い頃から一緒にボールを蹴っていました。はっきりとプロサッカー選手と口に出して言うようになったのは多分小学校に上がる頃。自分の夢を書く欄にサッカー選手と書いたのは、その頃かな。
ー シュートを打つために、どんな練習をしたらいいですか。
仲村選手 シュート練習をするときに、色々な状況を考えてやると良いと思うよ。いっぱい反復練習をすれば、相手にとって嫌なシュートを打てる選手になれると思います。これは自分にも言い聞かせています。それと、今日は調子が悪いなと思ってると、プレーも悪くなりやすいので、今日は全部入るっていう意識を強く持ってからシュート練習に臨むと良いと思います。
山下選手 試合の時にゴールを決めたかったけど決められなかった場面があれば、練習の時に意図的に同じシーンを再現して練習するといいと思います。シュートだけではないですけど、練習すれば練習するだけ上手になります。自分は決めてやるという強い気持ちをもってやることが大事かなと思います。
ー サッカーでうれしかったことや楽しかった事はありますか。
山下選手 自分は小さい喜びを大事にします。昨日も試合でゴールを決めたり、チームが勝ったりしたのですが、それはもちろん大きな喜びです。でも、自分の思った通りにボールを奪うことができたとか、ヘディングに勝てたとかそういう小さい喜びの積み重ねが、結局は大きな喜び、勝利とかゴールにつながると思っています。試合中、相手に流れを持っていかれている時間とか、ピンチの時とか、失点しちゃうこともあるけど、そういう精神的にきつい時こそ、小さい喜びを大事にしていて、自分のメンタルを保つようにしています。
仲村選手 サッカーは、勝ったら何百人も笑顔にできる素晴らしいスポーツです。チームが勝ったことによって、LINEとかインスタグラムとかで「おめでとう」とか「勝てて良かったね」って言ってもらえることが嬉しいです。奥さんとか子供も喜んでくれる。それが僕の一番の幸せかな。筋トレとか走り込みとかすごいきついことも多いんだけど、みんなが喜ぶ顔を想像したら頑張れます。
山下選手 それが本当にモチベーションになってるよね。
ー サッカー選手になるために続けていることはなんですか。
仲村選手 サッカー選手の仕事って24時間だと思っています。トレーニングだけじゃなくて、食事は油分を摂らないようにしようとか、睡眠は何時間取るようにしようとか。そういうことを楽しめる人がサッカー選手になれるのかなと思うよ。
山下選手 僕も全く同じことを思っています。僕はサッカーをすることを努力だと思っていなくて。なんでサッカーを続けられるのかといったら、サッカーがめちゃくちゃ好きだし、これが自分の人生だと思っているので。楽しいことを楽しんでやった結果、こうやってプロになれました。もちろん楽しいことだけじゃないけど、それをどれだけ楽しめるかというのが大事です。辛い局面を自分がどうやって楽しめるかということを普段から考えてやってます。
ー 試合前に緊張したらどうやってほぐしていますか。
仲村選手 僕はすごく緊張しやすくて、それこそ学校の合唱コンクールとかマラソン大会とかで、足が震えるほど緊張していました。U18(※)の日本代表としてピッチで国歌を聞いたことがあるんだけど、テレビカメラが目の前を通った時にもめちゃくちゃ緊張しました。でもそういう時は緊張している自分を楽しむようにしています。頑張ろう、頑張ろうと思わないで、「俺緊張してるわ、カッコ悪い!」と自分で自分を笑ってリラックスするようにしてます。
(※18歳以下のサッカートーナメント)
山下選手 僕は正直、毎試合緊張してます。プロに入ってから緊張しなかったゲームはない位です。でも、入場曲が聞こえてきたり、ピッチに整列して観客席の方を振り返ってサポーターの歓声を聞いたりしたときに、緊張が一気にモチベーションに変わります。
仲村選手 緊張してるってことは怖いってことだよね。多分ミスすることが怖い。でもミスしたことって、自分は忘れられないかもしれないけど、3日後とか1ヵ月後には周りの人は忘れてるよ。その怖いと思ってるミスは数日後には誰も覚えてない、そう考えたら緊張も和らぐんじゃないかな。
ー どのくらい練習したらサッカー選手になれますか?
仲村選手 はっきりとした答えは言えないけど、サッカー選手になるまで練習するしかないと思うよ。みんなそれぞれ体の作りも違うし、背の大きさも違うし、最初から上手い人もいればそうでもない人もいるから何年とは言えないけど、もしサッカー選手になりたいんだったら、その夢が叶うまで誰よりも熱い気持ちを持ってやるべきだと思います。
山下選手 そうだね。夢が叶うまで続けることかな。これまで続けてきたから今の自分がある。どこかで諦めてしまっていたら、今日このインタビューでみんなの前で話すこともなかったと思う。諦めないこと。それが全てかなと思います。
ー 憧れの選手は誰ですか。
仲村選手 イニエスタ (※)です。試合前によく動画を見ながらイメージトレーニングしてます。
(※スペイン出身のプロサッカー選手。元スペイン代表。)
山下選手 ずっと見てるよね(笑) 僕はセルヒオ・ラモス(※)ですね。僕はああいう熱いプレーが大好きだから。器用な選手では無いと思うけど体を張ってゴールを守る姿をすごい格好いいと思ってる。背番号も同じ4番です。
(※スペイン出身のプロサッカー選手。元スペイン代表。)
ここで、仲村選手から子供たちに「みんなの夢は何ですか」という質問がありました。「サッカー選手」「ラグビー選手」「料理を上手になりたい」「キャビンアテンダント」「毎週釣りができる人になりたい」などと子供たちは答えました。
仲村選手 自分がなりたい目標、夢がある人は普段からそれを口に出して言った方がいいよ。そのたびに夢に近づくから。
山下選手 うん。口に出すことが大事だね。みんな普通に今夢を言えたけど、恥ずかしがって自分の夢を言えない人って結構多い。でも、言えない人は夢が実現する可能性が低くなってしまうんじゃないかなって思います。誰にでも、どこに行っても自分の目標はこれですとはっきり言えることってめちゃくちゃ格好いいよ。自分のモチベーションにもなるし、覚悟も決まるし。口に出すことってすごく大事だなと思います。
小林 本日はありがとうございました。では最後に今日の感想をお願いします。
仲村選手 自分の目標はワールドカップに出ることなんだけど、同時に、人々を笑顔にして夢や目標を与えられるような存在になりたいです。だから、こうやって子供たちに会える機会を作ってもらってとても嬉しいです。僕から伝えたいことは、すべてのことを楽しんでほしいということ。勉強が苦手な人もいると思うけど、そういうこともうまく変換して、楽しんでほしい。そしてもう一つは、親御さんに感謝してほしいということです。学校に行けたり、今日この会に参加できたりするのは親御さんのお陰です。親御さんがいなければ自分の夢とか目標も叶いません。ぶつかることもあるかもしれないけど、常に感謝して下さい。この会が終わったら素直に面と向かって、「今日は連れて来てくれてありがとう」とか、「いつもご飯作ってくれてありがとう」とか伝えてくれたら嬉しいです。今日はありがとうございました。
山下選手 僕から伝えたいことは、後悔してほしくないということです。その時々に全力を尽くして、「これだけやったから後悔ないや」と言えるようになれば、自分の思い描いているような人生になると思います。人って弱い生き物だから楽な方向に行きがちだけど、そこであえて険しい道、難しい道を選ぶことって大事だと思います。やっておけばよかったなって後悔だけはしてほしくないです。僕はサッカーに関しては全く後悔はないけど、勉強の面では、例えばもっと英語を勉強しておけば困らなかったなぁって思うことがあります。そういう人たちから学んで、後悔しない人生を歩んでほしいと思います。今日はありがとうございました。
<インタビュー後記>
インタビューの後、子供たちは選手にサインをしてもらったり一緒に写真を撮ってもらったりして、とても嬉しそうに帰っていきました。サッカーの技術の話だけでなく、プロ選手としての意識について、また、夢を持つことについて、子供だけでなく大人の心にも響くお話が聞けました。仲村選手はインタビューに参加した子供たちを次のアルビレックス戦に招待してくださいました。タンピネス・ローバーズは現在、アルビレックス新潟と首位を争っています(インタビュー時)。8月末にSPLは最終節を迎えます。ぜひスタジアムに行ってシンガポールのサッカー熱を感じてください。また、日本人選手の活躍を応援してください!
タンピネス・ローバーズの今後の対戦予定
8月4日 ライオン・シティ・セイラーズ戦 @Our Tampines Hub
8月18日 ブルネイ・DPMM戦 @Our Tampines Hub
9月15日 バレスティア・カルサ戦 @Bishan Stadium
文責:小林智(シンガポール日本人学校小学部チャンギ校教諭)
写真:大内秀平(同)