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ホール探訪シリーズ Vol.1 「〜ヴィクトリアシアター&コンサートホール〜」

30 Nov 2022

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ホール外観


 


 シンガポールに数あるコンサートホールや劇場の中から選りすぐりのホールを紹介するシリーズ。記念すべき1回目はヴィクトリアシアター&コンサートホールです!そして、このコンサートホールで演奏予定のウィーン在住日本人ピアニスト石田成香さんのインタビューも、今回特別に掲載します。


音に包まれるコンサートホール


 ヴィクトリアシアター&コンサートホールは、中央の時計台を中心に、シアターとコンサートホールに分かれています。シアターは1862年に市庁舎として建てられました。PAP(人民行動党)の第1回総会もここで行われたそうです。コンサートホールは、1905年にヴィクトリア女王のために建てられたメモリアルホールで、当時は多種多様なイベントを開催していましたが、1979年に名称を「コンサートホール」へと変え、現在はクラシックコンサートを中心とした、シンガポール屈指のイベントホールの一つとなっています。また、シンガポール交響楽団(SSO)の本拠地でもあります。


 今回は、主にコンサートホール(VCH)を取材させていただきました。2010〜2014年の大改修では100年以上前の創建当時のオリジナルな雰囲気を再現したとのこと。白を基調とした、格調高く、また柔らかな雰囲気の会場にいるだけで「芸術的な空間」に浸ることができます。


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VCHの歴史が展示されている3階ロビー


 


 このホールの魅力はそれだけではありません。音の響きが最高に素晴らしいのです!筆者はこのホールの色々な席でコンサートを聴いた経験がありますが、どの席に座っても、「音に包まれる」感覚があるのに毎回感動します。それもそのはず。音の響きをとことん追求し、ホール関係者だけでなく、音楽家にも関わってもらい2年かけて響きを調節していったそうです。ステージの左右両側にある幕や、ステージ上の透明な音響反射板等も、その工夫の一つだとのこと。ホールの方によれば、「ステージ上の囁き声も客席後方まで届き、大きな音のはね返りさえも感じることができる」そうです。


 さらに、このホールには、シンガポール唯一の手動式(電気を使わない)パイプオルガンがあるのも魅力の一つです。取材でパイプオルガンの中まで入らせていただきましたが、2012本のパイプは圧巻でした。これらの一部は戦争のときに部品として提供されていたということですから、歴史を感じます。


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ステージ奥にパイプオルガンが見えるホール客席


 


 「現在では様々な音楽が演奏される場所となり、国内の若手音楽家にとっても初めての演奏がこのコンサートホールであることも少なくありません。それは同時に彼らの誇りでもあります。」…案内してくださったスタッフがおっしゃった言葉が印象に残りました。


 このホールの優雅な雰囲気と音の響きは、読者の皆様にもぜひ味わっていただきたいです!


 ホールのイベント情報は、下記URLでチェックしてくださいね。


https://artshouselimited.sg/vtvch


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世界の名器スタインウェイピアノ


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パイプオルガン内部


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響きを調整する幕と音響反射板


 


 欧米各国での数々のピアノコンクール受賞歴をもつ注目のピアニスト石田成香さん。VCHで開催される11月30日・12月1日のSSOとの協演を前に、ウィーンにおられる石田さんにオンラインでインタビューをしました。


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石田成香さん


 


SSOとのご協演で楽しみにされていることは何でしょうか。


石田さん こんな機会をいただいていいのかと思うぐらい、とてもわくわくしています。私のいちばん好きな作曲家がモーツァルトで、今回演奏させていただくのもモーツァルトのピアノ協奏曲第20番なのです。ウィーンに留学した理由もモーツァルトの音楽を身近に感じたいからで、この土地に憧れたというところが最初は大きかったのです。ここで何年と経つにつれて、自分の中でモーツァルトへの愛が確立されていくことを感じています。この度の協演で、私が今まで学んできたことを皆様に聴いていただけるというのが楽しみです。


 山口県出身の石田さんは、ピアノ講師のお母様の影響で3歳からピアノを始められました。最初に師事された萩市の山根祐子氏からピアノの楽しさを学んだそうです。「ピアノの先生ってなんて素敵なのだろうと山根先生を見て思っていました。今もずっと尊敬している先生です。」その後10年間師事した兵庫県の片山優陽氏については、「私の人生において多大なる宝物となることを教えていただきました。」と振り返っておられました。どの先生が欠けても、今の私はなかったとおっしゃる石田さんに、師事されていた世界的ピアニスト故中村紘子氏とのエピソードを伺いました。


石田さん 紘子先生に「あなたが今まで出会ってきた先生は本当に素敵な先生ばかりだったのね。」としみじみと言われたことが印象に残っています。レッスンはいつも中村先生のご自宅に伺わせていただいていました。高校生だったので、試験のときもその合間をぬって、新幹線や飛行機で山口と東京を日帰りで往復していました。ほぼ毎回、紘子先生が手料理を振る舞ってくださいました。六本木ヒルズなどに車を出して連れて行ってくださったこともありました。コンサート前にはリハーサルにずっと付き合ってくださったり、紘子先生が着ておられた衣装を私用にリメイクして送ってきてくださったり…。厳しい印象があった紘子先生ですが、普段はチャーミングで可愛らしい少女のような一面をのぞかせておられる先生でした。私も先生を見ていて、ピアノだけに没頭していてはいけないと思いました。ニュースなどにも敏感になるように言われました。
 コロナ禍で演奏活動が思うようにできない時期に、重度の腱鞘炎に見舞われた石田さん。根本から治すために、今までの弾き方を見直したり、解剖学を学んだりして、「修行」の時期を過ごされていたとのこと。それがコロナ禍の時期でよかった、むしろ救われた部分があったと話されていました。


石田さんにとって、ピアノとは何でしょうか。


石田さん もう一人の自分という感じがします。鏡を見ているような…。一個一個の自分の行動に結びついているというか、自分に堆積されてきているもの、イコール今の自分が表せる音楽と思っているので、経験してきていないこと以上を出すのは無理だと思っているのです。毎日が勉強です。


では、石田さんにとって音楽とは何ですか。


石田さん 心のよりどころです。何かあったらすがりたくなるような。嬉しいときも、悲しいときも、クラシックに限らず、人間として足りない部分を補ってくれるのが音楽で、セラピーといいますか、治癒力に関わるところだなと思います。色々なものが消えていく世の中だったとしたら、最後に音楽は残るのではないかと思います。音楽には素晴らしい力が宿っています。


今後の夢や目標をお聞かせください。


石田さん 演奏家として活動していきたいというのはあるのですが…自分の演奏を聴いてくださる方がいればどこにでも行きたいと思いますし、どういうシチュエーションであれ、対応できるピアニストになっていきたいです。それと同時に、私が手を壊したことは、ピアニストとしてターニングポイントとなったことでもあるので、弾き方や体の構造にまつわることを後世に残していきたいと思っています。


最後に、日本人会会員の皆さんにメッセージをお願いします。


石田さん 異国の地で演奏をさせていただくと、どの国でも日本の方のホスピタリティを感じます。皆様に温かく迎え入れていただけることが嬉しいです。日本人として私も感謝の心を忘れず、誇りをもってシンガポールに伺わせていただければと思います。


〜取材を終えて〜


 石田さんのインタビューでは、清楚さと凛とした芯の強さがZoomの画面から伝わってきました。25歳。これまでの人との出会いが石田さんの「芯」を作っているように感じました。モーツァルトのお話になると、キラキラとした瞳を一層輝かせて話される石田さん。VCHの最高の音空間で、石田さんの想いが込められたモーツァルトのピアノ協奏曲を聴けるのが楽しみでなりません。
 今回、VCHの取材と、石田さんのインタビューに際しまして、SSOのSean Tanさん、VCHのErinさん、そして、Singapore Balletのヤング靖子さんには多大なるご協力をいただき、心から感謝いたしております。
 次回の「ホール探訪シリーズ」も、どうぞお楽しみに♬


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文責・写真 シンガポール日本人学校クレメンティ校教諭 永地志乃


                ホール外観・ホール客席画像:Aloysius Lim(SSO)提供


                石田成香さん画像:SSO提供

ホール探訪シリーズ Vol.1 「〜ヴィクトリアシアター&コンサートホール〜」