編集室より(6月号)2026年
01 Jun 2026
「Connecting the dots(点を繋ぐ)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。Appleの創始者であるスティーブ・ジョブズが生前、大学の卒業式で行った有名なスピーチの一節です。この言葉に触れると、私自身の点の散らばり具合はどうだろうかと考えさせられます。私にとって、点とはすなわち経験です。
振り返ると、私たちは気づかないうちにたくさんの経験を重ねています。夢中になった趣味、思いがけず任された役割、あるいは言葉にできないほどの悔しい失敗。その瞬間には、これらが一体何に役立つのか、どこへ向かっているのか見当もつきません。しかし、ジョブズはこう語っています。「あらかじめ点と点をつなぐことはできない。できるのは、後から繋ぐことだけだ」と。なぜこの言葉を取り上げたのか。それは本誌のタイトルである『南十字星』が、まさに夜空に点在する星という点を繋いで描かれたものだからです。
かつて大航海時代の旅人たちは、地図のない大海原で、この四つの星を結び合わせることで南の方角を知り、自らの進むべき道を見出しました。一つひとつの星は遠く離れ、孤独に光っているように見えます。しかし、それらを結びつける視点を持ったとき、それは迷える者を導く確かな指針へと昇華されるのです。
私たちの経験も同じではないでしょうか。一見ばらばらに散らばった無意味に思える出来事も、いつか振り返ったときに自分だけの人生を導く美しい星座として繋がる時がきっと来るはずです。今はまだ何の図形も浮かび上がらない点かもしれません。それでもいつか必ず線になると信じて、また今日も新しい点を打ち込む。そして未来の自分が、手元の点と点を結んで星座を描き出す。
その答え合わせの日を楽しみにしながら、目の前のかけがえのない経験を積み重ねていきたいものです。
(編集部 竹下 雄貴 シンガポール日本人学校小学部チャンギ校)
