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New museum walk Singapore Biennale 2022(SB2022)-Natasha (Feb issue 2023)

31 Jan 2023

 


〜2023年3月19日(日)

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 現代アートの祭典、シンガポール·ビエンナーレ2022の開催期間が、いよいよ3月19日までとなりました。時代の動向を肌で感じられる現代アート作品が世界各国よりシンガポールに集結し、私たちに様々な問いかけをしてきます。今回は、出展作品の多くが展示されているメイン会場のタンジョンパガー·ディストリパークから、注目のベネッセ賞受賞作品を含めいくつかの作品をご紹介いたします。


ベネッセ賞とは?


 シンガポール·ビエンナーレのみならず、現代アートに関心がある人々の間で注目されているベネッセ賞。ベネッセコーポレーションが、企業理念である「Benesse=よく生きる」を体現するアーティストを支援する目的で、1995年のヴェネチア·ビエンナーレよりスタートした賞です。2016年からはシンガポール美術館と共催で、シンガポール·ビエンナーレの参加アーティストを対象に授与しています。華やかな授賞式が行われ、受賞アーティストにはベネッセアートサイト直島への招待、そこでの作品制作または作品収蔵の機会と、賞金300万円が授与されます。


シンガポール・ビエンナーレ2022 ベネッセ賞受賞作品


 今回の受賞者は、韓国出身のアーティスト、ヤン・へギュ。頭上に野菜を載せたどことなく愛嬌のあるロボットのようなこの作品は、二体で一対の異世界の生物の彫刻です。人間工学に基づいて作られ擬人化されたこの複雑な生き物は、一体は鈴、もう一体は籐で全身が覆われ、胴体には電気プラグの差し込み口が取り付けられています。移動用のハンドルがあり、動くと鈴の音を響かせる遊び心のある作品です。


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Algahest〜美しい惑星からのメッセージ


 ベネッセ賞最終候補作品に選ばれた、美しく神秘的な作品です。壁に描かれたのは、2011年にNASAのケプラー宇宙望遠鏡が発見した、地球から約600光年の距離にある惑星ケプラー22B。生命体に不可欠な水が存在する可能性が高く、未来の人類が移住可能な惑星の一つと考えられています。アーティストはこの惑星に想いを馳せ、原始の物質である砂·空気·水といった要素を可動式の窓に使い、窓を回転させるたびに惑星の景色が再生される小宇宙を創り上げました。人類が生き残る可能性や、地球のように他の惑星を破壊してしまう未来の可能性を暗示しているようで、美しさの中に漠然とした不安も感じさせる作品です。


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天使の小屋


 アーティスト自身が生まれ育ったカンボジア、プノンペンのバラックを再現した、どこか郷愁を覚える作品です。自身や友人の私物が集められて再現されたこの空間からは、経済的には決して豊かではないけれど、生活に誇りを持ち心豊かに暮らしていたことが伝わってきます。本当の豊かさとは何か?と改めて考えるきっかけをくれる作品です。


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珊瑚島の謎〜センカン・スヌーパーズ


 ブックストアで購入できる本が現代アートとして展示されている興味深い作品です。このシンガポールの作家による児童書「センカン·スヌーパーズ」シリーズは、センカンに住む4人の子供たちが冒険の旅に出て、旅先で遭遇する数々の困難に立ち向かっていく物語です。3作目の舞台はシンガポールに実在する島、シスターズアイランド。読み物としても楽しいお話ですが、シンガポールの歴史や地理についても理解を深められる内容になっています。作品を読むためのスペースが用意されていますので、美術館でゆっくりと読書をして過ごすのもよいかもしれません。


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Scripted Tablets〜歴史を刻む粘土板


 たくさんの粘土板から構成されるこの作品は、シンガポール·ビエンナーレとヨルダンの芸術振興団体が企画した交換プログラムに参加したアーティストが、シンガポールに滞在して制作したものです。古代メソポタミア文明の楔形文字が、粘土板に刻まれて現在まで生き残ったことにインスピレーションを感じ、アーティスト自身も歴史の物語を粘土板に彫り込みました。歴史は見る人や立場によって見え方が違うものです。彼はどのような歴史を残そうとしたのでしょうか?


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No Ghost Just A Shell


 1階と5階に展示されているこの作品は、アーティストが名前も付いていない脇役のキャラクターの著作権を購入し、それにアンリーと名前を付けて命を吹き込み人生を与える、という一連のプロジェクトでした。「The Ghost in the Shell」という副題の士郎正宗のマンガ「攻殻機動隊」の影響を受けており、人間は「Ghost=魂」と「Shell=身体」から構成されているとの考えから「存在の概念」という哲学的なテーマに挑戦しています。この作品「No Ghost Just A Shell」の少女アンリーは 、タイトルのように ghost の無い shell だけの存在なのでしょうか?私たちは何をもって存在しているといえるのか、と考えさせられてしまいます。

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炎の中の庭園・慈愛の欠落


 大きな炎が印象的なこの作品は、戦士に無敵の鎧を着せることで不死身になるというインドネシアのミナハサ族に伝わる「カライの儀式」から着想を得ています。カライの儀式に参加したミナハサ族出身の女性アーティストは、男性的な儀式にミナハサ族に伝わる女神や時空を廻るシーラカンスなどを融合させ、自分なりの解釈で儀式を表現しようと試みました。急速に変化するインドネシアやミナハサの社会の中で期待されるジェンダー像を模索した作品です。

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ナターシャ〜Natasha


 シンガポール・ビエンナーレ2022は「ナターシャ」と命名されました。名付けることによって、単なる大型の展示イベントではなく、ナターシャという人間的な存在として認識され、私たちと関わり合い、さらに寄り添った関係が築けるのではないか?といった想いが込められているそうです。ナターシャとアーティスト、時には私たちガイドとともにアートを鑑賞する旅に出て、多角的な視点から新しい世界の見方や関わり方に出会い、人生や私たちを取り巻く世界へ変化をもたらす可能性を探してみませんか?皆様のお越しをお待ちしております。


文責・写真 ミュージアム日本語ガイド(眞下マキ)


 


ミュージアム日本語ガイドグループは、Friends of the Museumsに所属し、シンガポール国立博物館(NMS)、アジア文明博物館(ACM)、シンガポール美術館(SAM)、プラナカン博物館(TPM)にて、日本語によるボランティアガイドを行っています。


■SAM AT TPD (シンガポール・ビエンナーレ2022メイン会場)
所在地:39 Keppel Road, Tanjong Pagar Distri Park
開館時間:10:00〜19:00
*日本語ガイドツアー


■シンガポール国立博物館■ National Museum of Singapore
所在地:93 Stamford Road
開館時間:10:00〜19:00
*常設展ヒストリーギャラリーツアー
*シンガポール国立博物館アートツアー


■アジア文明博物館■ Asian Civilisations Museum
所在地:1 Empress Place 
開館時間:10:00〜19:00、金曜のみ10:00〜21:00
*常設展ハイライトツアー


■プラナカン博物館■ The Peranakan Museum
所在地: 39 Armenian Street 
執筆時休館中


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◆ シンガポールミュージアム日本語ガイド 
公式ブログ https://jdguide.exblog.jp/


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