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New museum walk (Aug issue 2021)

31 Jul 2021

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Image courtesy of the National Museum of Singapore


 


 1950年代から今日までのシンガポールが経験してきた出来事や歴史の瞬間を集めた展覧会が、ザ・ストレーツタイムズ紙とシンガポール国立博物館によって共同開催されています。人々の暮らしにフォーカスして選ばれた沢山のモノクロ写真や、市民から集められたストーリー、そして大切に保管されてきた当時の貴重な実物資料で構成されたこの展覧会は、いわばシンガポールの人々の思い出の集大成のようなもの。まるで友人の懐かしいアルバムを見せてもらっているかのような、当時の暮らしの雰囲気が生き生きと伝わってくる展覧会となっています。皆さんが暮らすこの国の人々が経験してきたその歴史の積み重ねを知ることで、よりシンガポールへの理解を深めて頂けることでしょう。 
 この展覧会は5つのセクションに分かれていますので、そのセクションごとにご紹介していきたいと思います。


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リーフレットと無料で配られるスタイラスペン


 


《セクション1「土台を築く」》

 イギリスによる植民地時代の終盤から、シンガポールが徐々に自治権を獲得し、住宅や経済、防衛、医療、インフラなど、新しい国の基礎を築くための政策が次々に開始され、人々の暮らしも大きく変化を遂げていきます。ここでは、その土台となる政策が行われていく様子を見ていきます。


 展示室に足を踏み入れると、まず聞こえてくるのはシンガポールで耳にする日常の音。今回の展示のために作られたサウンドスケープの作品です。それを聞きながら、1959年に行われた初めての総選挙の様子から見ていきます。生まれて初めて投票する人も多かったことでしょう。当時はどのような選挙戦が繰り広げられたのでしょうか。ここでの注目は若きリー・クアンユー氏率いる人民行動党と、リム・ユーホック氏率いるシンガポール人民同盟の、各党が配ったチラシの裏。そこには、文字を読まなくても一目で多くの人に政策が伝わるような工夫がされていました。是非、展示ケースの後ろに回ってじっくりご覧になってみて下さい。


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写真2 〈初めて行われた総選挙の様子から〉


 シンガポール国民と永住権保持者は、18歳を迎えると男性全員が2年間の兵役に就きます。徴兵制が開始された当時は携帯電話もなく、訓練に参加していた若者たちが家族や恋人と連絡を取り合うためにあるものを使おうと、公衆電話に長い列を作ったそうです。ここではその懐かしのアイテムも展示されています。初めての訓練に参加するシンガポールの若者たちは、どのような気持ちで家族や友人たちとのしばしの別れをしたのでしょうか。展示された写真には大人へと成長していく青年たちの複雑な心情が表れています。


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写真3 〈ナショナル・サービスについての展示風景〉


 


《セクション2「新居に移り住む」》

 ここでは、お祭りや学校生活、スポーツやテレビなど、日々の生活の中での人々の楽しみの様子を見ることができます。多民族国家であるシンガポールには様々なお祭りや祝日があり、晴れ着を着て家族や友人たちとご馳走を頬張る笑顔いっぱいの写真を眺めていると、こちらの頬も緩んでくるようです。そして当時まだ屋根がなかったホーカーセンターに集うたくさんの人々や、道端で焼かれたサテーを楽しむ家族の写真なども展示されています。2020年にユネスコの無形文化遺産として登録されたシンガポールのホーカー文化は、様々な民族や地域の料理が共存しているという点が大きな魅力です。今では普段着で気軽に訪れるホーカーセンターですが、当時は月に一度の給料日などにおめかしをして出かけるような特別な場所だったそうです。


 スポーツのコーナーでは、まず新聞の紙面が目に入ってきます。グレート・シンガポール・ワークアウトと呼ばれる体操で、国民健康生活プログラムの一環として立ち上げられました。オフィスワーカーから学生まで、皆がこの体操を行って健康促進するよう奨励されたそうです。街中に人が集まり一緒に運動をするという大規模なイベントで、オーチャードロードが18,000人の参加者で埋め尽くされたそうです。


 そして居心地の良いリビングのようなコーナーには、ジュークボックスが置かれています。そこでは国民に人気の懐かしの歌謡曲やナショナルデーソングを聴くことができます。シンガポールの人々が好むのはどのような曲でしょうか。入場時に配られるスタイラスペンで画面をタッチして曲を選び、隣に置かれた椅子に座ってゆっくりお楽しみください。


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写真4 〈当時人気のあったレクリエーションのコーナー〉


 


《セクション3「共に暮らす」》

 ここでは、多民族国家であるシンガポールがひとつの国として調和していくためにどのような努力をしてきたかを探っていきます。長年にわたり社会を改善するための様々なキャンペーンが政府によって行われてきました。人種や言語や宗教に関係なく、人々が共に心地よく生活できることを目指して国を作り上げてきた、その過程が紹介されています。その一つである「スピークマンダリンキャンペーン」は、リー・クアンユー初代首相によって1979年に始められました。これは、中国各地の方言を話す人々に対して華語(マンダリン)を話しましょう、という内容のキャンペーンでしたが、1990年代になると、英語を主に話す若い世代に対して華語を使うように勧める内容に変わってきました。そして、ニッコリと男性が笑いかけてくるポスター(写真5)は公共マナーキャンペーンのもので、誰に対してもマナーよく思いやりを持って接することを推奨したものです。その時代背景によって変わってきた公共キャンペーンの内容を知ると、シンガポールが辿ってきた社会の変化も同時に知ることができます。


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写真5 〈政府主導のキャンペーンのポスターやキャラクター〉


《セクション4「開かれた扉」》

 シンガポールが発展していくために、移民への扉は大きく開かれてきました。明るい未来を求めてシンガポールにやってきた人々は、新しい「Home」であるこの国にどのような思いを抱いて暮らしているのでしょうか。このセクションでは、新しい移民の人々がシンガポールで暮らすことになったその経緯や思い出がインタビュー映像で紹介されています。


 そして「グルカ兵の子供達からの葉書」というコーナーもあります(写真6)。グルカ兵とはネパールの山岳民族出身の兵士で、シンガポールには約2,000人が警察の一員として要人警護や治安維持などにあたっています。その子供達が20歳を迎えた時、または父親が退役する際には原則シンガポールを離れなければなりません。シンガポールを離れることになった彼らの、長年暮らしたシンガポールへの思いが綴られた葉書をぜひ読んでみてください。


 


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写真6 〈新しい移民の人々のシンガポールへの思い〉


《セクション5「嵐で培った屈強さ」》

最後のセクションでは、これまでシンガポールが直面してきた困難や災害について紹介されています。数々の洪水被害やヘイズによる大気汚染、SARSの流行、飛行機墜落事故、リー・クアンユー初代首相の国葬、そして新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に至るまで、これまでシンガポールの人々はたくさんの辛い出来事に遭遇してきました。命や生活が奪われて皆が悲しみ、苦しんできましたが、それらの危機や困難に対して、人々は互いに支え合い、一致団結して立ち上がってきました。多民族国家でありながら文化や生活習慣の違いを乗り越え、ひとつの国として大きな家族のように暮らすこの国で、過去の困難から得た教訓を活かしながら、明るい未来を描いてたくましく生きる人々。その力強さの源ともいえる歴史のひとつひとつをこの展覧会を通して知ることで、そんな彼らの姿勢に私たちは勇気づけられ、そして未来をつくりあげるためのヒントを見つけることができるかもしれません。


<ミュージアム日本語ガイドグループ 古谷美穂子>


写真2〜5 画像提供:シンガポール国立博物館 image courtesy of the National Museum of Singapore


 


 


私達ミュージアム日本語ガイドグループは、Friends of the Museums に所属し、シンガポール国立博物館(NMS)、アジア文明博物館(ACM)、シンガポール美術館(SAM)、プラナカン博物館(TPM)にて、日本語によるボランティアガイドを行っております。


*シンガポール美術館(SAM)、プラナカン博物館(TPM)は現在リニューアルのため休館中


 


■シンガポール国立博物館■ National Museum of Singapore


所在地:93 Stamford Road


開館時間:10:00〜19:00


常設展ヒストリーギャラリーツアー 不定期開催 


特別展「Home,Truly:Growing Up with Singapore,1950s  to the Present」 2021年8月29日まで ガイドツアーは不定期開催


 


■アジア文明博物館■ Asian Civilisations Museum


所在地:1 Empress Place


開館時間:10:00〜19:00、金曜のみ10:00〜21:00


常設展ハイライトツアー 不定期開催


特別展「Life in 江戸、Russel Wong in 京都:シンガポールで


   出会う浮世の美」2021年10月17日まで  ガイドツアーは不定期開催


 


新型コロナウイルス感染拡大防止のため、日本語ガイドツアーは当面の間、不定期に開催致します。ガイドスケジュール及び新規入会については、公式ブログにてご案内致します。


◆ミュージアム日本語ガイドグループ 


公式ブログ https://jdguide.exblog.jp/


◆Facebookページ 「シンガポール日本語ミュージアムガイド」


 

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