Hello interview Mr Fujita Kazumi Executive Officer, Avex Asia Pte Ltd. (Aug 2023)
25 Jul 2023
Avex Asia Pte Ltd. 執行役員
藤田和巳さん
マリーナベイの新年を彩る日本の伝統花火「STAR ISLAND」
日本にあるたくさんの良いものをシンガポール・アジアに届けることを、
これからもやっていきたいです。
今回は、Avexの藤田さんに取材を行いました。昨年末の未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」は、日本人を含めシンガポール中で大きな話題となっていました。人気を博す公演の裏話や苦労話まで伺うことができ、あっという間の時間でした。インタビューの時間を過ぎても、話に花が咲きました。 (取材日:2023年7月8日)
<プロフィール>
藤田和巳(ふじた かずみ)
銀行・シンクタンクでの勤務を経て、2006年Avex入社。
2014年よりシンガポールで勤務。
現在、Avex Asia Pte Ltd. 執行役員。
聞き手 シンガポール日本人学校中学部教諭
小松原英莉、小松真奈美、恒川園梨
日本人会広報部理事 神田真也
ー Avex Asiaのシンガポールでの取り組みについて教えてください。
藤田さん 大きく2つ柱があります。1つは、ポケモン・ファイナルファンタジー・サンリオなどのキャラクターの権利を扱うライセンス事業。もう1つは、イベント事業です。日本のアーティストを呼んで、Avexの「a-nation」という音楽フェスをシンガポールのマリーナベイサンズでやることが、一番最初の仕事でした。その後、音楽系の活動の他に、一番大きな取り組みとなったのが「STAR ISLAND」です。
ー 「STAR ISLAND」とは、どのような公演ですか。
藤田さん 日本の伝統花火と、Avexが持っているエンターテインメントの最先端の技術を掛け合わせて、日本の制作チームが創り上げた全く新しいコンテンツです。最初は、2017年にお台場でお披露目されました。有名歌手やタレントが出てくる訳ではなく、主役の花火と演出で90分の世界観を作っています。チャプターが分かれていて、ストーリーの中で音楽と花火が完全にシンクロしていきます。あとは、パフォーマー、レーザー、ドローン…といった演出で、ショーが始まると圧倒されて、一瞬の出来事と感じてしまうと思います。
ーシンガポールで公演することに決まったのは、どんな経緯だったのでしょうか。
藤田さん 2017年でしたね。日本での「STAR ISLAND」がどんな形になるか分からない中でした。東京本社のAvexの制作プロデューサーに、「花火でショーを作る」と聞いて、彼が作るなら良いものになると思いました。それで、シンガポールのURA(都市再開発庁)に飛び込みました。そうしたら、政府関係のイベント会社から3人が日本に見に来てくれて…見たら、「これは絶対シンガポールに相応しい」となってシンガポール政府の正式なカウントダウンを担うアンカーイベントとして3年契約することになりました。この意思決定の大胆さと早さには、提案をしておきながら驚きました。さすがシンガポールですよね。
ー 昨年末の「STAR ISLAND」は、いかがでしたか。
藤田さん 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で2年間できなかったので、3回目、3年ぶりの待望の開催となりました。初の取り組みとしては、プレゼンテッドスポンサーとしてJCBさんをお迎えし、またプレミアムスポンサーとしてサンリオさんに入っていただき、初のキャラクター・コラボレーションも実現しました。ハローキティをアンバサダーに起用し、プレショーにサンリオのキャラクター達が出てくれるミニショーを実施し、これも含め、チケットを購入いただいた約2万人のお客様からも、後援であるURAからも大変好評との声をいただきました。
ー 花火とドローンのリアルタイムでの組み合わせにも圧倒されました。世界でもあまり例が無いと聞きましたが、いかがですか。
藤田さん そうですね。花火とドローンを合わせた演出は、今回で2回目で、前回の2019年の公演が初めてでした。ドローンに限りませんが、エンターテインメントに関する規制がオープンな部分が多く、シンガポールだからできたことでしたね。この規模の花火とドローンを統合させた ショーは、当時は、おそらく世界でもなかったのではないでしょうか。
例えば、レーザーの天空への照射は、日本では航空法で照射できる部分に制限があるようなのですが、シンガポールでは可能です。だから、日本から来られたレーザーのプログラムを担当されていた方は嬉々として、寝る間も惜しんでリハーサルをされていました(笑)。
ー 花火の種類や打ち上げ数について、教えてください。
藤田さん 100年以上の歴史がある日本を代表する煙火店さん3社とご一緒させていただきました。日本から約15,000発の花火を船で運んで、マリーナベイから打ち上げました。花火はすべて手作りです。手で作らないと、あの演出はできません。日本の花火には、赤にも紅色や朱色や橙など色々あって、様々な色使いを表現できます。海外で見る花火と比べると、日本の花火には、他にはない長い歴史に裏付けられた表現力と創造力があると思います。
ー 音楽とも完全にシンクロしていましたね。
藤田さん 花火は打ち上げてから上空で弾けるまで時差があります。ベースとなっている楽曲に合わせる為に、花火師さん達は、花火が弾けるタイミングや大きく広がっていくタイミングまでを考えて、打ち上げてくれています。昨年のコンセプトはコロナ明けから未来に向かう“Hope”でした。コンセプトからチャプターを設計して、音楽が決まって、それから花火とパフォーマンスとレーザーショーの演出という流れで制作されていきました。
音楽・花火とこれに伴う演出・パフォーマンスが全てシンクロしていく、壮大な制作作業を行う日本の制作チームの努力とプロフェッショナリズムにはいつも感心させられます。
ー すごいですね。ステージでのパフォーマンスはどのようなものがあったのでしょうか。
藤田さん ステージパフォーマンスも「STAR ISLAND」の見どころの一つです。今年は、新たな舞台監督とチームのもと、お客様の記憶に残る感動的なパフォーマンスができました。日本から20名近くのパフォーマーが来てくれ、様々なシーンを盛り上げてくれました。
ー 準備を進められる中で大変だったことがあれば、お聞かせください。
藤田さん 主に日本の制作チームによる部分ですが、クリエイティブってエンドレスですよね。「終わりがない」というのは、常にある産みの苦しみなんだと思います。ただ、一方でプロジェクトは進めていかなければならない、これは良い意味で毎回感じています。あと、毎年ハラハラするのは天気ですね。これはもはや心を静めるのみです(笑)。
ー 面白い企画をするための、何か秘訣はありますか。
藤田さん 一般的なことなのだとも思いますが、誰も考えてもみない切り口で考えるということは大切なのだと思います。
これまで花火は無料で見るものだったけど、花火大会は年々数が減っている。これを有料のショーとして最先端のエンターテインメントの力で新たなステージに持ち上げよう、そう思って作り始めたのが、「STAR ISLAND」です。
プロデューサーをはじめ、制作チームのこの切り口が唯一無二の企画を生み出し、シンガポールのみならず、中東まで世界的に受け入れられるものとなりました。| さらに、海外に目を向けると日本の花火の固有性が際立つことに気がついて。これを無邪気にシンガポール政府に提案してみる。これが面白い結果を生み出してくれています。
シンガポール・マリーナベイのカウントダウンが、日本の伝統花火でお祝いされている。面白いですよね。
ー 来場者の方からの反響は、いかがでしたか。
藤田さん 自然と歓声が上がりました。特にフィナーレでは、最高の笑顔で抱き合っていらっしゃる方、乾杯されている方(笑)、感極まって涙を流している方もいました。「こんな花火は見たことがない」というコメントや、サウジアラビアでの公演では「マジックだ」と言っていただいて大きな反響をいただいています。
ー 今年、シンガポールでの開催予定はありますか。
藤田さん 過去3回、昨年まで使っていた会場が新しくリニューアルで、数年間の工事に入ってしまいました。そうした状況の中、シンガポールの年末カウンドダウンに対して「STAR ISLAND」がどのような形でご一緒できるか、可能性をシンガポール政府と協議しています。良い形が見つかれば、是非お知らせできればと思います。乞うご期待です。
ー 今後、シンガポールで行いたいことがあれば、教えてください。
藤田さん 今、Avex Asiaとしてはポケモンさん、サンリオさんをはじめとする日本を代表するIP(知的財産、コンテンツ)をシンガポール、東南アジアにお届けするお手伝いをさせていただいています。もちろん、我々Avexのアーティストも含めて、日本からのコンテンツには、まだまだ東南アジアで大きな可能性があると思っています。そこからスタートして、ずっと変わっていないですね。日本にあるたくさんの良いものを東南アジアに届けることを、これからもやっていきたいです。
最後に少し、宣伝してもいいですか(笑)。10月6日には、これも日本を代表するゲーム・ファイナル・ファンタジーのゲーム楽曲をフル・オーケストラで演奏する非常に素晴らしいコンサートを実施します。過去2回ソールドアウトになっている演目ですが、日本初の世界レベルのコンテンツがファンの皆さんに支持される姿を是非ご覧いただければ嬉しいです。
<インタビュー後記>
課題に直面しながらも、エンターテインメントの可能性を追求し、海外でのイベントを実施されていらっしゃることが非常に印象的でした。同時に、日本とは規制の異なるシンガポールで日本ではできない演出をされていることや、「STAR ISLAND」の契約に至るスピード感を知り、エネルギー溢れるシンガポールの活気の源泉を窺い知ることができたように思います。
今年の「STAR ISLAND」の開催は協議中とのことですが、今後のイベントから目が離せません。改めまして、藤田さんありがとうございました!
文責:シンガポール日本人学校中学部教諭 小松原英莉、小松真奈美、恒川園梨
写真提供:STAR ISLAND