【総評】
  日本人会創立100周年記念、南十字星創刊50周年記念企画 「ショートストーリー シンガポール」へのたくさんのご応募ありがとうございました。
  シンガポール在住かつ日本語作品という条件で募集致しましたので、果たしてどれほどの多くの作品が集まるか危惧しておりましたが、我々南十字星編集部の心配を吹き飛ばす29作品もの力作のご応募を頂きました。応募者は会社員や主婦の方から学生さんまで多岐にわたっており、年齢もご年配の方から小学生まで世代を超えた応募となりました。
  さて肝心の作品内容ですが、いずれも今回のテーマに則った非常に秀逸なものばかりで、とても一般の方々の応募とは思えないハイレベルな作品の数々に審査も難航を極めました。その中から大賞には「好兄弟」と「最後の三日間」の2作品を選出いたしました。「好兄弟」は、今やアジアを代表する先進国家に成長し都会的な側面ばかりが注目されるシンガポールに今も残るスピリチュアルな一面を巧みに描き出した作品です。悠久の歴史を育んできた先達への畏敬の念を抱かせてくれる内容はまさにシンガポールならではの作品ではないでしょうか。一方で「最後の三日間」は誰もが一度は味わってきた青春の切なさやもどかしさをシンガポールの街並みの描写と共に爽やかに描いた若者らしい作品です。いずれも短篇でありながらも余韻の残るショートストーリーならではの素晴らしい作品ですのでどうかお楽しみください。
  優秀賞には、何気ない風景の中からシンガポールの魅力を引き出した「プリズム」、美しい花への憧憬や自然への共感を優しい文章で描いた「陽だまり」、日本との違いに戸惑いながらも前向きに暮らすシンガポールでの生活を描いた「窓からの景色」の3作品を選出致しました。 
  その他に、優秀賞には至らないものの素晴らしい作品を佳作として8点選びました。
  また、題材に対する深い洞察と巧みな作品構成の「ブルータル」を最終選考委員特別賞と致しました。
  なお、11月号には大賞•優秀賞の入賞作品5作品を、12月号には佳作の入賞作品8点を掲載致します。
  最後になりますが、本企画へご協賛・ご協力頂きました多くの皆様方へ厚く御礼申し上げます。 
(日本人会広報部理事 冨田光欧)


【講評】
  一般フィクション部門の作品の質の高さに驚きました。そのうち2点はどちらも大賞に値すると思いました。結局、私の推す作品は大賞には漏れてしまいましたが、この2作品の作者が小説を書いたら、買って読んでみたいと思いました。学生の作品にも発想が面白いものがあり、興味深く読みました。     
(日本人会特命顧問 杉野一夫)

 今回の応募の中に、小中学生の作品が多くありました。文章が巧みで、吸い込まれるように読ませていただきました。子どもたちの感受性や発想の豊かさに驚かされました。また、それぞれの文章から子どもたちの夢や、情熱や、優しさといったものを感じることができました。日頃から、本に親しみ、自分の思いを綴るということを楽しんでいるのでしょう。今回の応募にチャレンジした、その姿勢にも拍手を送りたいと思います。
(シンガポール日本人学校小学部クレメンティ校校長 前川嘉宏)

  学生のフィクション作品では、軽妙さ、勢いや表現へのチャレンジがそれぞれのテーマにあわせて光っていたと思います。 
(Shogakukan Asia Pte.Ltd. 加治屋文祥)

  シンガポールは国土は小さくても心惹かれる場所が多く、実に様々な切り口が見えてくる国です。各作品それぞれ読み進めるごとに、その場所の光景が目に浮かんできます。それだけその場所への愛着や親近感がある、という事を認識しながら読み進みました。
  大賞は近代国家シンガポールに息づく、伝統的な世界を小気味よく紹介した作品です。こうしたギャップにふと魅せられてしまう、シンガポール人ではないがこの国に住む人間の感性を、シンガポールの方にもお伝えできたらと思います。 
(Kinokuniya Book Stores of Singapore Pte.Ltd. 山田拓也)

  筆者のシンガポール文化に対する謙虚さと感謝が読み取れる作品、心の中の弱点に直球を投げ込まれた感じのする作品、女性らしい細やかな心情がシンガポールの景色に乗せて綴られた作品、舞い落ちてきた花の、偶然にも見えるその美しさを鋭くとらえる筆者の心の豊かさが表現された作品、どれをとっても秀作揃いの文芸賞でした。
(日本人会文化部理事 三科浩美)

特別協賛
Kinokuniya Book Stores of Singapore Pte. Ltd.
Shogakukan Asia Pte.Ltd.
全日本空輸株式会社(ANA)
主催
南十字星編集委員会
最終選考委員会
齊慶辰也氏(日本人学校中学部校長)
山越清寛氏(日本人学校小学部チャンギ校校長)
前川嘉宏氏(日本人学校小学部クレメンティ校校長)
杉野一夫氏(日本人会特命顧問)
山田拓也氏(Kinokuniya Book Stores of Singapore Pte.Ltd.)
加治屋文祥氏(Shogakukan Asia Pte.Ltd.)
三科浩美氏(文化部理事)
高森徹夫氏(文化部部長)
冨田光欧氏(広報部理事)
澤田慎吾氏(広報部部長)
池上さつき氏(南十字星編集長)

選考結果
《大賞》
部門 作者 作品タイトル 舞台にした場所
一般ノンフィクション 大槻 ゆり
(おおつき ゆり)
好兄弟 Ghim Moh Market
学生フィクション 橘 咲葵
(たちばな さき)
最後の三日間 Somerset MRT Station
Universal Studios Singapore
Japanese Association

《優秀賞》(*1)
部門 作者 作品タイトル 舞台にした場所
一般ノンフィクション 一紗 えり
(ペンネーム)
プリズム Robertson Quay
Singapore River
学生フィクション 平井 瞳
(ひらい ひとみ)
陽だまり Merlion Park
学生ノンフィクション 渡邊 遥菜
(わたなべ はるな)
窓からの景色 Novena
Changi Airport
Gardens By The Bay

《佳作》
部門 作者 作品タイトル 舞台にした場所
一般フィクション 宮緒 芽依
(ペンネーム)
サプナとサガの実、
あるいは姫とラックのたね
Fort Canning Park
一般ノンフィクション 漣健
(ペンネーム)
シンガポールのきりんは
いつも海を見ている
West Coast Park
Kusu Island
一般ノンフィクション ザッキー•ケン
(ペンネーム)
そうだ、おそれないで、
みんなのために
Tiong Bahru
学生フィクション 山本 葵妃
(やまもと あおい)
シンガポールで
見つけた宝物
Merlion Park
Sentosa Island
学生フィクション 小浜 孝太郎
(こはま こうたろう)
謎の失踪
~パラレルワールド~
The Japanese Primary School
Changi Campus
学生ノンフィクション 西岡 侑利乃
(にしおか ゆりの)
私がオススメするガーデンズ・バイ・ザ・ベイ Gardens By The Bay
学生ノンフィクション 吉田 真悠
(よしだ まゆ)
ホーカーセンターに行こう! Hawker Centre

《最終選考委員会特別賞》
部門 作者 作品タイトル 舞台にした場所
一般フィクション 藤堂 高直
(とうどう たかなお)
ブルータル Sembawang Hot Spring

《参加賞》
部門 作者 作品タイトル 舞台にした場所
学生フィクション 黒猫
(ペンネーム)
世界で一つだけの景色 Clarke Quay
Bras Basah Complex
学生フィクション 相田 俊
(ペンネーム)
陽射しの強弱記号 Universal Studios Singapore
Esplanade Theaters On The Bay
Singapore Flyer
学生フィクション 吉田 悠泉
(よしだ ゆい)
オーチャードが大変! Orchard Road
(*1一般部門の優秀賞には1作品のみが選出されました)

【おわりに】 
  次の和歌は『百人一首』に採られているのでご存知の方も多いこと と思います。

  田子の浦にうちいでて見れば白妙の富士の高嶺に雪はふりつつ  

  山部赤人が詠んだとされるこの歌の中には「田子の浦」、「富士」という二つの歌枕が詠み込まれています。歌枕というのは、ごく簡単に言えば、和歌に登場する「場所の名前」のことで、「田子の浦」は富士山の眺望がすばらしい景勝地だったようです。美しい情景を詠んだこの歌に「場所の名前」である歌枕が登場することで、まだ彼の地を訪れたことのない人にとっては思いを馳せる憧憬の地として、すでに訪れたことのある人にとってはしみじみとその景色を思い出す追懐の地として「田子の浦」、「富士」がイメージされたことでしょう。
  「場所の名前」には、こうした力が備わっています。
  日本人会創立100周年、『南十字星』創刊50周年の特別企画としてスタートしたこの「ショートストーリーシンガポール」には、小気味よいテンポ、そして、みずみずしい文体で紡ぎ出される「シンガポールの場所」を舞台としたショートストーリーが集まりました。受賞作品すべての「場所の名前」が、その舞台として登場することで、作品の魅力とともに新たなイメージを獲得したのではないでしょうか。この記念すべき年に、「ショートストーリーシンガポール」を通じて、作品の舞台となった「シンガポールの場所」が、これまでに持っていた魅力をさらに高め、今まであまり気づかれなかった魅力を身にまとう、そんなチャンスになれば望外の喜びです。
  こうして無事『南十字星』読者の方々へ受賞作品をお届けできたことを嬉しく思います。
  最後になりましたが、この場をお借りして、本企画へのご協力を賜りました多くの方々に衷心より御礼申し上げます。
(編集委員 吉田充良)