「マングローブ」とは?

マングローブの林というと、沖縄県や鹿児島県奄美諸島の青い海、そして海岸に広がる木々をイメージする方が多いのではないでしょうか?マングローブの林といっても「マングローブ」という植物があるわけではありません。マングローブとは、マレー語のmangi-mangi(樹木)と英語のgrove(小さな森)を合わせて作られた言葉です。熱帯や亜熱帯地域の河口付近、満潮になると海水が湿地帯に広がる森をマングローブ林と呼び、そこに育つ植物をまとめてマングローブ植物と呼んでいます。世界中でおよそ100種類の植物がマングローブ植物と呼ばれています。また、マングローブ林は干潮時には干潟になり、多くの動物の生息場所、渡り鳥などの飛来地になっています。

シンガポールにあるマングローブ林
歴史的に大きく発展してきたシンガポール、海岸線は埋め立てられている所が多く、自然が残っている所も少なくなっています。そんなシンガポールにもマングローブ林が残っている所があります。それが、スンゲイブロウ湿地保護区とパシリスパークのマングローブ林です。今回は、スンゲイブロウ湿地保護区で見ることのできる個性豊かな動植物を紹介していきます。
スンゲイブロウ湿地保護区は遊歩道が整備されているので、マングローブを踏み荒らしたり、動物たちの住みかを壊したりすることなく生き物を観察することができます。

マングローブ林に生きる動物たち

干潟に目を向けると、有明海で有名なムツゴロウのような生き物が跳びはねています。マッドスキッパー(Mud Skipper)です。ムツゴロウと同じトビハゼの仲間で、発達した胸ビレを使い、その名の通り泥の中をピョンピョンと跳ねて移動します。口の中に水を含むことで陸上でも呼吸が可能で、濡れた皮膚での皮膚呼吸もできるため、魚でありながら水中より陸上で過ごす方が多いというおもしろい生き物です。縄張り意識が強く、自分専用のプールを作るので、小さな水たまりの傍らにいる彼らをすぐに見つけることができます。ユニークな見かけによらずなかなか好戦的で、マッドスキッパー同士の小競り合いもよく見られ、大きな個体が小さな個体を食べてしまうこともあるそうです。
干潟にできる小さな水の流れを、目を凝らしてよく見てください。その流れを遡上するカブトガニの姿が見られます。若くて小さなカブトガニで5cmから10cmぐらいのものが多いのですが、その形は紛れもなくカブトガニです。2億年前からその形を変えないカブトガニは「生きた化石」と呼ばれています。ミミズやゴカイを食べますが、1,2年は食べなくても生きていられ、呼吸もえらさえ濡れていれば大丈夫。水がきれいな干潟にしか住めないため、マングローブの湿地帯の「顔」と言えるでしょう。


カブトガニ

キノボリガニ

キノボリガニは、満潮時になるとその名の通り木に登ります。あまり高く登りすぎると鳥に狙われてしまうので、「適度な」高さに身を置いています。マングローブ植物は総じてなかなか落葉しません。キノボリガニはその葉を食べ、落とした糞は、腐葉土に変わる貴重な養分となります。干潟には、他にもウミヘビやエビ、マッドロブスターなど多種多様な生き物が生息しています。
干潟から移動し、クランジ川流域に目を移すとオオトカゲやワニ(運が良ければ)を見ることができます。活性の高い朝夕にはオオトカゲのケンカする姿が見られることも・・・。
シンガポールは、渡り鳥の渡りルートにもなっています。シベリア~オーストラリア12000kmの間の大事な栄養補給&休憩ポイントとして、スンゲイブロウは鳥たちの貴重なオアシスとなっているのです。
また、運が良ければサイチョウなどの大変珍しい鳥に出会うこともできます。


干潟に暮らすマッドスキッパー
水を口に含むとこんな姿に

ウミヘビ


オオトカゲ

ワニ


オオトカゲのケンカ

マングローブの林に生きる植物たち

砲丸のような形をした実をつける「ホウガンヒルギ」。この実は水に浮くことができます。満潮時には海水に流されて遠くに運ばれ、たどり着いた場所で芽を出します。このようにして生息地域を広げていくのです。
先のとがったインゲン豆のような形をしているヒルギの種子は、胎生種子と呼ばれ、芽を出してから地上に落ちます。細長い種子は干潟の泥にうまく刺さり、その場所で成長することができます。
一方、植物の根に目を向けると、泥の中からタケノコのように顔を出した「筍根(じゅんこん)」や海水の流れに負けないように板状になった「板根」、タコの足のような「支柱根」、曲げた膝を出したような形に見える「膝根(しっこん)」など、複雑でユニークな形状をしたマングローブ植物の根を見ることができます。このように空中に出た根は、主に酸素を吸収する役割を果たします。また、複雑な形状をした根は、満潮時には水中に生きる小動物たちの格好の隠れ家となります。


カワセミ

サイチョウ

ホウガンヒルギの実

ヒルギの種子

干潟に刺さったヒルギの種子

その他の動物

スンゲイブロウには、マングローブ植物以外の熱帯地域の植物も見られます。シーアーモンドは、アーモンドのような実をつけ、その実も食べられます(なかなか美味しいのですが、ここは湿地保護区なので採取も食べることもできません!)。ただ、「アーモンドモドキ」で本物のアーモンドではありません。熱帯地域の植物としては、数少ない紅葉する木として知られています。和名では、「モモタマナ」と言います。
また、シーハイビスカスの花も見られます。朝、黄色い花を咲かせると午後にはオレンジに色が変化し、一日で花を落としてしまう一日花です。和名は「オオハマボウ」、マングローブの後縁に群落を作ります。


コサギの群れ

チドリの群れ

タケノコ?針地獄?「筍根」


こちらはタコの足?「支柱根」

シーアーモンド

シーアーモンドの紅葉

マングローブの林を守る

近年、エビの養殖やマングローブ植物を木炭にするため、マングローブ林は減ってきています。スンゲイブロウのマングローブ林もエビや魚の養殖のために伐採された経緯があります。しかし、マングローブ林には、地球温暖化を防ぎながら海洋の水質をきれいにする働きをもち、多様な生態系を育むという大きな力があります。スンゲイブロウは貴重な生物多様性を有することが認められ、2002年1月には、自然保護区に指定されました。また、ASEAN自然遺産に指定されたシンガポールで最初の公園です。貴重なマングローブ林を守るために遊歩道を整備したり、植林を行ったりしています。

珍しい動植物を観察しながら、豊かな自然を肌で感じることができるスンゲイブロウ。訪れてみてはいかがでしょうか。

協力:自然友の会 (文・写真 石塚 智弘)
スンゲイブロウ湿地保護区
https://www.sbwr.org.sg/ 
Tel.67941401
301 Neo Tiew Crescent Singapore 718925
アクセス 
①MRTのKranji駅からThe Kranji Express Bus に乗りSungei Bulohで下車
②(月曜~土曜)MRTのKranji駅からSMRT925番に乗り、KranjiReservoirCarparkで下車。徒歩15~20分。
③(日曜・祝日)SMRTバス925番がスンゲイブロウの入口まで行きます。
開園時間 午前7:30~午後7:00( 月曜~土曜)
午前7:00~午後7:00( 日曜・祝日)
入場料 無料(ただし、土曜・日曜・祝日・学校の休暇中は、大人1ドル 子ども50セント)
※湿地ということもあり、蚊が多いので虫よけをご準備ください。涼しく、動物も活性が高い、朝・夕方の来訪をおすすめします。インターネットなどで干潮時を調べていくと干潟の生き物が見られます。