シラットというスポーツを見たことがありますか。シラットとは、マレー群島(現マレーシア・シンガポール・インドネシア・ブルネイ周辺)発祥の格闘技で、正しくはプンチャック・シラットといいます。1000年をさかのぼる歴史をもつともいわれ、もともとは王室の護衛のための芸術性をともなった武術だったのが、各地でそれぞれの発展をし、実に500以上の流派に分かれて、現在に継承されています。今回はシラットについて紹介しましょう。

どの流派のシラットも、次の要素を備えています。
①スピリチュアル ②自衛 ③芸術性 ④競技の4つの要素です。
今もインドネシアには多くの流派があり、それぞれにグランドマスターがいて、シンガポールのマスターの多くもインドネシアで修業し、習得します。海外から多くの弟子入りがあり、数ヶ月山にこもって練習するなどを経て、それぞれの国に戻り、マスターとなる者もいます。

◆ シンガポールでのシラット

シンガポールでは、競技シラットが盛んで、99%のコミュニティクラブに教室があり、マレー系の若者を中心に1万5000~2万人の競技者がいます。精神的な教育の効果を期待して、男女を問わず3歳ぐらいから始める人が多いのだそうです。夜のスーパーマーケットなどで、背中に「SILAT」と書いた黒いユニフォームを着たシラットクラス帰りらしき小さな子どもを見かけることがあります。コミュニティクラブなどのそれぞれのクラブで違った流派のシラットを取り入れ、それぞれの流派のトップ3がナショナルチームに入ります。
 シンガポールには、フルタイムのシラット選手はいませんが、マレーシアやインドネシアにはフルタイムの選手がいます。国を挙げて選手の養成に力を入れているのはベトナムで、国際大会ではいつも好成績を収めています。

◆ 競技シラットを観戦しましょう

シンガポールでは、国際大会が2回、国内大会が2回開催されています。ベドックにあるシラットフェデレーションでそれらの情報を得ることができ、隣接するシラットホールでは、競技会だけでなく、日常的にクラスもあります。
 シラットの試合は、初めて見る者でも勝敗が分かりやすく、応援のコンパン(手で持って打つマレーの太鼓)の賑やかな音にわくわくした気分にさせられます。

◆ 採点基準

2名による対戦形式で行われ、1ラウンド2分、1分の休憩を挟んで3ラウンドを戦います。競技者は、正方形のマットの対角に設けられた赤・青それぞれのコーナーに立ち、ドラの合図で中央に移動し、対峙します。試合が始まると、手を使った「突き」と足での「蹴り」を中心にポイントを多く取った者が勝ちます。顔や頭への攻撃は反則です。
 ポイントは5人の審判が記録し、3ラウンド終了したところで、赤・青いずれかの旗を揚げ、多い方が勝ちです。ポイントの規準は、以下の通りです。
 1点 手による「突き」 首から下に限る
 2点 足による「蹴り」 首から下に限る
 3点 相手を倒し、相手の手やひざが床につく
 これらに、相手からの攻撃を避けた上で攻撃が決まった場合は、それぞれ1点が加算されます。また、顔や頭への攻撃などの反則は、ペナルティーとして1点減点されます。

 カテゴリー分け 
 17才以上の成人カテゴリーは男女別で、Aクラスの45~50kgに始まり、5kgずつクラスが変わります。
  ユニフォーム
 流派によって多少の違いはありますが、競技者は黒いユニフォームを着て、その上に胸から腹部にプロテクターを着け、さらにその上に赤・青それぞれの帯を巻きます。レフェリーや審判は白いユニフォームを着用します。

◆ 競技シラットのこれから

大会によりますが、シンガポールでは、開会の前にドゥアーというイスラームの祈りの時間が取り入れられていることがあり、ムスリム(イスラーム教徒)のスポーツという印象が強いのが現状です。シンガポールでは、ムスリム以外の競技者は2%に過ぎません。PERSILAT(国際プンチャック・シラット連盟※シンガポールや日本の連盟が加盟)は、世界的な普及を目指し、競技シラットのオリンピック種目採用を目指しています。試合で審判が使う言語も徐々にインドネシア・マレー語から英語に変わってきています。非ムスリム競技者の多いベトナムではドゥアー(祈り)は行われません。
 欧米でもエスニックでミステリアスなスポーツとして人気があり、競技シラットの人口は増えています。
 日本ではまだあまり耳にしないスポーツですが、協会(1996年設立)もあり、少しずつ競技人口も増え、世界大会で活躍する競技者も登場し始め、2002年には男子のAクラスで日本人初の金メダルを獲得しています。

◆ 演武シラットは芸術性を競う

シンガポールでは、伝統的な演武シラットの人口は減少しています。皆さんの中には、マレー系の方の結婚式で、新郎新婦の前で激しく叩き鳴らされるコンパン(手に持って打つマレーの太鼓)の音に合わせて、マレー系の若者が戦いの型のような演武をするのを見たことがある人もいるかもしれません。これは、ウエディングシラットといい、伝統的な演武シラットの一つです。かつてはほとんどのマレー系の若者が演じることができたのですが、今はできない人が増えているのだそうです。
 演武シラットには、パフォーマンスの美しさを競う競技としてのシラットもあり、3つのクラスがあります。競技シラットは素手で行われますが、演武シラットは素手や武器を使うこともあります。また、ユニフォームはインドネシアやマレーの伝統的な衣装を着用します。
 演武ソロ…1名の競技者が規定の型を3分間演じる。
 演武ダブルス…2名の競技者がフリースタイルでストーリーや演出の芸術性や技の豊富さを演じる。
 演武チーム…3名の競技者が規定の型を3分間演じる。
 どのクラスも、正確さや技の理解度、芸術性、スタミナなどを5人の審判が採点します。
文化イベントでは、伝統的な音楽(ガムラン音楽)に合わせて、大人数で行われる伝統演武シラットがあり、流派の多さ、歴史を感じさせます。
 競技シラットも演武シラットもとても興味深いものです。伝統的な演武シラットは芸術性が高く、一つ一つの動きの全てには意味があるのだそうです。ベドックのシラットフェデレーションでは、シラット普及にも力を入れています。伝統的な演武シラットの出張パフォーマンスを有料でしてくれます。
 なおスピリチュアルな面を重んじるシラットは、精神安定や集中力を養い、気の習得を目指します。イスラーム文化圏で継承されてきたいきさつから、イスラームとの密接な関わりがあり、グローバル化を目指すシンガポールには、このタイプはほとんどありません。

◆ 礼節を重んじるスポーツ

シラットというと格闘技ファンにとっては、ヨーロッパの軍隊や警察で活用されるように改良された実戦用シラットのダーティなイメージがあるかも知れません。シンガポールの競技用シラットを指導するコーチにこの話をすると、軍隊は自衛のためにさまざまな格闘技を改良して取り入れているのは当然のことで、自衛の要素の強いシラットは有効かも知れないが、それが人を殺すなど悪いことに使われるのはとても悲しいことだとおっしゃっていました。
 実際のシラットを観戦すると、礼儀と礼節を重んじ、競技と言えど優雅な動きが取り入れられ、ダーティなイメージとはほど遠いものです。皆さんもシンガポールにいる間に、シラットを観戦してみませんか。

(文・写真 上田 恵)

Singapore silat federation 1976年設立
http://www.persisi.org/index.php


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