<September2012掲載>

◆ 美しいショップハウスの街並

上の写真は、シンガポールの中で私が最も好きなエリア、カトン地区にあるクーン・セン・ロードの街並みです。1900年から1940年に建築されたショップハウスと呼ばれる「狭く細長い家屋形式」で非常に凝った装飾が多いプラナカン様式建築の代表といえる建物が並んでいるところです。
 オランダの植民地時代、プラナカン文化の発祥地であったマラッカでは、当時、建物の幅を基に家屋税が設けられていました。できるだけ税金を安くと、間口を狭く奥に細長い形が好まれ、風通しと採光を考えて中庭を設けた建築様式がシンガポールにも引き継がれました。中庭、換気口、雨水貯水場なども設けられていますが、これは風水に則っているようです。
 シンガポールのショップハウスの歴史は1822年にラッフルズがタウンプラン(都市計画)を作ったことに端を発します。ラッフルズが行政区と居住区をわけ、居住区も民族ごとに地域を分け、中国系住民が住むチャイナタウン、マレー系のカンポン・グラムなどでショップハウスの建築が盛んに進められました。
現在、シンガポールの保存指定建物は7091戸あり、そのうちの約6500戸がショップハウスとのことです。そんな歴史的財産であるショップハウスがどのように保存され、現代社会にどのように活用されているか、街並みを歩きながら探検してみました。

◆ ファイブ・フット・ウェイ

ショップハウスは、文字通り元来は1階部分が店舗、2階以上が居住用に建てられました。シンガポールのほとんどのショップハウスには、道路と建物の間にファイブ・フット・ウェイ(five-foot way)と呼ばれる約1.5メートル幅の公共通路があります。2階部分を張り出すことによりできたこのスペースが歩行者にとって便利な日除けや雨除けになっています。これも、ラッフルズがタウンプランを作った時に提唱したアイデアのひとつです。

◆ ショップハウス保存に関するDo & Don't

もともとは居住スペースであった2階以上も現在では、内装を改装してお店にしているところが多く、店舗としてリフォームする場合にも、様々な規定が設けられています。前述のファイブ・フット・ウェイでは、美しいタイルで飾られた壁には、郵便受けなど通行人の邪魔になるようなものは設置してはいけない、床は滑りやすいタイルを使用してはいけない、など細かい規定が設けられ、その公共通路としての効果が守られています。外観に関しては、2階の窓をさえぎったり、景観を損なうような看板を出したりしてはいけない、となっています。
 色に関しては、「全ての所有者が自分の好きな色に変えてしまったら、チャイナタウンがディズニーランドになってしまう。」という声も多く聞かれ、パステル調の色合いを守り、原色は部分的な装飾に限る、ネオンのような色は使用しないなど、今年、URA(Urban Redevelopment Authority都市再開発庁)は、今までより、更に詳細な規定を設定しました。新たな規定では、右ページ上のような真っ黒なショップハウスは、「悪い例」-Don’t- に挙げられています。中華系の多いシンガポールでは、「黒は喪の色」ということでしょうか。
 チャイナタウンの南にある人気のお茶屋さんTea Chapter(茶渕)も古いショップハウスが店舗となっています。2階では中国茶と茶菓子を頂きながら休憩ができ、3階の屋根裏部屋ではTea Ceremonyが見学できます。こちらの外観は、原色の赤は窓枠に部分的にのみ使用され、窓枠の下やかわら屋根の上部に昔からの彫刻がそのまま保存されていて、ショップハウス利用では「良い例」-Do- になっています。

◆ ショップハウスの歴史

では、アラブ街でも知られる古くよりマレーカンポンであった地域で、時代とともに変化するショップハウスの様式の変化を見てみましょう。
 1番目はEarly Shophouse Styleで最もシンプルなデザインが特徴で(写真①)また、柱などにトスカーナ式やイオニア式のモチーフが用いられています。この最も古い時代のショップハウスは、現在、数ヶ月前にオープンした新しいインドネシアの雑貨屋となっています。インドネシア人のオーナー兼デザイナーが自らデザインし、インドネシアの人々による手作りの生活雑貨を売っています。店内は綺麗に並べられた石鹸から出るハーブの香りに満ち、1800年代に建てられた伝統的なショップハウスが見事にリフォームされ、そのスペースが大いに活かされています。
 2番目は、1900年初期のFirst Transitional Shophouse Style。全体的にさっぱりした装飾の少ない外観であるけれど、部分的(柱頭など)にコリント式装飾が用いられています。(写真②)
 3番目はLate Shophouse Styleでショップハウスの黄金時代ともいえる1900-1940年のものです。(写真③)文頭のプラナカン様式でも見られるようにカラフルなタイルやプラスターによる装飾的外観を持ち、ショップハウスを代表する建築スタイルです。窓枠や柱などにコリント式の装飾を採用し、色や装飾の美しさ、彫刻の細かさは格別です。Kandahar Stに10軒ほど並ぶこのショップハウス群には、さまざまなお店があります。その中でもタイ・インドネシア料理のレストランになっている店舗では、なぜか店内はプラナカンの調度品に溢れ、メニューにもプラナカン料理が含まれ、元のオーナーの名残を感じさせる不思議な空間となっています。
 4番目は、ショップハウスの中で一番新しい1930-1960年のアールデコ様式です。(写真④)建物全体のバランスを重視したデザインで、建築年度などを記したプレートがあることが多いとのことです。

◆ ショップハウスの活用

このように時代を経て変化しながらも、伝統を次の時代に引き継いでいる、そんなショップハウスの美しさを守りながら、現在も様々な店舗に活かされています。また、ショップハウスを買い取って個人宅としても利用されています。外装は歴史を感じさせ、内装は現代生活に合わせ効率的に改造して、時代を感じながら日々の生活を送る、シンガポールならではの楽しみ方ですね。

  

(文・写真 穴井美佐)

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