シンガポールは言わずと知れたランの国。ランは国花であり、ラン切花の輸出は世界市場の約15%を占めるとのこと。街にはランが溢れていて、植物園にも南国ならではの多様なランが咲き乱れています。しかし、ランはランだと分かっていても、意外に知られていないのがその正体。「ランは種類が多くて分からない」「ランは趣味の世界」「ランは高嶺の花」と思われている方も多いのでは?そこで今回は、見れば見るほどに美しく、知れば知るほどに面白い、ランの世界を楽しもう、ということでランの基礎知識編としました。たくさんのランとの出会いが、シンガポールライフに彩りを添えてくれることでしょう。

シンガポール・ランの歴史

熱帯のラン(洋ラン)が初めてイギリスに伝えられたのは1731年。大航海時代とともに世界各国の特産品が流通する中で、多くの植物もヨーロッパに持ち込まれました。東南アジアからも、スパイスや農作物に加えて大量のランが運ばれ、温帯のランと違って大型で華やかな熱帯のランは、当時の上流階級の人達を熱狂させました。

シンガポールでは1819年、ラッフルズ卿が上陸した頃には約200種類もの原種のランがあったと記録されています。ラッフルズ卿自身も植物の研究に熱心で、当時から植物園の前身となる公園をフォート・カーニング・ヒルに作り、試験的に南国植物を栽培していました。その流れを受けて1859年、現在の場所にシンガポール植物園が開園。今年で150周年を迎える植物園はまさに歴史ある植物園です。もちろん当時から園内にはランも植えられ、研究されていました。

1893年にシンガポールで初めてのランの交配種となる「バンダ・ミス ジョアキム」が誕生。これが後にシンガポールの国花となります。1928年には、植物園でランの繁殖計画が始まり、この中から優れた多くの交配種が生み出されました。また1960年代以降、新しい繁殖法の発見によりシンガポールの切花産業が発展し、一気にランは身近な花になったのです。

■ シンガポールの国花

 

<バンダ・ミス ジョアキム( Vanda Miss Joaquim )>

シンガポールのコインにはそれぞれ植物が描かれていますが、1セント硬貨の花が「バンダ・ミス ジョアキム」。幅は約5センチ、縦の長さが約6センチもある大きなランです。

1893年、アグネス・ジョアキムさんの庭で新種のランとして発見され、シンガポール植物園の当時の園長リドリー氏により、シンガポールで初めてのランの交配種として登録されました。

1981年、当時ラン栽培は国の重要な産業であったこと、もともとシンガポールだけに自生し、その姿が綺麗であることなどから、シンガポールの国花に制定されました。

■ ランは「最も種類が多く、最も進化した植物」

そもそもランは熱帯だけでなく、地球上のあらゆる地域に生息しており、その数は世界中で2万5千種以上。ランはあらゆる植物の中で最も種類が多く、すべての植物の中の約1割に相当するといわれています。

特に熱帯地域(中南米、熱帯アジア、熱帯アフリカ)には多くのランが自生していますが、日本や中国にも昔からランはあり、珍重されてきました。 

種類が多いだけでなく、ランの花の形や構造は、「無駄を省き、よりシンプルになろうとする」進化の流れに沿ったもので、単子葉植物※の中では最も進化した植物ともいわれています。

■ ランの花の構造

ランは種類が多いだけにその花も多種多様。そこで、ランを認識するために、すべてのランに共通する特徴を挙げてみましょう。

@3枚の花弁(ペタル)うち1枚が唇弁(リップ) 

A3枚のがく弁(セパル) 

Bずい柱(コラム・雄しべと雌しべが合体した器官)

どんなランも@ABの共通の特徴を持っています。特に@ の花弁のうちの唇弁は、通常他の花弁より大きく、形や色が異なっていたり、模様がついている場合もあります。

また、普通の花では雄しべと雄しべが分離していますが、ランはBのずい柱でひとつの器官となっているのも特徴です。

■ 洋ランの主な7種類 (属)

私たちが「洋ラン」と称しているものは、本来熱帯地域にあった原種のランと、それを交配した品種のことをさします。ここでは、シンガポールでもよく見かける洋ランの7種類(属) をご紹介します。ランの分類としては「ラン科○○属△△種」となり、ランの種類は通常、属名でいわれています。

●バンダ(属)<Vanda 略号V.

花が大きく、色はさまざま。花は塊状になって10個ほどつく。

「バンダ・ミス ジョアキム」もバンダの種類。

●デンドロビウム(属)<Dendrobium 略号Den.

東南アジアを中心に広く分布し、原種は1000種以上。

シンガポールでも多数交配種がある。

●オンシジウム(属)<Oncidium 略号Onc.>

Dancing Lady の名で知られ、和名は雀蘭。小花を多数つける。

この属は約300種もあり多種多様。

●ファレノプシス(属)<Phalaenopsis 略号Phal.

胡蝶蘭の名で、日本でも親しまれている。

湾曲した細長い枝に10〜15ぐらいの花が咲く。

●シンビジウム(属)

Cymbidium 略号Cym.

ギリシャ語で「ボートの形」、花びらの形に由来。

写真は国立ラン園で見られる珍しい原種。

交配種には華やかなものがある。

●カトレア(属)

Cattleya 略号C.

洋ランの女王。大輪で華やかな花。

交配種は数万種にも及び、

洋ラン最大のグループ。原種は中南米。

●パフィオペジラム(属)

Paphiopedilum略号Paph.

別名Lady痴 Slipperで、

スリッパのような袋状の唇弁の形が特徴。

花色は焼き物に似た渋い風合いがある。

■ ランに関するQ&A

<切花などお店で見かけるランの種類は?>

●シンガポールでは、デンドロビウム、バンダ、モカラ、アランダなどの切花を世界中に輸出しています。日本でも一般的なのは、デンドロビウムの中でもデンファレという種類です。

バンダの交配種で、切花用に品種改良されたモカラ

 

デンファレ(左)の正式名称は「デンドロビウム・ファレノプシス」で、

胡蝶蘭に似たデンドロビウムのこと

<原種と交配種とは何?>

●原種とは野生種のことで、改良されていない種のこと。交配種とは人工的に交配された種類のことです。原種はユニークで野趣に富み、その国や地域でしか見られないものも多く、交配種は園芸・栽培を目的とした、美しく鮮やかな花が一般的です。ランは種類が多く、似かよった花をつける品種がたくさんあるため、名前の表記を統一し、ラベルを見れば、原種か交配種かすぐわかるようになっています。

<ランの表示ラベルの読み方>

 

●原種のラベル

Cymbidium finlaysonianum

▲シンビジウム属 フィンレイソニアナム種

原種は、(種)名の頭文字が小文字で表記。

 

●交配種のラベル(RHS※に登録済み)

Oncidium Goldiana "Golden Shower"

▲オンシジウム属 ゴルディアナ種 "ゴールデンシャワー"

交配種は、(種)名の頭文字が大文字で表記。

また、" "で囲まれたのは「個体名」でニックネーム

のようなものです。

 

※RHSとは英国王立園芸協会で、『サンダース・リスト』発刊元。

未登録品種の場合は、○○×△△のように×印で組合せを表記。

<ランのタネは、どんなタネ?>

●園芸店の種子売場でもランのタネというのは見当たりません。しかし、ランにもタネはあります。ランの実を開けてみると、中にはタネというより細かい粉が詰まっているのがわかります。この何千何万のホコリのような粒子こそがランのタネです。

ランのタネがこんなに小さいのは、タネが芽を出すための養分を持っていないから。ランのタネは自力では発芽できないので、自然界にある「ラン菌」という菌に栄養をもらい発芽します。

そのためランは普通にタネを蒔いて増やすことが難しい植物とされています。

「ランには戸籍がある ?!

ランには、交配種(雑種含む)を登録・記録する国際的な戸籍簿『サンダース・リスト』(Sander's List of Orchid Hybrids)というものがあります。これは英国王立園芸協会(RHS)が出版しているもので、1906年に最初に発刊されました。名前のサンダーとは、ランの王様と呼ばれたイギリスのラン栽培家、サンダー卿のこと。彼の努力によって、すべての交配種のランの祖先までルーツを遡ることができ、このリストに登録された名前は全世界で通用します。このような交配記録システムはラン以外の植物ではありません。

もしも自分で交配し育てたランの花が咲いたら、この『サンダース・リスト』に登録申請することもできます。そして、過去に同じ交配の組み合わせが無く、希望する交配名がリストに無ければ、そのまま受理・登録されます。リストには新しい交配名と両親、登録者名が記録され、誰でも比較的簡単に申請(有料)できるのです。

■ シンガポールならではの原種のラン

シンガポールにも昔は200種以上のランが存在していたのですが、島の開発や環境の変化のために急速に姿を消し、現在はそのうちの数十種が残っているものの、その多くは個体数が少なく絶滅寸前です。そのうち、今でもよく見かける4種を紹介しましょう。

<バンブーオーキッド> Arundina graminifolia

東南アジア全体でよく見られるランで、平地から高地まで分布。

花は大きく約4cm〜8cm、丈は1m〜1.5mくらいまで伸びる。

葉や茎が笹みたいなことから、この名で呼ばれる。

<バルボフィラム> Bulbophyllum vaginatum

熱帯の低地に見られ、街路樹でもよく見かける。古い木の枝に

びっしりとマット状に生え、1年に2,3回クリーム色の花が咲く。

1つの花のように見えても実は15個くらいの小さな花の集まり。

<ピジョンオーキッド> Dendrobium crumenatum

街路樹でよく見かける、白い3cmくらいの花。

気温が急激に下がるとつぼみをつける性質があり、

晴れた日に激しいスコールが降ったりすると、つぼみをつける。

つぼみがハト(ピジョン)のような形。

 

<タイガーオーキッド> Grammatophyllum speciosum

株の大きさは世界一。シンガポールでは野生は絶滅したが、

植物園や公園などによく植えられている。虎模様の花も迫力!

株は成長すると2,000kgになることもあり、

花が咲いてない時の株は、

まるでランとは思えない形状。

国立ラン園(The National Orchid Garden)に行ってみよう!

シンガポール国立植物園(Singapore Botanic Gardens)内に1995年にオープンした「国立ラン園」。ここには国花バンダ・ミス ジョアキムをはじめ、1000以上の原種と2000以上の交配種からなるランをコレクションした、まさに世界最大級の屋外ラン園。交配種の色とりどりに咲き誇るランの美しさはもちろん、普段あまり見ることができない原種のランもたくさん発見することができます。

●入園料: 大人5ドル、学生・シニア1ドル

 (12歳以下の子供は無料)

●開園時間: 8:30〜19:00 (最終入場は18:00)

●住所:Singapore Botanic Gardens 1 Cluny Road (S) 259569

<ラン園にはこんな原種のランもある!>

小さいピンクの花が房のようになって、かんざしのように見える「Dendrobium secundum」(左)。唇弁(リップ)が逆さまになっていて、全くランには見えない「Encyclia fragrans」(右)。交配種の華麗なランもいいけれど、原種のランは素朴な美しさ!

シンガポール植物園植物ガイド

Singapore Botanic Gardens

 

自然友の会・ボタニックラバーズのメンバーによって制作された通称「ボタ本」。国立ラン園を含め、植物園全体のことがくまなく解説されています。植物園内ビジターセンターのショップ、日本人会のクラブショップで購入できます。(1冊$16.10)

 

<日本人会自然友の会>

代表:貞利 Tel: 67327737

毎月第2金曜日にコーヒーモーニング、第3金曜日に定例散策会を行っています。学校向けや日本人会会員向けのガイドボランティア等の活動も行っています。