前号に続き、シンガポールの貨幣について紹介いたします。

前回はコインについて紹介しましたので、今回はお札の歴史について見ていきましょう。

■ イギリス植民地時代

 

海峡植民地時代は、スペインやインドの通貨が流通していました。その後は、「イギリス貿易貨幣(Straits dollar)」と呼ばれる貨幣が流通しており、それらにはクイーン・エリザベスやジョージ5世の肖像画が描かれていました。

1940年に初めて造幣局により発行された紙幣(Malayan dollar)には、ジョージ6世の肖像画が描かれていました。いろいろな額面のお札が作られましたが、実際に流通したのは10ドル札のみでした。

Malayan dollar $1 (ジョージ6世が描かれている)

■ 日本統治時代

 

第2次世界大戦中の1944〜45年、シンガポールを占領した日本軍は軍票を発行しました。これは最も多く流通した10ドル札にバナナの木の図案がデザインされていたことから通称バナナノートと呼ばれています。バナナノートは、イギリス植民地政府発行の紙幣と比べて質が悪く日本軍は無計画に大量に発行したので、激しいインフレになったといいます。主に軍用の物資調達が目的で発行されたので、日本敗戦後、軍が撤廃すると同時にただの紙切れになってしまいました。

バナナノート $10

■ 第1シリーズ「 蘭」(1967年発行)

 

1965年の独立後、シンガポール独自の紙幣が初めて発行されたのは1967年です。オモテ面は全て蘭の花が描かれています。これは、シンガポール=ガーデンシティを意味するのだそうです。ウラ面には、イスタナやシンガポールリバーなど建物や風景が描かれています。10ドル札だけはシンガポールの地図の上で、4本の腕を組んだ図案になっています。これは「マレー系、中華系、インド系、その他の民族」がともに手を取り合う様子を象徴しています。この腕を組んだ図案は、1975年にシンガポール独立10周年を記念して発行された250ドル金貨にも採用されています。

さて、この第1シリーズのデザインテーマは「蘭」なのに、国花「ヴァンダ・ミス・ジョアキム」はありません。どうしてでしょう。答えは簡単です。国花が決められたのは1981年だからです。

また、第1シリーズにのみ25ドル札があります。第2シリーズ以降25ドル札は記念紙幣を除いては、作られませんでした。それは、計算がしにくく、間違いが多かったからだそうです。

全シリーズとも最高額は10,000ドル札ですが、これは世界最高額紙幣です。

 

 

■ 第2シリーズ「鳥」 (1976年発行)

 

1976年に発行された「鳥」シリーズは、オモテ面にいろいろな鳥がデザインされています。これは「展翅高飛」  翼を広げて高く飛ぶ、転じて、大躍進するという意味の中国語  の願いが込められています。ウラ面には、ナショナルデー・パレードや、チャンギ空港など、シンガポールの特色ある風景が描かれています。

第1シリーズで不評だった25ドル札は消え、代わりに20ドル札が登場しています。

アルカフ橋

■ 第3シリーズ 「船」 (1984年発行)

1984年に発行された第3シリーズのテーマは「船」です。シンガポールは国際貿易都市で、昔から船を使って物資を運び、物を売り買いしていたことから、「船」が採用されました。

写真をよく見てみると、第2シリーズではオモテ面(鳥の図案の背景)に、第3シリーズではウラ面に、国の花である蘭が描かれています。特にこの「船」シリーズのウラ面に描かれた蘭は、どれも国花「ヴァンダ・ミス・ジョアキム」です。

この「船」シリーズでは、20ドル札が消え、代わりに2ドル札が登場しました。この2ドル札は、チャイニーズニューイヤーの時、日本でいうお年玉にあたる「紅包  ホンパオ、アンパオ」にも使える紅色でしたが、10ドル札と色が似ているため、間違いが多く、後に紫色版が発行されました。ふだんは紫色を使い、「紅包」には紅色を入れるように使い分けたのだそうです。

ところで、この2ドル札にデザインされている帆船は「同康船(トンカン船)」といい、19世紀初頭、マレー諸島の河川を通って貨物を運搬した船です。LRTのトンカン駅は、トンカン船にちなんで名付けられました。また、ロバートソン・キーにあるアルカフ橋(阿?夫橋)は、トンカン船を模して建設されています。

■ 第4シリーズ「ポートレート」(1999年発行)

1999年9月9日に発行された第4シリーズは、現在もっとも流通している紙幣で、オモテ面は全て初代大統領のユソフさん(Yusof Bin Ishak)の肖像画です。ユソフさんは、初代大統領になる前はとても優秀な記者だったのだそうです。1970年に60歳で亡くなりました。

第4シリーズは、発行当時全て紙に印刷されていましたが、2004年5月から、使用頻度の高い紙幣を長持ちさせるため、2ドル、5ドル、10ドルに防水力の強いポリマーお札が加えられました。これらは初め、オーストラリアで印刷されていたのだそうですが、現在どこで印刷されているかは国家機密となっています。

第4シリーズのもう一つの特徴は、10,000ドル札のサイズが全シリーズの中で最も小さいことです。

新紙幣を発行するたび、偽造防止技術も進歩しています。現シリーズから一つだけ紹介しましょう。オモテ面の上にシンガポールと4カ国語で書かれていますが、そのすぐ上に横線が引いてあります。この横線をルーペなどで拡大して見ると、なんと文字が書かれているのがわかります。ぎっしりスペースを空けずにアルファベットが並んでいます。

 

 

■ お札を巡るあれこれ

◇ポリマーお札

 

第4シリーズで採用されたポリマーお札ですが、実はもっと以前に記念紙幣として発行されています。1990年8月9日に発行された50ドル札です。

 

 

◇ 紅いスタンプ

 

博物館に展示されている第4シリーズの2ドル札には、右上と左下に紅いスタンプが押されています。しかし、私の財布に入っている2ドル札にはこのスタンプはありません。これは、ミレニアム2000年に発行された2ドル札限定です。みなさんはお持ちですか。

◇ 25ドル札 再び

 

融管理庁)設立25周年を記念して発行されました。

◇ ブルネイと

  シンガポール40周年

シンガポールとブルネイのドルは等価ですから、シンガポール国内でもブルネイのお札を使うことができます。交換レートを等価にした1967年から40周年を記念する紙幣が2007年に発行されています。

■ こんな使い方も…

華人の商店で、代金を計算する計算機に1ドルや5セントコインを貼り付けているのを見たことがあるでしょう。1ドルも5セントも金色で幸運を表します。商売繁盛の縁起担ぎです。

シンガポールのマレー系の人々の結婚式では、5ドルや10ドル札を扇子のように折り、花を添えてコサージュを作ります。新郎方が新婦方のために用意し、新婦方の招待客に贈るのだそうです。また、日本でいう仲人にあたる人にもこのコサージュを付けてあげるのだそうです。

お札の折り紙というと日本では「ターバン野口」が有名ですが、それを応用すれば「ターバンユソフ」もできるってご存知でしたか?

(文責 上田恵/紺野芳子)