クリケットがシンガポールに伝わったのは、シンガポールがイギリスの植民地だった頃のことで、今もイギリス連邦諸国では絶大な人気を誇ります。特にインドでは、男子の夢はクリケット選手、女子の夢は女優といわれ、国民的なスポーツとして親しまれており、ここシンガポールでもインド系の人々を中心に人気があります。
 日本での競技人口はおよそ1500人と少ないのですが、先日、行われた全日本女子代表vsシンガポールの強化親善試合では、第1戦、2戦とも日本がシンガポールに圧勝しました。

◆ クリケットは世界のスポーツ

17世紀以降、大英帝国の世界的な領土拡大にともない、クリケットも世界中に拡がりました。日本クリケット協会によると、サッカーに次ぐ世界第2位の競技人口を持ち、100以上の国と地域でプレイされているそうです。

◆ クリケットファッション

白い襟付きシャツに白いスラックスが基本的です。女性はキュロットなどを着用します。白は公正さの象徴とされ、膝当てもグローブも白です。帽子は白いハットか、ハンチング帽ですが、ハンチング帽に限り、チームで色さえ合わせば、色つきでもかまわないことになっています。
 国別の公式試合などでは、選手はブレザー姿で現れ、試合後もブレザーを着て、クリケットバーで敵味方なく紅茶など飲んで、その日の試合を振り返り、たたえ合います。

◆ クリケットのルール

シンガポールでクリケットというと私たち日本人は、パガン・パークの隣にあるクリケットクラブを想像するかもしれません。確かに、紳士・淑女のスポーツであるクリケットは本場イギリスでは、名門校の必修科目であったり、名選手は「Sir(貴族)」の称号が与えられたりと高級で優雅な雰囲気が漂います。しかし、もっと身近に楽しめるスポーツでもあります。


インディアン・アソシエーションチームの皆さん

○ ガーデニングの国生まれ 一面芝の競技場
 クリケットの競技場は一面芝で埋め尽くされ、オーヴァルと呼ばれます。大きさはチームの人数やレベルによって変更できます。オーヴァルの中心には長方形の芝のないピッチがあります。ピッチの両端にウィケット(3本の棒の上に2本の棒を乗せたもの)があります。
○ チーム構成(同時に配置につける人)
○ 攻めるチームがすること(倒せ、ウィケット!)

 試合はコイントスで、攻守を決めて始まります。
 ボウラー(投手)は片方のピッチの端(ウィケットを刺してあるところ)から、もう片方の端のウィケットめがけてボールを投げます。ウィケットを倒すことがねらいです。(図1)
 ボウラーは、続けて6球まで投げることができ(1オーバー)、投げ終わるともう1人のボウラーと交代し、自分はオーヴァル内で守備につきます。ウィケットキーパー(捕手)は反対側に移動します。(図2)
 次のボウラーは反対側のウィケットから6球投げます。ボウラーは最低2人は必要です。倒したウィケットの数はスコアに記録されます。(図3)

○ 守るチームがすること(守れ、ウィケット!)
 バッツマンはバットを持ってウィケットの前に立ち、敵から投げられたボールを打ち返すことで、ピッチの両端にあるウィケットに当たるのを阻止します。

○ 攻守が反対のような・・・
 つまり、攻める側はボールでウィケットを倒し、守る側はバットでウィケットを守っています。野球とは攻守の概念が反対です。ボウラーはバッツマンに打ちにくくさせるため、ワンバウンドで投げます。バッツマンは、ボールがウィケットに当たったらアウトで、退場し、次のバッツマンと交代です。

○ ボールが打ち返されたら・・・
倒せ! ウィケット…攻める側
 バッツマンがボールを打ち返したら、オーヴァルの中にいる野手たちは、ボールを拾って、ピッチに向かって投げます。ねらいは、2つ。
・ウィケットを倒すこと
・バッツマンのランを止めること

かせげ! ラン…守る側
 点数は「ラン」という単位で数えます。
 バッツマンがボールを打ち返したら、2人のバッツマンはお互いに反対側のピッチに向かって走ります。2人ともが無事に反対側のウィケットまでたどり着けたら1ラン。往復すると2ランです。1人だけが走っても点にはつながりません。つまり、守備側に点数が入るのです。
 おもしろいのは、野球と違って、ボールが360度どこに向かって飛んでいっても、2人のバッツマンはピッチの間を何往復してもかまいません。打球がすぐ近くに転がり、すぐに返球されそうなら、バッツマンは走りません。打ったら必ず走らなければならないというルールはありません。バッツマンの仕事は「ウィケットを守る」ですから、空振りしてもボールがウィケットに当たらなければ問題ありません。何度空振りしてもOKです。

 

○ 攻守の交代は(10アウトチェンジ)
野球を知っている私たちは、「何度空振りしてもよい」「打っても走らなくてもよい」これではアウトにならないよ!と思いますね。
バッツマンがアウトになるのは、おもに次の3つです。
1. ボウルド…空振り、あるいは見逃したボールがウィケットに当たり、ウィケットが倒れる。
2. コウト…打ち返したボールが、オーヴァルにいる野手にノーバウンドで捕球される。
3. ランアウト…打ち返したボールが、返球され、バッツマンがピッチの端に辿り着かないうちにウィケットに当たるなどして、ウィケットが倒れる。
こうやって全員のバッツマンがアウトになるまで続きます。1チーム11人ですから、10人目がアウトになると次のコンビになるバッツマンがいませんから、ここで攻守交代、つまり1イニングは10アウトまでです。

○ ティータイムやランチタイムが入るスポーツ!?
 なかなかアウトにならない上に10アウト交代ですから、1回目の攻守交代(10アウトになるまで)まで半日から1日かかります。伝統的なルールでは、2イニングマッチですから、最大5日間かかります。
これでは時間がかかり過ぎるので、ワールドカップでは、ワンディ・マッチといい、50オーバー(300球)の1イニング制が採用されています。それでも長いので、途中で紅茶を飲みながら談笑したり、ランチタイムを過ごしたりします。クリケット場にはバーやラウンジが併設されているところが多くあります。勝敗よりも社交を重んじ、優雅でまったりとした時間が流れます。
試合後は、アフタークリケットといい、バーなどで選手や観戦者、家族などが集まり、その日の試合の健闘を称え合います。“It’s not cricket.”(それはフェアではない。)クリケットの発祥国、イギリスのことわざです。きびしいフェアプレイの精神に基づいて、選手たちは行動しています。

○ 詳しくは・・・
 もっと詳しく知りたい方は、日本クリケット協会のホームページなどをご覧ください。

 

◆ クリケット in シンガポール

実際にクリケットを観戦するにはどこに行ったらいいのでしょう。週末に競技場に足を運んでください。毎週の大会や競技のスケジュールが、ストレイトタイムスのスポーツダイアリーに掲載されています。シンガポールには、16のクリケット専用競技場があります。セイロン・アソシエーションやその隣のインディアン・アソシエーションには、それぞれオーヴァルがあり、クリケット・バーもあります。道端から観戦することもできますし、バーを覗いて声をかければ、歓迎してくれます。
 シンガポールの競技人口はおよそ6000人(シンガポール・クリケット協会)で、多くはインド系です。
選手はいろいろなクラブチームに所属しています。プロクリケット・チームはありませんが、アマチュアのクラブチームでは、海外から有能な選手やコーチを招いて強化を図っています。国内リーグには105チームが所属し、シーズン中約900ゲームが行われます。
 2012年2月に開催されるワールドクリケット5部リーグのホスト国となっているシンガポールは、4部リーグ昇格を目指しています。

◆ クリケットの魅力

 シンガポールクリケット協会ではクリケットのお勧めポイントとして次の10点を挙げています。
人格形成、行動規範、チームワーク、チーム作り、絆、尊敬、ルールに従ってプレーする、相手を尊敬する、紳士的な行動、フェアプレーが基本であること。そして、クリケットの大きな特徴として挙げられるのは、試合後、対戦相手と酒を酌み交わし、互いの健闘を称え合い、友好の輪を広げていくことでしょう。

◆ クリケットがしたくなったら・・・

シンガポールクリケット協会で、参加できるクラブチームを探してみましょう。子ども用の講座のあるクラブもあります。日本は近年、クリケット人気が高まっています。
シンガポールクリケット協会では、「日本は野球が盛んなので、共通点が多いクリケットのレベルアップは難しい事ではない。」と分析しています。事実、全日本女子チームは昨年、ワールドカップ東アジア・太平洋地域予選で初優勝し、最終予選の出場権を手にしました。最終予選は、11月14日からバングラデシュで開催されました。この「南十字星12月号」が皆さんの手元に届く頃には、結果が出ているはずです。
 日本と違って、クリケット用品の入手も困難ではありません。
チームを作りたいという希望があるなら、クリケット協会は協力を惜しまないと意欲的です。
 近い将来、日本人会クリケット大会(!)でローカルチームと対戦し、紅茶を飲みながら談笑するような日が来るかもしれません。


(文・写真 上田 恵)

取材協力 Singapore Cricket Association
 VP Mohanavelu Neethiananthan氏
 Indian Association
 翻訳通訳協力 牧野奨


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