March 2011
3月18日をもって、日本人会クリニック心療内科を退職いたします。後任は、日暮真由美医師が担当いたします。10年の永きにわたり、皆様に日本人会クリニック心療内科を支えていただきましたことを心から感謝申し上げます。医師として診療に対する責任を負うものでありますが、皆様が与えてくださった温かい言葉が、どれ程診療に向き合う肯定的力を与えてくださっていたかを、思わずにはいられません。
言葉の力
不惑の年になりましても、「人から頂く言葉」で、心持ちがこのようにも変わるものかと、我ながら呆れる時もあります。人から厳しい言葉を頂けば心落ち込み、時に発奮し、温かい言葉を頂けば、伸びやかな充足感を感じるものです。
「鈍感力」という本が過去にベストセラーになりましたが、自分に向けられる厳しい言葉には、なかなか鈍感にはなれません。最終的には自分を強くしてくれる言葉であったとしても、その言葉を聴いたときには、実に苦しい気分になります。人の心とは、単純で弱いものです。人への攻撃的な言葉は、人を強く傷つけるものであると自覚しなくてはなりません。
逆もしかり。肯定的言葉を多く掛けられるようになると、自己の力を過大に思い込むようにもなってしまいます。自分の地位や経験が上がった時には、要注意。頂く賛辞が、自分の役職に向けられたものである時も少なくないからです。
人は人と生きる
「自分は人と必要以上に交わりたくない」と明言される患者さんに出会います。海外生活を孤高の人として、コンドの中に篭城するように生活している方もいます。その生き方が、良い悪いということではありません。このような生き方を貫く人でも、半強制的にPTA活動に引っ張り出され他者と共同作業を行ったり、気持ちを伝え易い友人ができたりすると、精神的に一段階安定した状態になる事が経験されます。
仕事や主婦同士の人間関係で無理したお付き合いが続くと、家庭に戻って気を緩めた時に、家族にイライラが向けられてしまいます。これは、老若男女共通です。人間関係の中で「自分の居場所」を見つけ出すことは、とても大切なことなのです。でも、そのためには、自分から少し外の社会(他人)に働きかけることも必要です。何かの会に参加してみる・ゴルフやお茶を一度はお誘いしてみるなど、人と交わる機会を持とうとすることは出会いの機会を広げます。まずは「挨拶」、次に「お誘い」。その先は「共同作業」。こうやって、人として価値観を共有できるか、お付き合いを深めて行けるのか、「お互いの関係を確認しながら進む」しかないようです。
人を諦める
長い人生の間で、皆さんは「すべての価値観が自分と一致している人」に出遭ったことがありますか?自分と全面的に価値観を分かち合える人に一人でも出遭えたなら、あなたは大変に幸運な方です。
学生の時は意気投合していても、お互いに結婚したら、話がずれる。社会人になったら、キャリアの積み方や価値観がずれる。会社での取り組み方は一緒でも、子どもの話は出来ない。人生のどの時期・どこで出会うかで、人間関係は大きく違ってしまうものです。例えば、同時期に来星した同士。シンガポールの話・ゴルフの話・一時帰国の話・旅行の話。ベースにある共同体験を基に、大いに盛り上がりますが、さて、この人が、自分にとても合う人か?と冷静に分析すると、意外と、「この時期に出遭わなかったら、ここまで親しくなれなかった」タイプの人ということは、よくあります。出会いには、「偶然」の要素も大きいようです。
他人の中に見える自分との違いを、大きな違和感と捉えすぎると、誰とも付き合うことが出来なくなってしまいます。他者と自分の違いを受け入れることは、人付き合い成功の大きなポイントです。
自分を受け入れる周囲に感謝
自分自身も、実は周囲に不協和音を産み出しています。自分がどんなに理論的に正しくても、正しいことを強く押し通せば、不協和音となるのです。人間というものは「自分の在り様」を簡単に変えることは出来ません。他人の在り方の間違いを指摘し、注意し、態度を改めさせようとすることは、夫婦の間ですら、非常に難しいことなのです。
「自分から見えている他者」と同じように、自分も色々な葛藤を生み出す存在であることを忘れてはなりません。そんな自分を理解し、受け入れようとする家族や友人、同僚に感謝の気持ちを忘れないことは重要です。
以心伝心もいいけれでも、言葉を大切に
特に日本人男性は、口下手だと言われます。「当然の気持ちだから言わない」は、少し損をしているかもしれません。先日、ビートたけしさんが高倉健さんのことを語るテレビ番組を拝見しました。「健さんの映画に出演するために、(ある)駅に降り立ったら、改札に花束を持った健さんがいるんだよ。『僕の映画に出てくれてありがとう』って、花束渡されちゃって。男なのに惚れちゃったね。」沢山の言葉は必要ないようです。大事な人には、思いの詰まった一言を忘れずに。「大事だよ。」「ありがとう。」「ご苦労様。」そんな言葉は素敵ですね。
長い間、ありがとうございました。皆さんの益々の輝きを、遠く離れても願っています。