日本とシンガポールの医療制度には大きな違いが見られます。その一つはシンガポールには国民健康保健が無いことです。その代わりに、Medisaveと呼ばれる強制的な医療積立金制度があります。シンガポールの労働者には毎月給料の6%から8%まで、年令によって率が変りますが、積立が義務付けられています。

 義務化された積み立てはCPF(中央積立基金)と呼ばれていますが、CPF局がこの積立金を管理しています。労働者は一人ひとりCPF局に自分の口座を持っています。私も自分の口座を持っています。この積立金は全額私のもので、他人は使えません。更に正確に言いますと、私か或いは家族の者が病気で入院をした時以外は使用することはできません。

 例えば風邪をひいて病院に行った時は、自分で診療費を負担しなければなりません。しかし外来診療の料金はたいへん安く設定されています。ここにはPolyclinicと呼ばれる政府の経営する外来用クリニックがあります。そこでの診療費は8ドル、約500円です。風邪や腹痛と言った病気なら、薬代を入れても700円とか800円で済んでしまいます。そして65歳以上の年配者と子供はその半額です。日本の診療費は健康保険が診療点数を決めて、料金が一定ですが、シンガポールでは診療費が一律ではありません。市場原理に任されています。Polyclinicは診療費が安いですが、質の高い、良いサービスを受けたければ、プライベートのクリニックに行って治療を受けることもできます。そこですと診療費だけで5,000から10,000円かかります。薬代を含めれば2,3万円かかります。

 入院費用も1泊2千円の安い病室から2、30万円のものまで多様です。最低必要な治療のみを提供する医療ケア-がある一方で、高いレベルのサービスを求める患者は高い費用を払えば、一流ホテルと見間違うようなサービスも受けられます。シンガポールは近隣諸国の有力者、皇室にも医療サービスを提供しています。

 入院が必要になる場合は、CPFを使います。しかし労働者が全員、入院費用全額を賄うのに十分な積立金を持っているわけではありません。低所得者は積立額が小さく、大病をして入院したら、積立金は忽ちの内に枯渇してしまいます。そこでこれをカバーするために医療保健制度を設けています。Medishieldと呼ばれる保健で、これも強制です。入院したらまずは、自分の積立金を使って、それで賄いきれない場合には保険を利用することになります。この2つの制度の組み合わせで入院費を賄っています。

 低所得者が入院した時には費用の70%まで国が補助金を出しています。また外来診療では1ヶ月の家族収入が7万円以下の低所得者には無料診療を提供しています。貧困者に対するセイフティ・ネットはいろいろな形で設けられていて、最低必要な医療は保障されています。

 しかしシンガポール政府は福祉国家にならないと明言しています。経済発展を海外からの投資に頼っていますので、法人税や個人の所得税を低く押さえています。ですから、自分の身は自分で守る、健康管理は個人の責任の下で行う、と言う原則を長年の間貫いています。政府による手厚い福祉はシンガポール経済を破綻させてしまう考えて、政府は警戒をしています。